3 勇者と魔王と星占い
魔王城、最上階ーー。
魔王(超おどろおどろしい声で)「今日のラッキーカラーは・・・・・・ピンク!!!」 カッ!!
魔王「ま、マジで? ど、どうしよう。星占いも血液型占いも最高だったし~、今日が告白のチャンス!? みたいな」
部下B「・・・魔王さま?」
魔王「困るよなぁ~、急にこんな大チャンス! 滅多にねぇよ。あぁ~、でもなぁ!!」
部下B「ま・お・う・さま、・・・ったら」
魔王「・・・はっ?」
部下B「どうしたんですか、血のように真っ赤な髪をうら若き乙女みたいに振り乱して」
魔王「あ~・・・コホン」
部下B「・・・??」
魔王「我が魔王軍は本日正午を以って、ノーサンバーランドに侵攻する。あそこは女神ウルリヒの信仰も篤い地だ。ーーせいぜい、楽しませてもらうとしよう」ニヤリ
部下B「おお・・・ついに」
魔王「今日の星占いは十二星座中トップだからな!」
部下B「はっ!! さっそく準備ーーいえ、いつでも準備は整っております! 熊将軍のグリズリー部隊も猫将軍の猫パンチ部隊も わんこ将軍の肉球部隊、ヨウム将軍の歌って踊れる部隊もいつでも出撃できます!」
魔王「よかろう。指揮はお前に任す」
部下B「え」
魔王「・・・?」
部下B「・・・・・」
魔王「?」
部下B「助けて部下A?! 俺部隊の指揮とかできねぇよ!」
部下A「はぁ? 何言ってるんですか。今日のために準備してきたんじゃないんですか、さあ、行きますよ」ずるずる
部下B「だって将軍共ってアクが強いじゃん俺やだー!!」
*
魔王「・・・っていうユメを見てな」
勇者「ユメオチか、よりによって」
魔王「いやだからさ、昨日、北西の方角から煙上がってたじゃん」
勇者「ああ、見た見た。血のように赤かった」
魔王「・・・。ま、ユメだがな」
勇者「・・・夢か」
魔王「ああ、夢だ」
◇
魔王「まあ、それはさておき」
勇者「さておき」
魔王「新作のゲームを買ってきました!」
勇者「まーじでぇ? すごいじゃんそれ、何ビット?」
魔王「これでテトリスが遊べます」
勇者「・・・テトリス一択なのかよ」
魔王「いいじゃんテトリス。積もうぜ」
勇者「魔王ならもっと魔王らしく、健全な遊びをしなさいっ!」
魔王「えー? 何しろってのよ」
勇者「魔王らしく人間どもの街を蹂躙し破壊し俺の前に立ちふさがり無二無双の強さを見せつけあざ笑うーー」
魔王「やだよ他人をあざわらうとか失礼にも程がある!」プンプン
勇者「・・・しっかしさあ」
魔王「ん?」
勇者「あれじゃね? いい加減パターンだよな、世界征服とか世界破壊っていうのも」
魔王「仕方ないじゃないか。人間というものを絶対否定するところのものが、我ら魔族であり、魔王だ」
勇者「はあ・・・??」
魔王「自分を否定する相手を倒すことで人間は、自分を肯定できるんだ」
勇者「う~ん?」
◇
魔王「というわけで魔王です」
勇者「というわけでした勇者です」
魔王「ふたり合わせて☆」
勇者「ビューティーハニー!」
魔王「ま、それはさておき」
勇者「そうだそうだ。さておけー!!」
魔王「意味わかんねぇよ。それでな、勇者さんよ」
勇者「なんだよ魔王さま」
魔王「ないわー。勇者がその呼びってない」
勇者「うっせえな、一度呼んでみたかったんだよ。いいじゃん、『まおうさま』って響きが」
魔王「オマエだってよく呼ばれてね? 『ああ、ゆうしゃさま、町を救ってくださったのですね!』村人A とか」
勇者「違うんだ」
魔王「違うのか」
勇者「ああ、牛丼の『大盛り』と『肉だけ増量』くらい違う」
魔王「ほほう、では説明してほしいものだな、その違いとやらを」
勇者「うっせおまえムカつく」
魔王「はっはっはー! 魔王だからな」
勇者「くそう納得してしまう自分がいる・・・。」
勇者「いいか、まず『ゆうしゃさま』だ」
魔王「おう。どこの者とも知れぬ村人がよくそう呼ぶな。魔物を倒したりすると」
勇者「そう。無関係な第三者であったものが、魔物を倒すという行為によって第二者ーー”あなた”へと変化し、彼、あるいは彼女は、魔物を倒した相手を何とかして呼びたいという衝動に駆られる」
魔王「駆られる」
勇者「うむ。そこで登場する発声が『勇者さま』となる」
魔王「ほうほう、なるほど」
勇者「他方、『魔王さま』の場合だ」
魔王「うん」
勇者「血も凍る冷血漢の魔王には」
魔王「おい」
勇者「あっごめん・・・、気にしてた? でも本当のことだから」
魔王「本当だって言っていいことと悪いことがある」
勇者「名を呼んでくれる親しい人などいない」
魔王「いないのか」
勇者「うむ。普通は、いない」
魔王「・・・そうか」
勇者「しかし世界征服という一大事業を推進する仲間たちは、何とかしてその上司を呼ぶ必要がある」
魔王「うむ」
勇者「そこで出てくる呼び方ーーそれが『魔王さま』」
魔王「・・・うーん、分かるような分からんような・・・」
勇者「無理もない。何も説明してないからな」
魔王「おい」
勇者「ともかくね、俺が言いたいのは、『勇者さま』は他人行儀だけど、『魔王さま』には、部下たちからのある意味での信頼が込められている言葉なんだ」
魔王「・・・よせよ、照れるぜ」
勇者「まあ、いいじゃないか、照れろ」
魔王「うむ、では、お言葉に甘えて照れるとしようではないか」
勇者「よっ、魔王さま!」
魔王「フハハハハハ・・・・!」
部下A「(相変わらずだな、このひとたちは)」
魔王「ん? 部下A、どうしたのだ、テレビなぞ抱えて玉間に入ってきて」
部下A「あっ、知りませんでした? 今オリンピックやってるんですよ、オリンピック」
魔王「・・・まじで?」
部下A「ほらほら、魔王軍のみんなも頑張ってますよ~、金メダル!」
魔王「誰だ参加したやつ」
部下A「ええと、BからXYZまで総勢25名のあなたの部下がはりきって」
魔王「・・・ま、いいか。せいぜい魔族だとバレないようにするのだ・・・ん?」
部下C『ハァ~イ、魔王さま、見ってる~?』手をふる
魔王「・・・・・・・・。」
部下A「まあ、観客の声援で聞こえませんって、人間どもの鈍い耳には」
魔王「それもそうかな」
3人「「「・・・・。(テレビに夢中)」」」