30 勇者と魔王と、スクール水着
勇者「"省エネ"って最近聞かないよね」
魔王「……何だ、急に」
勇者「いや、だってさ、今やどいつも「エコ」「エコ」「エコ」!! 美しい日本語は何処に行ってしまったんだ!」
部下A「"省エネ"は美しい日本語だったんですか…」
勇者「まあな。何てったって、広めたの俺だし」
魔王「呼吸するようにウソを吐くな」
勇者「……ダメ?」
部下A「ダメじゃないですけど…」
勇者「そうか。よかった。ところで俺、今日コレ見てよ。クール・ビズなんだよ」
魔王・部下A「……。」
勇者「どう? どう?? カッコ良くね? 防具屋で半額だったんだよ!」
魔王・部下A「……。」
部下A「……馬鹿は風邪引かないって言いますけど……、大丈夫なんですか? 勇者さん」
勇者「俺? ああ、バッチリだよ。毎年一回は風邪引くね、夏に」
魔王「勇者よ……」
部下A「勇者さん……」
(夏カゼは馬鹿が引く、と云う)
魔王「まぁそれはさておき」
勇者「そうだそうだ! さておけーー!!」
魔王「今年の世界征服予算案だがな。やはり新コスチュームに6億ゴールドというのはやりすぎだと思うのだ」
部下A「側近様以外の皆さんが乗り気で……。ソーラン節も踊ろうって張り切ってるんです。みんなのやる気を無駄にするわけには……」
勇者「ところで魔王軍の予算ってどっから出てんの?」
部下A「占領した人間界の皆さんの血と汗と涙から」
勇者「大変だ!」
魔王「……そうだよ? 大変なんだよ? お前、勇者なんだよ? ちったあ自覚持てよ」
勇者「あー、自覚な。どうしようかなぁ。毎年さ、1月には思う訳。今年は良い勇者になるぞー、俺は超働き者!! 今年こそ魔王を倒して世界を救うんだ、って」
魔王「良い心掛けだ」
勇者「だろ? それがさー、2月14日になるともうダメだね」
部下A「? 何でです?」
勇者「2月14ったらバレンタインなワケ。ろうりゃくなんにょ爺さんから婆さんまで、みんな俺にチョコくれるわけだよ」
部下A「勇者さん、言えてません……。老若男女ですよね?」
勇者「でさー、そのチョコを噛みしめながら俺は思う訳。……ああ、今年の俺、よくやった!!」
魔王「早えよ」
勇者「そうなんだよ。ダメだねアレは。俺を堕落させるよ。はっくしゅん」
部下A「あーあー、勇者さん、年甲斐もなくそんな派手なビキニ鎧なんて着てるから……」
勇者「……そうか、俺ももう若くないのか」
部下A「……魔王様、なんで赤くなりながら紺色スクール水着差し出してるんです?」
魔王「計算したところそのビキニアーマーより布面積が大きい。これでも着るといい」
部下A「魔王様!! それじゃ変態ですよ!? 着てる黒マントを差し出すくらいの人間ちっくな優しさを見せてみるべきです!!」
魔王「仕方ねぇなあ。そこまで言われちゃなあ」
部下A「そうですよ! ……よかったぁ、魔王様がヘンタイじゃなくって」ホッ
勇者「……」
部下A「…」
ゴゴゴゴゴ……
勇者「黒マントの下にスクール水着……だと?」
部下A「魔王様っ!? 僕は魔王様の左腕じゃなかったんですか!? ヒドイ! こんな形で裏切られるなんて……!! 僕、もう実家に帰らせていただきますっ!!」
魔王「……ジョークだと言うに言えなくなった」
勇者「いらんわそんな笑い」
部下A「そうですよ要りません!!」
魔王「今度からはドテラ着とくわ。風邪引きたくないし」
部下A「ドテラは確かにあったかいですが、魔王の装備としてはどうなんです? 最終決戦の戦闘終了時、ドロップアイテムが「ドテラ」とかどうなんです? 今まで倒された魔物たちだって浮かばれませんよ」
魔王「ではスキーウェアで。」
部下A「……魔王様、寒がりですね」
勇者「……そうだよ。イラストの都合で年中ビキニアーマー着てる俺の身にもなれよ」
魔王「……どうしろというのだ」
部下A「兎に角なんかカッコ良いの着て下さい。振り袖とか紋付き袴とか」
魔王「フリソデ……モンツキハカマ……、だと?」
勇者「どんだけ最終決戦楽しみにしてたんだよ。結婚式かよ、成人式かよ、卒業式かよ」
部下A「確かに、黒マントと合わないかもしれませんねぇ」
勇者・魔王「(そういう問題なのか……?)」
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