24 勇者と魔王がキャッチボール
勇者「魔王、俺とキャッチボールをしよう」
魔王「…は? 何でだよ。やらねーよ」
勇者「何故だ」
魔王「……は??」
勇者「お前にはキャッチボールのできる肉体があり、こうしてここにボールがあり、グローブも2つある。……さあ、言ってみろ、お前がキャッチボールをしない理由を!」
魔王「……えー……。……だって、外寒いし」
勇者「家の中でやればよい。さあ、これでお前がキャッチボールをしない理由はなくなった!! 投げるぞー、投げるぞー! 落としたら墨でラクガキな」
魔王「……何故に」
勇者「恋に落ちるのは一瞬、結婚の苦しみは墓場までだ! 分かるか魔王!!」
魔王「……いや、急に何言い出すんだよお前。謝れ、全国の既婚者に謝れよ」
勇者「やだね!! 俺の母さんはなぁ! 勇者の父と結婚したばかりに早くも未亡人なんだ! もう父さんが俺に微笑んでくれることはない……!」
魔王「いや、あの。それについては……、マジごめん」
勇者「何謝ってんの? バッカじゃねぇ? アハハハハ!」
魔王「……もう誰かコイツ止めてくれ。」
*
勇者「というわけで俺たちは仲良くキャッチボールをしています。わぁーい、たーのしーいな」
魔王「何故俺がキャッチボールなど……。魔王が! 魔王軍の最高責任者が!!
我が命の元に兆単位の金貨が動き、我が呪縛で神も精霊も人間界に加護をもたらせない。その魔王が! 勇者と! ……っっ、あ、ボール落とした」
勇者「わーい、らーくがきー、らーくがきー! 額に肉って書いてやろ。わーい、わーい♪」
魔王「……っ!!」
部下A「……あ。さっきから城の窓から見てましたが、とうとう魔王様がキレました」
部下B「だらしねーなー、魔王もよォ。大人げない」
側近「……いやあれは、わたくしも我慢しませんね」
部下B「側近も? なんだよなんだよ、みんな案外気が短いのな」
部下A「……(嘆息)」
*
勇者「さあ部下A、俺とワルツを踊ろう」
部下A「ぎゃあああ!? 何でですか!! 勇者さんとダンスなんか踊りませんよ!! 第一、僕のアタマが勇者さんの胸くらいじゃないですか! 身長差ありすぎです!!」
勇者「愛があれば歳の差なんて!!」
部下A「愛なんてありませんよ気色悪いこと言わないで下さい!!」
勇者「部下Aに拒否られた」
魔王「魔族相手に軽々しく愛などと口にするな。魔界では放送禁止用語なのだぞ」
勇者「なんだと!? 愛、こんなに素晴らしい言葉が!? ……むぎゅ。魔王が何故か俺の口にフランスパンを詰め込んだ」
魔王「あとタルト・タタンとフロランタン、チョコレートケーキもあるぞー?」
部下A「魔王様、勇者相手に何やってるんですか……」
魔王「愛とか希望とか勇気とか正義とか聞くと死にたくならない?」
部下A「あー、なります、なります。あんなに下品な言葉をホイホイくちにするなんて、人間ってどうかしてます」
勇者「俺はどうかしていたのか」
部下A「……(哀れむような目)」
魔王「……。(慈悲深い眼差し)」
側近「…………。(仏のような微笑み)
勇者「……え? あれ。そんなに?? まじで?」
3人「(無言で頷く)」
勇者「うわあああ、みんないじめる!?」
部下B「まあ冗談はさておき」
勇者「冗談じゃなかった!! 今の目はマジだった!!」
部下B「4人の魔物に取り囲まれた勇者の手にはボールとミット。今なら殺れんじゃなかろうか」
側近「……ええ。いけそうな気がしてます」
部下A「僕も数に含まれてますか?」
勇者「……、転移魔法!!」
側近「追いなさいっ! 四天王!!」魔王「(あー、逃げたか)」
側近「何をボーッとしてるんです魔王様! 勇者を始末する千載一遇のチャンスです! 今こそ奴らの国に総攻撃を!!」
魔王「……まあ、側近がそれでいいなら」
側近「魔王様っ!!」
魔王「場外ホームラン」
側近「はっ!!?」
魔王「……何でもない。(……あー、たりぃ)」
チュンチュン(雀たち)
勇者「爽やかな朝だな! な、部下A!」
部下A「そう問いかける勇者さんの足元には、魔王軍128魔将の動かぬ骸が累々と積み重なっていました」
魔王「(……だから嫌だったんだ)」
勇者「さぁ、みんな、俺とキャッチボールをしよう!」
読んでくださってありがとうございます!