5 冷やし勇者始めました。
みーん みんみんみーーん
みーん みんみんみーーん
夏休みの登校日。生徒たちがほとんど下校した教室に、ふたりの生徒が残っていた。
「魔王は来年どうすんの。じゃあやっぱ、進学組? 四大とか行くわけ?」
空は、青い。彼は窓枠に頬杖をつき、入道雲を見上げた。
「どうすっかなあ。実家は零細企業でさ」
「何してんの?」
勇者が尋ねる。校庭のふちに植えられたカエデの樹影が、濃い。光のまぶしさに、ふたりは目を細めた。
「魔王業。ちょっと人間どもを脅して金品や命を巻き上げる、立派な仕事だよ」
「・・・誇り、持ってるんだな」
つぶやくように、勇者は言った。
「ああ。小さいとはいえ、老舗だ。オヤジや爺さんが守ってきた伝統の破壊方法、いくら世の中が変わったって、俺は大事に守り続けて見せるよ」
「すげえな。俺ん家なんかフツーのサラリーマンよ。勇者ってやつ? 生きる分には苦労しないけど、夢はないよね・・・」
「サラリーマンか・・・。いいじゃん、安定してて」
「いやー、今の時代、分かんないよ。脱勇者して喫茶店とか始める連中もいるし。」
◇
ーー3年後。他の学生たちは皆、就職活動に精を出し始める頃だ。
「なあ、お前は就職とかしねぇの?」
どこか見覚えのあるような夏の日、空いた講義室の窓際で、勇者は尋ねた。
「・・・は?」
「何間抜けなツラしてんだよ。就職だ、就職。今時、魔王ってだけじゃ食ってけないだろ」
「いや、そんなことはないが・・・」
講義のテキストを、見るともなし、ぺらりとめくり、魔王はその上に視線を落とす。勇者が揶揄するように言った。
「第一、どっかからギャラ出てんの? 大変だよねぇ、魔王様ってのも」
「お前だって似たり寄ったりではないか。勇者だ英雄だタケノコだと人間どもに持ち上げられて、公務員並みの給料で危険手当も出ない」
「それはさ、まーー何つーの、あるじゃん。ロマンがさ。それがあるから、俺もがんばってるわけ」
「・・・ほう?」
「ロマンだよ、人類の期待を一身に背負ってるんだ。--負けられない、負けちゃいけない。俺はーー必ず魔王を倒すよ」
「へえ?」
魔王は剣呑な視線を投げて目を細める。
「ならば今ここで引導を渡してくれようか、勇者よ」
「遠慮しとく。学食閉まっちゃうじゃん。あと15分しか開いてないんだぞ。かけそば、食べ逃しちゃうじゃん」
「俺は事務室寄ってくよ。奨学金の書類出さないと」
「おう、じゃあな、また明日」
「また明日」
◇
勇者Lv.30「というわけで、勇者です」
魔王@酒場「ども、魔王です」
勇者「ふたりあわせて・・・」
勇者・魔王「「永遠のライバル!!」」
勇者「・・・、いや、待て。ライバルだったら2人合わせたらまずいじゃん。競い合わないと」
魔王「おー、それもそうね。じゃあ、どうする?」
勇者「2人殴り合ってーー」
魔王「永遠のライバル!」
勇者「--うん」
魔王「よし」
勇者「ま、それはさておいて」
魔王「うむ。さておこう」
勇者「魔王ってニート? 就活とかしないの?」
魔王「何でだっ?! 魔王軍の最高責任者だろ、ニートと違うわ!」
勇者「え~、でもさ、実際することは椅子に座って偉そうに高笑いするだけじゃないの? つーか、窓際?」
魔王「バカにしてんのかバカ。よくふらっと城からいなくなって、不幸の種とか撒いたり人間どもの逃げ惑う様を見つめたりしてるだろ」
勇者「じゃあ婚活とかは? 家業なんなら、子孫いないとマズくね?」
魔王「あのな、俺は魔法生物なの。魔力でできてるの。分身作ろうと思ったら魔力を全部使わないといけないのーー死んじゃうじゃん」
勇者「何てこった。オマエ何が楽しくて生きてんの?」
魔王「そこまで言うかこのバカ。これだから人間というやつは大好きだ」
勇者「大好きなんだ・・・」
魔王「うむ、実に興味ぶかい。昨日も、地元で祭りがあったから顔を出してさぁ」
勇者「そんな庶民的な魔王嫌だ。」
魔王「美味かったなぁ。たこ焼きにカキ氷、わたあめ、お面・・・」
勇者「お面も食べたのか」
魔王「何っ? あれは食するものではないのか?」
勇者「普通の人は食べません。消化不良起こすだろ」
魔王「そうか。美味かったぞ・・・?」
勇者「ナチュラルに仮面●イダーのお面を俺にすすめるんじゃない! 食えるかバカ!」
あとがき
相変わらずぐだぐだです。ええ、彼には世界征服をたくらむ魔王を演じるという重要な役割があるのです。
読んでくださってる方がちらほらいらっしゃるようで、「魔王@酒場」は小躍りしています。…そうです、コサック・ダンスです。
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