36 勇者と魔王と、かしわ餅
風薫る五月!!
魔王城のみんなも浮かれて人間界征服をがんばっています。
ですが、頑張っていないひともいます。
勇者「春だね」
魔王「春だな」
勇者「見ろよこの桜餅の山! 絶景だろ?」どどーん!!
部下A「何してるんですか勇者さん……」
勇者「昨日の夜中にふと思い立ったんだ。ーーよし、明日は魔王に桜餅を食わそう。それでね、母さんに電話して材料を揃えて、ケータイ片手に仕上げたよ桜餅5000個。」
部下A「ごせんっ!?」
勇者「さあ、食え、魔王。まだまだまだまだまだまだ、いくらでもあるぞー♪」
魔王「……う、うむ。ありがたい。空から人間どもの住む町にばらまくとしよう」
勇者「何故だ!? 俺の作った桜餅が食えないのか、魔王!?」
魔王「いくらなんでも三食桜餅は、なぁ。胃がもたれるだろ」
勇者「かしわ餅もあるよ。朝・昼は桜餅で、夜は かしわ餅を食えばいいよ」
魔王「マジで!? ありがとう!!」
勇者「うむ。他ならぬ魔王の為だからな! さあ、たんと食え!」
魔王「うむ。では、ひとつ……」モグモグ
勇者「……どうよ? まずい?
まずかったら不味いって遠慮なく言えよ。吐き出すための洗面器も用意した!
銀イオン加工で消臭・抗菌・防サビもバッチリで3980ゴールド! 今なら純金製のマゴの手もついてお買い得です! かゆい所に手が届く! マゴの手って便利だよね!
さらにさらに~、睡眠薬を一気飲みした貴方にも! 胃洗浄機も配備しました! さあ食え魔王ー! 吐くなら今だーー!!」
魔王「(もぐもぐ)……貴様、食わせたいのか吐かせたいのかどっちだ」
勇者「両方だーー!!! さあ食え、そして吐けェエエエ!! 吐くんだ! 吐くがいい魔王! 俺の作った桜餅など今ここで吐き出せェエエエ!!!?」ヒュン
ごすっ!!
勇者のこうげき! かいしんの いちげき! まおうのみぞおちを強打した!!
魔王「ごふ……ッ!?」ボタボタ
部下A「魔王様っ!!?」
そのとき、そっきんが、部屋に走り込んできた!
側近「魔王様ッ!! あれほどケータイの電源切らないでって言ったでしょう! あなたという方は! 一体全体、真面目に世界征服をする気があるんですか!!」
魔王「なんだよぉ、側近め。今からやろうとしてたのに。側近のせいでやる気なくなったよ。あーあ。ゲームでもしよ」
まおうは、家庭用ゲーム機の電源をいれた!
側近「キェエエエ!!」バシッ
魔王「あ、桜餅とPS4が……」
見事な放物線を描いて食べかけの桜餅が宙を舞う!
……べしゃ
勇者「……。」
部下A「あ、勇者……、さん?」
勇者「胃洗浄機起動ぉおおお!!! スイッチ・オーン!」ぽちっ
側近「ちょ、なにをす、やめ、勇者よ、目がマジ……」
側近「ぐぁああああ!!!」
☆
勇者「……さぁて、魔王。ふたりきりの真剣勝負といこうか……。俺が吐くか、お前が吐くか……、今日こそ決着をつけよう……」
魔王「なんで宿命の対決みたくなってんの。なんでそんなに吐きたいんだ今日のおまえ。食べ物は大事にしなさい」
勇者「……否!! 美食家たるもの、吐くことを恐れてはいけないんだ! 古代ローマ人はなぁ、食っては吐き、吐いては食う。美食を追求するあまり、エンドレスの饗宴を催したそうだ」ずずいっ
魔王「な……なんでそれを桜餅とかしわ餅で再現せにゃならんのだ……」
勇者「……何故、だと? 愚問だな……」
部下A「…………。」ゴクリ
勇者「そこに餅があるからだ!!」
☆
魔王「……はー、うま~、茶はうまいな」
部下A「うんうん。ですよねぇ。緑茶はビタミンCも豊富だし、脳卒中や動脈硬化のリスクを減らす作用もあるんですよ~」
魔王「……はー、うま~、茶はうまいな」
部下A「うんうん。ですよねぇ。ほうじ茶はフコダイン酸も豊富で緑内障や水虫にもよく効くんですよー」
勇者「桜餅……。」
魔王「吐け吐け言わなきゃ普通に美味いのに、残念なモチだな」
部下A「ほんと、そうですよ。はい側近様、かしわ餅ですよー♪」
側近「……。わたくしは洗濯物を取り込まねばならないので、これで失礼ますよ」
部下A「5月はねー、気候は良いけど雨も増えますよねぇ」
魔王「……ま、それは仕方ないんじゃね? ーーああ、俺、桜餅とかしわ餅の残りを空からばらまいてくるわ」
勇者「……迷惑だろ、やめろよ魔王。」
部下A「勇者さんが魔王城の迷惑じゃないとでもいうんですか!! 今日だって、勇者さんが来るまでは、和やかな平日を過ごしていたのに……!!」
魔王「モグモグ」
部下A「だいたいですねぇ、勇者さんは加減ってモノを知るべきです」
魔王「もぐもぐもぐもぐ」
部下A「くどくどくどくど」
魔王「もぐもぐもぐもぐ」
部下A「くどくどくどくど」
魔王「もぐもぐもぐもぐ」
おしまい。
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