52 映画館では静かにしましょう!?
『映画館では静かにしましょう!?』
スクリーンの中で手を取り合うのは美男と美女。
美女『男……! ずっと、ずっとお慕いしていました……!!』
美男『……わかっていました。ですが、わたくしはこのようにもやしだけが取り柄のつまらない男……。あなたのような、暗殺格闘術と毒殺に長けた素晴らしい女性に釣り合うような男ではないのですッ』
美女『釣り合いのことなど……。お気になさらないで。わたくしが男を養いますから!』
美男『ああ、美女……!』
美女『愛しています、美男……!!』
……ぼりぼり、ぼりぼり。
魔王「あー、うま。イチゴ味のポップコーンとか考えたヤツは天才だな」
勇者「どうでもいいけど魔王! 俺のポップコーン食うなよ!」
魔王「……あ? 何で? いいだろ別に。オマエのものは俺様のものなんだよ。大日本帝国憲法第一条にも書いてあんだろ。『天皇は、神聖にしてオカスヘカラス』って」
勇者「どっこにも書いてねぇじゃんか。バッカじゃねーのお前? ジャイ○ンみたいなガキ大将なんてなぁ、21世紀のこの国にはもう存在してねーのよ。第一、大日本帝国憲法って、効力失ってんじゃん。」
魔王「はびこるのはイジメと汚職……。東北の大震災が起きた日に政治家が何言ったと思う? 『この期に政権交代を』だよ。俺、もう政治家は○ネと思ったね」
勇者「あんだけぐらぐら揺れてなぁ。電柱とかもう、オマエに何のウェーブが来てんだよってレベルで左右にシェイクしてたよ」
魔王「……あ、映画が進んでるな」
勇者「やっべえ、金払って入場しといて見るの忘れてたよ」
美女『側近様……っ! わたしともやしと、一体どちらが大切なのですか?!』
美男『もやしです』
勇者「うっわ、言い切ったよこのボリウッド俳優」
魔王「ボリウッドてのは、インドはムンバイの映画な。」
勇者「日本で見るのはけっこうたいへんな気がする。」
美女『わかって……いました。わかっていたのに……! わたしはそれを許せなかった……っ!』
勇者「おー、美男が物言わぬ死体になっちまった」
魔王「美女よりもやしが大切だとか言い切るからだ」
勇者「そもそも『もやし ~愛ゆえに~』ってタイトルは誰が見るの? シニア層狙い?」
魔王「そうじゃねえ? どうでもいいけど、さっきから誰かが俺の座席を背後から蹴っているのたが」
勇者「(ひそひそ)魔王を暗殺に来た人じゃね? お前、相手してやれよ」
魔王「やだよめんどくせえ。今、映画が良いところなんだよ」
ドンドンドン!!
女性「お前らさっきからうるさいんだよ! 映画くらい静かに見れねえのか!」
勇者「……あ」
魔王「すまぬな。そなたの美麗な鎖骨に免じて、今日のところは静かにしてやろう! フハハハハハハ!!!」
観客「(うるせえ……。)」
☆
勇者「というわけで俺たちは映画を見てきました」
魔王「いくらテレビがでかくなっても、映画館で見るって何かトクベツだよね」
勇者「ポップコーンとかな」
魔王「ポップコーンとかね」
部下A「ポップコーンをご用意しますから、戦争映画でもご覧になります?」
魔王「やだよ。戦争映画とかこえー。人が死ぬやつってどうなの? アレが血糊だと判っててもビクッとするわー」
勇者「血糊に怯える魔王(笑)」
部下A「だからアレですか。骨も残さず消し炭にするんですか?」
魔王「あったりまえだろ。俺さー、赤いのとかダメなのよ。トマトなんて怖くて食えない」
勇者「俺の来てる赤Tシャツは?」
魔王「ガリバルディの赤シャツ隊を思い出すな」
勇者「世界史マニアしか知らんだろそんなもん」
魔王「……そうか。勇気ある素晴らしい人間どもだった」
勇者「まるで会ったみたいな口振りで話すな。」
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