39 腹筋六つに割れるかな?
勇者「魔王、俺は魔王城に何が足りないか考えてみた」
魔王「……む? 貴様、魔王城のエンターテイメント設備にまだ不足があるというのか?」
部下A「……そこはまず、軍備について考えましょうよ、魔王様」
勇者「魔王城に足りないもの、それはーーもふもふだ」
魔王「もふもふ……だと?」
勇者「そうだ、魔王。もしも、もふもふ好きの兵隊さんたちが攻めてきたらどうする? 今の魔王城などひとたまりもないぞ……」
部下A「……」
魔王「……そうか。じゃあ、大魔王様の所に発注しておくか」
勇者「なに? 発注とか」
部下A「今はどこもねー、オートメーションですよ。手作りなんてほとんどありませんよ」
勇者「……まじか。俺、魔物って家庭内手工業で生産されてると思ってた」
☆
勇者「魔王、六つに割れた腹筋についてどう思う?」
魔王「あー、あれはね~、憧れるよね」
勇者「……え?」
魔王「ん?」
ゆうしゃは、まおうに飛びかかった!
魔王「ぐぁあぁっ!? 何をする、勇者よ!!」
勇者「……やっべー、こりゃやべえ」
魔王「ぜー、はー、ぜー、はー」
勇者「どうするよ部下A! 魔王の腹筋が六つに割れてない!」
部下A「……いえ、僕も割れてませんけど……?」
勇者「なんだと!」ばばっ!
ゆうしゃは部下Aに飛びかかった!
部下A「きゃああぁあ!!?」
勇者「まじだー、割れてねー。こりゃやべーよ部下A。メタボで死ぬよ」
部下A「……なんで六つに割れてないとメタボで死ぬんです?」
勇者「そりゃあれだお前。腹筋は六つに割れてるのが普通だろ?」
魔王「いやいやいや」
部下A「勇者さんにとっては普通なのかもしれませんけど……」
勇者「あーもー! 超ショック~、魔王の腹筋が六つに割れてないなんてサイテー!」
魔王「……いや、うん。ゴメンね?」
勇者「よし、魔王、今日から毎日腹筋するんだ!」
魔王「なんでだよ。べつに六つに割らなくていいよ」
勇者「ダメだ! 世界中の冒険者がガッカリするに違いない。彼ら彼女らはなぁ、魔王の六つに割れた腹筋目指して旅をしているんだ! 嵐の夜にも、日照りの苦難にも立ち向かい六つに割れた腹筋を思い出して頑張るーーそれが冒険者ってものだ」
魔王「……聞いたことねーよそんなん」
勇者「冒険者の間では常識だからな。わざわざ口にすることもないんだ」
魔王「やだよ俺そんなん。面倒くさい」
勇者「じゃあせめて部屋中に、六つに割れた腹筋の写真を貼れ!」
部下A「あー、あれですね。日常的に目に触れさせることで深層意識に働きかけるっていう……」
魔王「……やだよ。六つに割れた腹筋が好きな人だと思われたらどうす……、何、早速貼ってんだよ、こら、勇者っ!?」
部下A「あ、僕も手伝いますよ、勇者さん」
勇者「おお、悪いな部下A。さあ、玉間を六つに割れた腹筋のポスターで埋め尽くそう!」
部下A「おー!」
魔王「……。」
☆
勇者「最近はあったかいね」
魔王「初夏だしなぁ」
勇者「薄着になるとさー、二の腕の肉が気になっちゃって」
魔王「……いや、そんな話題を振られても困るのだが」
勇者「……まじで? 魔王は腹の肉とか気にならない? いいなー」
魔王「ついさっきまでお前、腹筋六つに割れてる発言してたじゃん」
勇者「二の腕は別! あれはねー、ヤバいよ、まじヤバい。気を抜くとすぐたるたるになっちゃう」
魔王「……ふむ。そういうものか?」
勇者「ほら触ってみてよぷにぷにしてるだろ?」
魔王「……触らすな馬鹿者」
ぷにぷに~
☆
勇者「なー側近~、俺とガールズトークしねぇ?」
側近「ヤですよ。なぜ、人間などとなれ合わねばならないのです」
勇者「……側近、ムネでかいね。揉んでいい?」
側近「……本当に人間族の娘たちはそんな会話をするのですか?」
勇者「どうかなー、俺ほら、ずっと旅してるからなぁ。あんまりそういう機会、なくて」
側近「……なるほど」
勇者「ガールズトークらしい会話ってどんなんだろ。今日の株価とか、首相の発言とか?」
側近「わたくしが知るハズないでしょう! ーーもう」
勇者「あれだよ側近。魔王の弱点について話そうぜ」
側近「だから、人間ーーそれも勇者となれ合うつもりなどありません」
勇者「今日の下着、何色?」
側近「白……ってそうではなく!?」
勇者「側近の好きな食べ物……あ、」
側近「当然、もやしですね。あのシャキシャキした歯ごたえ……、そこはかとない甘味……はぅ、たまりません……ってそうではなく!?」
勇者「側近の好きな人は?」
側近「嫌いな相手なら魔王様ですが」
勇者「ガールズトークって難しいな……、話が全然弾んでる気がしない」
側近「わたくしは世界征服で忙しいのですよ、魔王様と違ってね。では失礼しますよ」
勇者「かっ……、可愛くねぇ! 側近可愛くねぇ! 絶対あれだ、学級委員とかしてたタイプだ!!」




