26 勇者と魔王と、俺。
今回の会話は大部分、電話で行われています。
魔王(電話)「俺です」
勇者(電話)「……は? 誰だよお前」
魔王「だから俺だよ! 俺俺俺」
勇者「どこの俺だよ!? ちゃんと名乗りなさい!」
魔王「だから俺だって言ってんじゃん!! 分かんねぇの~? 超ショック~」
勇者「俺には俺などと名乗る知り合いはいない! 分かったか魔王!!」
魔王「ちゃんと通じてんじゃん……。」
勇者「まあな、長い付き合いだからな。ところで最近お前、魔王の威厳とかなくね?」
魔王「何だって!? 俺に魔王の威厳がないだと!? どこが!!」
勇者「鏡見て現実を見つめ直せいい加減! そこにいるものは何だ?」
魔王「……えー、頭の禿げかけたメタボ腹のおっさん?」
勇者「……お前ってそんな外見だったっけ?」
魔王「変身の魔法ってあるだろ」
勇者「じゃあそれが魔王の真の姿……! ああ~、聞かなきゃ良かった!!」
魔王「なんでだよ。頭髪不自由人とサンタクロース体型の人に失礼だろうが」
勇者「まぁね。そりゃあそうなんだけどさあ……。」
魔王「何、じゃあお前は俺が金髪ツインテールの見た目ロリっ子で、その上いつもの大鎌持ってるとかいったらどうすんの?」
勇者「うわあ……(想像中)……かーわいい」
魔王「人間って一体……。そんなに見た目が重要か?」
勇者「重要だよ! 重要だろ!? 重要なんだよ!! 就職面接にパジャマと長靴で行く奴なんかいないだろ!?」
魔王「ウッソ、マジで? あぁ~、だからか、面接官のあの微妙な表情!」
勇者「お前に何があった!?」
魔王「だって側近が言うんだ。いつまでも実家にパラサイトしてないでいい加減、就職して自活しなさいって……」
勇者「おいおいおい」
魔王「だから俺はスーツを買い、長かったヒゲも剃り、革靴を履いて今日も営業に出るわけだよ」
勇者「……一体、何の商売始めたの?」
魔王「よく伸びるゴム紐と歯ブラシを売る仕事……」
勇者「よくそんなもん知ってんな。何十年前の押し売りだよ」
魔王「時代が変わっても変わらない価値ってあるんではなかろうか。」
勇者(電話)「よく伸びるゴム紐と歯ブラシは何十年経ってもよく伸びるゴム紐と歯ブラシのままだ」
魔王(電話)「……そうか、残念だ」
☆
勇者(電話)「ああ、盗賊? 俺なんだけど。」
勇者パーティの盗賊(電話)「オレに俺なんて知り合いはいない」
僧侶(電話)「あたしにも俺なんて知り合いはいませんねぇ」
勇者「だから俺だって! 悪いんだけどちょっと迎えに来てよ。カンジキ忘れちゃって魔王城から一歩も出られないんだよ」
僧侶「もうMPないんですか?」
勇者「……うん、ない。」
僧侶「もーっ! 子どもじゃないんだからしっかりして下さいよ! 大体、勇者さんはですね……」
勇者「俺だって必死だったんだ! 必死で魔王を倒そうと、したんだ……。でも、でも……!」
僧侶「「だって」「でも」禁止。」
勇者「俺のアイデンティティが!!」
盗賊「勇者~、しっかりしろよ、頼むよ」
勇者「……そ、そうだな。じゃあパンツ一丁だけどもう一度魔王に挑んでくる」
盗賊「ぶはっ!?(鼻血)」
僧侶「ゆ、ゆゆゆ、勇者さん……、下着一枚で魔王に挑むのは無謀すぎます!」
盗賊「何をどうしてそんな状況になっちゃったワケ?」
勇者「呑むだけ呑んで朝になったら下着一枚だった」
盗賊「まっ、魔王めェエエエ!! オレの勇者を!!」
僧侶「何を怒ってるんですか? 盗賊。今の話でどうしてそんなに怒るんです? 暑いと勇者さんが服を脱ぐのはいつものことじゃないですか?」
勇者「そうだよ盗賊。何を血圧上げているんだ。カルシウムちゃんと摂ってる?」
盗賊「勇者、魔王に替われ! オレが一言、ガツンと言ってやる!」
勇者「おーい、魔王ー、盗賊が替われってさ」
魔王「ハァイ、魔王よん。おひさ~、元気してたー?」
盗賊「……誰、これ」
勇者「魔王だよ。全魔族の上に君臨し、人間界を震撼させてる人だよ」
盗賊「嘘だ!!!」
僧侶「ありえませんよね」
勇者「だってさ、魔王」
魔王「まあ……、無理もないな」
勇者「ないのかよ」
魔王「俺だって時々思うもん。あれ、何かおかしくないか、って」
勇者「そんなもんかなあ」
魔王「案外、そんなもんだよ」
勇者「そっかー」
僧侶「勇者さん。パンツ一丁?」
勇者「イエースッ! パンツ一丁!!」
盗賊「勇者のパブリックイメージもそろそろ底辺だな」
勇者「そうかなぁ。俺は親しみ易さを演出してんだよ」
盗賊「もう電話切るぞ? じゃあな」ブツ
☆
勇者「盗賊が俺に呆れていた……。ダメだな、俺。もっとしっかりしないと。」
魔王「……。」
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勇者の性別によっては盗賊がアレな人に見えます今回。…まあ、細かいことですよ。細かい……かなぁ??
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