31 魔王を倒したら俺は
勇者「魔王……、俺、考えたんだ」
魔王「下手の考え休むに似たり。」
勇者「……何だって!? ねえねえ、何それ、どういう意味!?」
魔王「……えー、あー、うん。皆色々考えるよねっていうことだ」
勇者「成る程! さすがは魔王だな! 頭いいな!」
魔王「(……何だこの罪悪感。)」
勇者「それでな、俺が魔王を倒した後の世界ーー、ポスト(=後)魔王について考えてみた」
魔王「成る程。それは大事なことだな」
勇者「だろ?」
*
勇者「……なぁ、盗賊。あの頃は良かったと思わないか」
盗賊「あの頃って?」
勇者「幼稚園で毎日、砂山を作って過ごした日々……、心配するのは、泥団子の出来だけだった」
僧侶「過去っていうのは、美化されるものですよぅ、勇者さん」
勇者「ただ泣けばご飯が出てきた……、おしめも毎日変えてもらえた……」
盗賊「遡りすぎだろ。そんなに人生良いことないのかよ」
勇者「無いな」
僧侶「言い切った!? コンマ0.5秒で!?」
盗賊「無いんだ……?」
勇者「ああ、ない。冬は毎日寒いし、夏は毎日暑い。俺の人生は最悪だ」
僧侶「その程度のことで!?」
勇者「お金を使えばなくなるし、歩けばお腹がすく。なんて俺は恵まれていないんだろう。ああ……、不運だ」
盗賊「全国の不運な人に謝れお前。」
勇者「何とか頑張って魔王を倒しはしたものの、俺は突然無職になった」
盗賊「王様が莫大な報奨金くれただろうよ……」
勇者「あんなもんはした金だ」
僧侶「国家予算がはした金!?」
勇者「ああ……、あの日々は充実していた。毎日パソコンでチャットして飽きたらゲーム……、金は、親が出してくれた」
僧侶「勇者さんのお父様って魔物と戦って亡くなってませんでしたっけ……?」
勇者「宝くじで1000万当てた……、俺は一晩で使い切った」
盗賊「何をした、何を。」
勇者「……分かるか、盗賊。俺は人生の目的を見失っているんだ」
僧侶「泥団子から始まって1000万ですものね……」
勇者「俺には生きる目的が必要なんだ……」
盗賊「ああ……だろうな」
僧侶「そりゃそうですよね」
勇者「というわけでちょっと、魔王復活させてくるわ」
盗賊「いってらー」
僧侶「ファイトです! 勇者さん!!」
*
脳内シミュレーション、終。
勇者「……な?」
魔王「"な?"じゃねーよ。お前ね、もっと人生計画ってもの持てよ」
勇者「やだよ! 明日、恐怖の大王が空から降ってくるかもしれないんだぞ!? デザートを最後に食べるのですら、リスクが大き過ぎる!!」
魔王「貴様が刹那的な人間だということは良く分かった」
勇者「うん……、魔王」
魔王「?」
勇者「長生きしてね……、俺より先に死んじゃ、やだよ」
魔王「……何その他力本願。」
勇者「他力本願けっこう! 俺には魔王が必要なんだ! 愛してる!」
魔王「た、助け、部下A! 痴漢撃退スプレー持って来い! 勇者がおかしい!」
勇者「いいやおかしくない! 大好きなんだ魔王!!」
魔王「ぎゃああああ!!!」
部下A「魔王様ー、……、魔王様?」
勇者「へんじがないな」
部下A「勇者さん、何をしたんですか」
勇者「俺はただ、愛の告白を」
部下A「あーあー、全く、勇者さんたら。もー、魔王様の修理だって無料じゃないんですからね。全く。人間どものポジティブな感情は魔族には毒と同じなんです。」
勇者「困ったな、勇者の剣を使う隙もなかった」
ゾロゾロゾロ・・・
部下B「魔王ー、便所の電球切れちまったー、交換してくれよ」
側近「魔王様ー、新聞とってきて下さい」
部下C「魔王様ー、ご飯まだー?」
部下A「皆さん、ちょっと待ってて下さーい、魔王様修理してきますから」
側近「これだから最近の魔王は。先代の魔王様はもっと頑丈でしたよ」
部下B「そうそう。ナナメ45°でチョップをかませば24時間、文句も言わずに働いてたもんだ。白黒だったけどな」
部下C「しょうがないねえ。今日はカップラーメンにしよ」
部下A「すみません、そうして下さい……」
勇者「魔王……、皆に慕われてるんだな」
勇者「じゃあ俺帰るよ……。魔王によろしく」




