32 花見に行こう!
勇者「春だー!! 花見に行こう魔王!!」
がらーん
魔王城はもぬけのからだった!
勇者「あれー? お留守ですかー? 不用心だな、魔王は。俺が預金通帳と印鑑を持ち出すとは考えないのか」
部下A「こんにちは、勇者さん」ホウキとちりとり、雑巾を手にしたガーゴイルがあらわれた!
勇者「部下A! 魔王はどうした! 魔王はどこだ! 俺は魔王を倒さにゃならん!」
部下A「人間界に行きましたよ」
勇者「!? ーーなん、だと? 俺を差し置いて花見ーー!? 魔王め、許さん! 俺をハブるとは、万死にあたたたた」
部下A「"値する"って言いたいんですか? ちなみに、お花見じゃありませんよ。世界征服ですよ」
勇者「……マジで? ところで世界征服って何? 具体的に何するの? 俺にも分かり易く説明してよ部下A」
部下A「僕にもよく分かりませんけど……、きっと、世界中の有名スイーツを無料で味わえたりするんじゃないですか?」
勇者「……う~ん、スイーツかぁ。ラーメン好きの俺としてはイマイチ魅力に欠けるかな」
部下A「世界征服っていうくらいだから、世界中のラーメン屋から出前を取るくらい訳ないですよ、きっと」
勇者「……でもさ、ラーメンって一度に一杯食べたらお腹いっぱいにならねぇ? 目の前に何十杯も並べられても食べきれないよ」
部下A「勇者さんは発想が庶民的すぎるんです。ちなみに、報告によると、現在、魔王様たちは西新宿にいますよ」
勇者「じゃあ、ま、世界征服を止めてくるとするか。勇者だしな」
☆
降りしきる黒い雨。
響くものは爆音。
辺りを染めるものは黒い血ーー
魔王「クッククク、ハーッハッハ!!!」
側近「……フフフ、フハハハハ!!」
高笑いする二人の人物が、軍隊に取り囲まれている。
黒マントのひとりが手をかざすと、上空の攻撃ヘリが落ち、戦車が何台も吹き飛んだ。
魔王「……フフン、人間どもの技術力とはこの程度なのか。ーー紙のような装甲だ」
側近「魔王様、ここはわたくしだけで十分。……フフ、そこで昼寝でもなさっていて下さい」
魔王「馬鹿をいえ。こんな楽しい遊びを独り占めにする気か?」
側近が羽を広げ、魔術を起動させる。
武装した兵士たちが百人ほど灰になった。
側近「他愛もない……」
爆撃機の新手が空を埋め、歩兵と戦車の群れが二人に押し寄せるーー、しかし、それは二人に届くよりも前に、次々に撃破されていった。
焦げ臭い匂いが辺りに漂うーー
そのときだ。
居並ぶ兵士たちの向こうから、何かが二人のほうへ進んできた。
側近「あれはーー。魔王様」
魔王「何ーー? 木が、動いている?」
大きな桜の木だ。満開のそれが、戦場にはらはらと花びらを落として進んでくる。
ーー砲撃が、やんだ。
爆音がやんだ。
静寂が辺りを支配するーー
勇者「……、魔王」
魔王「勇者……」
勇者「……お前が世界の有名スイーツを食べ漁りたい気持ちは解る。俺だってラーメンが好きだーー、愛しているといっていい。だがな、魔王ーー」
ゆうしゃは 桜の木を掲げた!
勇者「花見の季節に花見をしないなんて、お前は間違っている。そんなの世界征服じゃないーー、ただの超過労働だーー、そうだろう、魔王軍の皆」
魔物たち「……」
勇者「俺は桜が好きだ。花見団子も好きだ。なぁ、魔王。今日はこの桜の木に免じて、世界征服は明日にしないか」
魔王「勇者よ……」
魔物たち「グルルルル……」
どかーん!!
突如、爆音が響く。爆弾が上空から降ってきた。
勇者「……あれじゃね? お前兵隊さんに嫌われてね?」
魔王「まあな、魔王だからな。勇者よ、花見はまた今度だ! 花見団子を用意して待っているぞ!!」
側近「どうせ、わたくしに作らせるんでしょう!! ーーああ、せっかく珍しく魔王様が世界征服に乗り気でしたのに……」
人間兵士「撃てぇ! 撃て撃て撃てー!!」
勇者「……あれじゃね? コレ、俺も撃たれてね? ホーミング・ミサイルが直撃とかマジで痛い。いた、イタタタタ」
どかーん! どこーん!
魔王「……フッ、我は夕方の魔法少女アニメを見ねばならん……、今日はこのくらいにしておいてやる。次はーー、覚悟することだ」
側近が転移魔術を発動させた!
二人の姿が虚空にかき消える!
兵士たち「……」
兵士たち「……た、助かった……、のか? 俺たち」
雨は止み、雲間から太陽の光が差し込んできた。
☆
数日後。
魔王「花見、か。日本酒とは美味いものだな」
勇者「魔王ーー! ネクタイだ! ネクタイを頭に巻け! さもなくばこの卵焼きは食わさん!!」
部下A「縞々柄からウサギちゃん柄まで色々ありますよー。どのネクタイがいいですか、魔王様?」
側近「わたくしの歌をお聴きなさい! ボェ~~!!」
おしまい。




