56 勇者と魔王と大掃除
魔王「ふぃーっ。魔王城の掃除も大方、終わったな」
側近「雑巾がけもしましたし、ワックスもかけましたしね」
部下A「わぁ! 見てください魔王様! タンスの裏で10円拾っちゃいましたよ♪」
魔王「……俺なんか、地下通路に迷い込んだ冒険者の死骸、発見しちゃった……」
側近「あー。(眉をひそめて)あります、あります。連中、どこにでも入り込むんですよね」
魔王「カラッカラに、ひからびてたよ。南無阿弥陀仏」
側近「……で、魔王様。この新しい、まさにできたてホヤホヤの、冒険者どもの死体はいかがなさいますか?」
側近の視線の先には、折り重なった多数の冒険者たちがーー
魔王「あーあ。ゴミ回収ドラゴンがもう飛んでっちまったからなあ……。新年まで、コノママかなあ……」
側近「……さすがに嫌ですね。むせかえるような血臭の中で紅白歌合戦を見るだなんて」
部下A「側近様。歌合戦、見るんですか?」
側近「たとえですよ。わたくしは、スライドグラスに載せたもやしの薄片を顕微鏡で眺めて年を越すつもりです」
部下A「わー……。ミトコンドリアとか、バッチリ見えちゃいそー」
側近「細胞核と細胞壁も見えますよ」
魔王「う~ん。ゴミ集積所にコッソリ置いてきちゃおかなぁ」
側近「ふん。実にあなたらしい、姑息で卑怯な振る舞いですね。わたくしなら、城壁から吊して干しますよ」
部下A「カラスについばまれそうですねー」
勇者「おーっす! 大掃除終わったー? 入り口に角松、飾ってんじゃん。しめ縄もあったし! なんか、いよいよ正月が来るなって感じだよな!」ワクワク
魔王「おお。勇者じゃん。今、みんなでこれどうしようかって話合っててさ」
勇者「ああ。冒険者ギルドで募集かけてた、『年末大掃除大作戦』に参加したひとたち? ひでーな。誰も生き残ってないじゃん」
側近「……大掃除の最中に踏み込んでくるからですよ。我々だって、慈善事業で人間界制服を企てているわけではありませんからね。というか、掃除をするそばから泥靴で足跡を付けられたら、あなただってこうするのではないかと思うのですが……」
勇者「……うーん。人類に残された最後の希望としては、ノー・コメントかな。あんまり迂闊なこといったらまずい気がする」
魔王「……ほう? 貴様にしては、慎重な姿勢だな。少しはオトナになったということか?」
勇者「ちげーって。俺さー、新年つったら、餅つきじゃん? あれ、すげー楽しみにしてるわけ。王様に睨まれて新年の餅つきができなくなったら嫌だからな」
側近「……ふん。あなたも、自分の行動の結果をおもんぱかることができるようになってきたというわけですね。……っと、そうだ。まだ鏡餅を飾っていませんでした。魔王様の玉座に代わりに座らせておきましょう」
勇者「魔王城の最奥に鏡餅(笑)」
魔王「ラスボスは、紅白歌合戦で派手な衣装のあの人だな」
側近「『年越しそばを食べたくば、わたくしを倒してからにするのですね!』」
勇者「除夜の鐘を聞きつつ、みんなで寒い中、靖国神社に向かう」
魔王「……なんで、よりによってヤスクニなのだ……」
勇者「ユーラシア大陸の東端の半島の真ん中あたりで、某国の国旗を凧にして揚げる。ーーああっ! 38度線を越えてしまうッ!!」
側近「ーー人間どもは、不可思議な理由で殺し合ったりしますからね」
勇者「んー? ほら、人間って、なんかね。やっぱり、生きてると、何か善いことしたいって、思うわけ。で、何もすることないと、寂しいじゃん? だから余計なおせっかい焼くんだけど、それが時々、マジで余計なお世話だったりするんだよな。」
魔王「ああ、あるある。目玉焼きに勝手にソースかけられたりな」
側近「? 目玉焼きには、もやしでしょう?」不思議そうに
部下A「僕は、塩ですねー」
勇者「ひとりになりたい。放っておいてほしい。ーーそういう気分の時もあるけど、それを許してくれないのが、国際関係ってやつだな」
魔王「……ちょっと俺、鎖国してくるわ」
側近「魔王様っ!? 来年は、除夜の108つの鐘が鳴り終えると同時に、ドラゴンを主にした強襲部隊で、各地の要所に同時攻撃をする手筈では……、あ。」
勇者「ん?」
勇者「そんで、爆竹鳴らして騒ぐんだろ? 魔王軍もなー。毎年毎年、よく飽きないと思うよ」
魔王「……ちっ。よもや、勇者に感づかれていようとは」
勇者「……おっと。俺も、借りてる宿屋の掃除でも手伝ってくるかなー。んじゃな、魔王! 一緒に初詣行こうぜ!」
魔王「……あー、うん。……来年もよろしく」
勇者「♪」
鼻歌をうたいつつ、勇者は魔王城から去っていった……。
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