35 魔王と例の、白い紙
魔王「……ふぅ。あ…」 手を伸ばす
魔王「やっべ。トイレの紙きれちゃったよ。具体的に言うと紙がないね。トイレのね。あのね、例の白いやつ」
魔王「おーい、側近ー? 誰かいないのー?」
シーン……
魔王「なんだよ、誰もいないのかよ。しょうがねぇなあ、とりあえず流すか」
ジャー、ゴボボボボ
魔王「……まあね、これね、どうすんだよ。詰んだよ。王手じゃんチェックメイトじゃん。どーすんのコレ。何、あれか。ズボンを半分下ろしたまま倉庫まで走ればいいのか!」
シーン……
魔王「なーんてね。誰かに見られたらどーすんのソレ。ダメじゃん、部下Aとか通りかかったら! 《……あれ、魔王様。トイレの紙、切れてましたか? 最近減りが速くてスミマセン。実は僕、痔なんですよね。魔王軍に入った頃から悩まされてて……。魔王軍やめたら治りますかね?》」
魔王「……あれ? 痔ってトイレットペーパー使うのか? ……そりゃな、そうだよな。尻の穴が切れて大出血した場合、輸血も考えなきゃならんな。大変だな、部下Aも」 うんうん
シーン……
魔王「……さて、と。そろそろトイレから出るか……、いや、出なきゃならんなコレは。あれだね。午後から重大な会議あんのよ俺。どーすんの、魔王がトイレにこもってて出られないってソレどんな世界征服よ。もうダメじゃね? 始めた段階で終わってるっつーか、さ」
シーン……
魔王「……あれじゃね? いい加減俺、トイレから出なきゃならないんじゃね? かれこれ1時間も籠もってるよ。ダメじゃね? そろそろ出ないと。……アレだよね、《魔王様~、どこですかー、出てこないと冷蔵庫のプリン食べちゃいますよー》みたいな」
シーン……
魔王「……みんな、心配してるかな。……そうだよな、魔族には愛情とか友情がないと言ったって、共に世界征服を企む同胞だもんね、なんだかんだ言っても。きっと心配してるよ……」
ジャー、ゴボボボボ
魔王「あまりの虚しさにもう一回流しちゃった。まだかなー、側近。きっと助けに来てくれるよな。今ごろ玉座に座って高笑いしてたりしないよな?」
シーン……
魔王「……俺、このままここで終わるのかな……。誰にも見つけて貰えずに……、」
魔王「白骨死体になったり、するのかな」
シーン……
魔王「……。」
……ガヤガヤ
側近「魔王様っ!? おいたわしい、一体、どうしたというのです!?」
魔王「うん。あのね、トイレの紙切れててね」
側近「だからって全裸で城の廊下を匍匐前進しないでくださいっ!?」
魔王「……は、はずかしいだろ!? 魔王軍のトップとして!? こんな姿を皆に見られたら……!!」
側近「すでに発見されてるんですから匍匐前進は意味がありませんよ!」
魔王「……ぬぅ」
側近「……ぬぅ、じゃありません! 早く服を着てください、服を!! 具体的に言うとパンツをはいてください!!」
魔王「……いいよ! 具体的になんか言わなくて!! もっと婉曲的に表現しろよ側近!!」
側近「うるさいっ!? わたくしの城の廊下を生まれたままの姿で歩くなど言語道断!!」
魔王「わたくしの!? いつ魔王城がキサマのものになったというのだ!」
側近「……よろしい。投票を行いましょうか。尻も拭けずにトイレから裸で匍匐前進してきた人物とわたくし、いったいどちらが魔王にふさわしいか……!」
魔王「勝ち目ねーじゃん!? 側近は卑怯だ!」
側近「いいからパンツを穿けェエエエ!!!」
魔王「尻拭いてねぇんだよ尻!! 紙を寄越せェエエエ!!!?」
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この事件をきっかけに魔王城にはウオッシュレットが設置されたとかないとか。




