34 勇者と魔王と物価指数
勇者「おっはー!」
魔王「こんばんわ、魔王です」
勇者「ちょっとそこの魔王! ちゃんと俺に合わせろよ! さあ、爽やかに! 両手を頭の上に挙げて! "おっはー!"だ!」
魔王「……お、おう。オッハー」
勇者「ダメ! そんなんじゃダメ!! 気合いが感じられないね! 魔王なら世界は俺のものだくらいの気合いを入れて! おっはー!!!」
魔王「……おっはー……」
勇者「ダメ! 元気がない! そんな魔王みたいな顔してちゃダメ! もっと健康的に微笑むんだ! おっはー!」
魔王「……もういい、1人でやるがいい」
勇者「嫌だ! 俺を独りにしないでくれ! 寂しくて死んじゃう! メールは一時間以内に返せよ、電話にはいつも出てよ。フェイスブックとツイッターとミクシィにも返信してよ!」
魔王「バーチャルな人間関係に慣れすぎてね?」
勇者「……もうネトゲとケータイないと俺死んじゃう。」
魔王「……そうだ、勇者よ、苦しむがいい。どうだ? 人間どもに見捨てられ、"いいね!"を貰えず、足跡も残してもらえない気持ちは……。
……ククッ、フハハハハ……!!」
勇者「……まあ、魔王が楽しそうだから良しとしよう。」
魔王「……クッ、急に楽しくなくなった! 何だこの気持ちはッ! 勇者よ、頼むからもっと苦しんでくれ! 牛丼から肉を奪われた部下Bのように、紅茶を淹れようとしたら缶の茶葉をみんなぶちまけた側近のように……!」
勇者「……お前……。寂しい奴だな。かわいそうに。」
魔王「……勇者に同情された。もう私は生きていけない……」Orz
勇者「……ま、まあそんな日もあるよ。元気出せよ。なっ?」
魔王「勇者に励まされてる……。情けなくて死にそうだ」
勇者「どないせいちゅうねん」
魔王「もう私はダメだ……、側近、あとは頼む……」ガクリ
☆
暗雲渦巻く魔王城の、最上階ーー。
魔王「……やった! 株で1万ゴールド稼いだぞ!」パソコンのモニタを見ている
側近「わたくしは駅前のパチンコ屋で3万儲けましたよ!」紙袋を両手に入ってくる
魔王「マジか側近! よくやった! これで今日の晩飯は安泰だな!」
ガラリ
勇者が あらわれた!
木刀を手にした勇者 が まおうに迫る!
勇者「よォよォよォ、魔王さんよォ、最近ずいぶん羽振りが良いみたいじゃねーのォ? ちぃっと俺にボランティアしてくんね? 具体的に言うと5万ゴールド貸して。新発売のフィギュアを買ったら今月生活費がないの……」土下座
魔王「ちげーよ、悪いんだよ。土地のバブルがはじけて、持ってたライブマドの株は大暴落。税金ばっか増えちまって禄なことがねえ」
勇者「魔王がどこに税金払ってんだよ。魔王軍のトップとしてお前もうちょっと自分の発言考えようよ」
魔王「誰だよ物価が2%上がるって言ったヤツ。世界中のトイレットペーパーというトイレットペーパーを買い占めたせいで今月は大赤字よ」ふんぞり返る
勇者「なんで現物を買い占めんだよ。そこは工場の制圧とか資源の買い占めとかするところだろ」ぺし
魔王「あー、その発想は無かった。もうね、今ね、魔王城のダンジョンの中ぎゅうぎゅうにトイレットペーパーが詰まってるわけ。落とし穴から宝箱の中まで、隙間という隙間はホームセンターとドラッグストアで買い占めてきた洗剤とトイレットペーパーでギチギチなわけよ」
勇者「……何がしたいのお前。何その、頭の悪い行動。お前ね、俺じゃねぇんだからさ、もうちょっと考えようよ」
部下A「だって2%ですよ2%! 100ゴールドで買った棍棒が102ゴールドで売れるんですよ? 今買わずしていつ買う!? って感じですよね。」両手に買い物袋
部下A「 ……あれ、どうしたんですか勇者さん、床に突っ伏してOrzのポーズ……、あっ、わかった、最近ヨガを始めたんですね!」
側近「ヨガ……、ですか。わたくしは最近社交ダンスを始めましたが……」
勇者「そっきんまでボケはじめた」
側近「失礼な! ぼけてなどいません!」
勇者「あー、あのね、認知症の人みんなそう言うんだわ。自分では《呆けてない》ってね。だけどさ、明らかに行動おかしいわけ、行動が。
ごはんさっき食べたのに、《サチコさんや、あたしの晩飯はまだかいね?》とかやるわけ。そんでさー、急に形相変えて、《あたしの財布を取ったのはお前だろ!》ってサチコさんに迫ってくるわけ。怖いよー、認知症って。最近はセルフ・ネグレクトって問題もあってね。すごいんだ、コレがまた。自分で自分の面倒見なくなっちゃうわけ。しかもコレね、自分でその事に気が付かない。もうね、俺は常々思うわけ。人間の尊厳って何だろうって……」
部下A「勇者さん」
勇者「あー、悪い、悪い。そうそう。買い占めたトイレットペーパーをどうするかの問題だったよね。誰か下痢すればいいんじゃね?」
魔王「別に私は構わないのだがな。不法侵入の勇者モドキが、ダンジョンの小部屋を開けた瞬間、トイレットペーパーの雪崩に遭うっていう今の状況も」
勇者「いやいやいや、お前マズいってそれおまえ。明らかに魔王城のイメージ台無しよ。どうすんの、人間たちに舐められたら。いいか、魔王。ブランドイメージってのはな、下げるのは簡単でも上げるのは難しいんだぞ? グッチやプラダが値下げしまくってみろ。そりゃもう高級品ってイメージ台無しよ。一度、量販品ってイメージついちまったらもう戻らないわけ」
部下A「ブランドって元は、給与の上がった《一般民衆》向けに考案されたモノらしいですけどね」
勇者「その当時でも高かったんだろうな」
側近「ちょっと手の届かない高級品、といったイメージですね」
勇者「そうそう。だからね、魔王城のダンジョンに安物のトイレットペーパーが山積みになってたら俺たち冒険者はガッカリするわけ。ーー、これが、俺たちの目指していた魔王城、だとーー? うおぉおおおお、そんな、ウソだ!! って具合よ」
部下A「ダブルだし柄も入ってますよ、ほら。カワイイうさぎさんの」
側近「薄桃色とライトブルー、さらにはイエローとグリーンもありますよ」
魔王「そうだぞ、勇者。石油危機を忘れてはならんのだ。あの教訓を得て我々は、省エネルギー、環境負荷の軽減に取り組んできたのではなかったか」
勇者「……いまのわかいひとは石油危機なんて知らないよきっと」
魔王「……そうか。まあ、恐竜とか見ながら生きてきた身としてはね。最近の人間どもの繁栄って少々ウザいわけ」
勇者「そんなんいいからダンジョン片付けろダンジョン! ちったあ、通る俺たち冒険者の身にもなってよ!」
魔王「……はぁ。勇者は細かいな。仕方ない、ファイヤードラゴン」
火竜「喚ばれて飛び出てみっちりなトイレットペーパー12ロール入りの山にむぎゅ」
勇者「かーわいそー!! 誇り高い竜族が量販品の山に埋もれてら」
火竜「グォオオオ!!!」
勇者「そーかそーか、泣くほどか。そりゃあそうだよ。魔王はひどい奴だ」
部下A「さすが魔王様!」
側近「魔族の鑑です!」
火竜「グォオオオ」
勇者「なー? 俺たちで仲良く片付けようなー? ダンジョンは広くて何にもないのがイチバンだよ」
火竜「グォオオオおおお」
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