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「ども、魔王です」「こんにちは、勇者です」  作者: 魔王@酒場
魔王様は玉座にて待つ。宅配便とかを。
32/162

32 花見に行こう!

勇者「春だー!! 花見に行こう魔王!!」


 がらーん


 魔王城はもぬけのからだった!


勇者「あれー? お留守ですかー? 不用心だな、魔王は。俺が預金通帳と印鑑を持ち出すとは考えないのか」


部下A「こんにちは、勇者さん」ホウキとちりとり、雑巾を手にしたガーゴイルがあらわれた!


勇者「部下A! 魔王はどうした! 魔王はどこだ! 俺は魔王を倒さにゃならん!」

部下A「人間界に行きましたよ」


勇者「!? ーーなん、だと? 俺を差し置いて花見ーー!? 魔王め、許さん! 俺をハブるとは、万死にあたたたた」


部下A「"値する"って言いたいんですか? ちなみに、お花見じゃありませんよ。世界征服ですよ」


勇者「……マジで? ところで世界征服って何? 具体的に何するの? 俺にも分かり易く説明してよ部下A」


部下A「僕にもよく分かりませんけど……、きっと、世界中の有名スイーツを無料タダで味わえたりするんじゃないですか?」


勇者「……う~ん、スイーツかぁ。ラーメン好きの俺としてはイマイチ魅力に欠けるかな」


部下A「世界征服っていうくらいだから、世界中のラーメン屋から出前を取るくらい訳ないですよ、きっと」


勇者「……でもさ、ラーメンって一度に一杯食べたらお腹いっぱいにならねぇ? 目の前に何十杯も並べられても食べきれないよ」


部下A「勇者さんは発想が庶民的すぎるんです。ちなみに、報告によると、現在、魔王様たちは西新宿にいますよ」

勇者「じゃあ、ま、世界征服を止めてくるとするか。勇者だしな」


   ☆


 降りしきる黒い雨。

 響くものは爆音。

 辺りを染めるものは黒い血ーー


魔王「クッククク、ハーッハッハ!!!」

側近「……フフフ、フハハハハ!!」

 高笑いする二人の人物が、軍隊に取り囲まれている。

 黒マントのひとりが手をかざすと、上空の攻撃ヘリが落ち、戦車が何台も吹き飛んだ。


魔王「……フフン、人間どもの技術力とはこの程度なのか。ーー紙のような装甲だ」

側近「魔王様、ここはわたくしだけで十分。……フフ、そこで昼寝でもなさっていて下さい」


魔王「馬鹿をいえ。こんな楽しい遊びを独り占めにする気か?」


 側近が羽を広げ、魔術を起動させる。

 武装した兵士たちが百人ほど灰になった。

側近「他愛もない……」


 爆撃機の新手が空を埋め、歩兵と戦車の群れが二人に押し寄せるーー、しかし、それは二人に届くよりも前に、次々に撃破されていった。

 焦げ臭い匂いが辺りに漂うーー


 そのときだ。

 居並ぶ兵士たちの向こうから、何かが二人のほうへ進んできた。


側近「あれはーー。魔王様」

魔王「何ーー? 木が、動いている?」


 大きな桜の木だ。満開のそれが、戦場にはらはらと花びらを落として進んでくる。

 ーー砲撃が、やんだ。

 爆音がやんだ。

 静寂が辺りを支配するーー


勇者「……、魔王」

魔王「勇者……」


勇者「……お前が世界の有名スイーツを食べ漁りたい気持ちは解る。俺だってラーメンが好きだーー、愛しているといっていい。だがな、魔王ーー」


 ゆうしゃは 桜の木を掲げた!


勇者「花見の季節に花見をしないなんて、お前は間違っている。そんなの世界征服じゃないーー、ただの超過労働だーー、そうだろう、魔王軍の皆」

魔物たち「……」


勇者「俺は桜が好きだ。花見団子も好きだ。なぁ、魔王。今日はこの桜の木に免じて、世界征服は明日にしないか」

魔王「勇者よ……」

魔物たち「グルルルル……」


 どかーん!!

 突如、爆音が響く。爆弾が上空から降ってきた。


勇者「……あれじゃね? お前兵隊さんに嫌われてね?」

魔王「まあな、魔王だからな。勇者よ、花見はまた今度だ! 花見団子を用意して待っているぞ!!」

側近「どうせ、わたくしに作らせるんでしょう!! ーーああ、せっかく珍しく魔王様が世界征服に乗り気でしたのに……」


人間兵士「撃てぇ! 撃て撃て撃てー!!」


勇者「……あれじゃね? コレ、俺も撃たれてね? ホーミング・ミサイルが直撃とかマジで痛い。いた、イタタタタ」


どかーん! どこーん!

魔王「……フッ、我は夕方の魔法少女アニメを見ねばならん……、今日はこのくらいにしておいてやる。次はーー、覚悟することだ」


 側近が転移魔術を発動させた!

 二人の姿が虚空にかき消える!


兵士たち「……」

兵士たち「……た、助かった……、のか? 俺たち」


 雨は止み、雲間から太陽の光が差し込んできた。


   ☆


 数日後。


魔王「花見、か。日本酒とは美味いものだな」

勇者「魔王ーー! ネクタイだ! ネクタイを頭に巻け! さもなくばこの卵焼きは食わさん!!」


部下A「縞々柄からウサギちゃん柄まで色々ありますよー。どのネクタイがいいですか、魔王様?」

側近「わたくしの歌をお聴きなさい! ボェ~~!!」


おしまい。

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