22 勇者と魔王とビーフシチュー
勇者「イエースッ! 勇者です! 今日はお昼の料理番組を見ながらビーフシチューを作ってみました」
魔王「一刻も早く魔王を倒さなきゃいけない状況でビーフシチューを作ってる余裕とかあるんでしょうかね、この勇者は」
勇者「何か教育ママみたいなこと言い出したぞ。いいから聞け、魔王。まずそこに座れ。もちろん正座な」
魔王「勇者が正座の魔王に説教か! いい度胸だ」
勇者「いいか、人間にとって食は基本だ。
You are what you eat.という言葉もある。食べたものが、その人間の内面と外面を形作るんだ。
明日の自分を作るものが、今日食べたものなんだ。そう考えると、食って大事だろ?」
魔王「さすが人間、ママのミルクで出来ている」
勇者「なんだとぉ! うちのママをバカにするな!」
魔王「マザコン勇者が隣でマジギレしてる件wwwwwww……と」
勇者「さも当たり前のようにスレ立てんなこの2ちゃんねらー め! VIPに訊かないとカノジョに花も買えんのか!!」
魔王「でも花ってどうなの。本気で喜ぶ日本人女子いる? 外国映画じゃあるまいし」
勇者「俺はー……、嬉しいぞ。さあ花を寄越せ!」
魔王「神剣構えて迫らないで下さいマジで便秘になりそう」
勇者「神剣の効果が便秘とかどうなの、女神様」
魔王「便秘バカにすんな! 辛いんだぞ、苦しいんだぞ!
あの便所にこもる時間の切なさ、便所から出てくる時の哀愁…、便秘になったことのない貴様に解るのか!? 否!! わかってたまるか!!」
勇者「ゴ…、ゴメン、魔王がそんなに便秘に対して本気だとは思わなかった。これからは気をつけるよ…」
魔王「…いや、いいんだ。俺もそんなに便秘になったことないからな」
勇者「何だと!? 俺に嘘をついたのか! 魔王!!」
魔王「うん…、ゴメン」
勇者「悲しみを…、俺の悲しみを返せ! 魔王になんか同情した俺が馬鹿だった!!」
魔王「うん…、まあ、魔王だからな」
部下A「ところで、勇者さんの持ってきたビーフシチューがそこで悲しく冷めてます」
勇者「おっといけねえ」
*
魔王「はー、美味いな、このビーフシチュー」
勇者「だろう。会心の出来だ。ちょっと冷めはしたがな」
部下A「勇者さん…、ところでこのビーフシチュー、隠し味に木工用ボンド入れました?」
勇者「おお、よく分かったな。盗賊に食わせたらこの料理は殺人的だと言われてな。人死にが出るのはマズいから、魔族に食わせようと持ってきたんだ」
魔王「さりげに非道いな、お前」
勇者「…いや、俺的には普通のビーフシチューでは歯ごたえが足りないと考えたんだ」
魔王「確かに貴様は普通に食べているな」
勇者「うん。美味いよ?」
魔王「試しに側近にも食わせてみよう」ケータイを取り出す
魔王「…あー、うん。側近? 美味いビーフシチューがあるんだけどさ、食べに来ない?」
側近「20メートル離れた位置のわたくしにケータイ使うとか、何がしたいんですか、魔王様」
魔王「隣の部屋じゃん」
側近「そんなにコタツから出たくないんですか! さすがは魔王様!」
部下A「素敵な笑顔で褒めてますね…」
勇者「…うん。素敵な笑顔で褒めてるな」
側近「だりゃああぁあ!!」
部下A「側近様が…!」
勇者「コタツをちゃぶ台返し…!!」
勇者「よし、部下A! ビーフシチュー鍋はキャッチしたぞ!」
部下A「さすが勇者さん…!!」
魔王「あっぶねーな。ビーフシチューってさりげに洗濯しても落ちにくいんだぞ!」
側近「これが! このコタツが!! こんなものがあるから…!! 元の勤勉な魔王様を返しなさい! コタツめ!!」
勇者「ぅあー、もう、手遅れじゃね?」
部下A「ですよねー」
側近「ふんっ! はぁっ!! トドメ!!!」
部下A「浮かしたコタツにコンボ技かけてます」
勇者「ピヨッてるのに容赦ねえなー、完全にオーバーキルじゃね?」
魔王「あーあ、またコタツ取り寄せないと」
部下A「角の電器屋さんで大安売りしてましたね」
魔王「じゃ、ちょっと買ってくるわ」
部下A「車には気をつけて下さいねー」
・・・半刻後。
魔王「ただいまー、安かったよー、コタツ」
側近「そうでしょう、そうでしょう。さ、それでコタツは何処です?」
魔王「隠してきたよ。また側近に叩き割られちゃたまんねえ」
部下A「コタツは良いですよねぇ、全ガーゴイルのロマンです」
勇者「俺の勇者の剣より尊いものだ」
魔王「さ、ビーフシチューの続きを食うか」……ガリッ
魔王「???」
勇者「おお、当たったか。俺のブラックスミス技能を駆使して作った、マカロニ」
魔王「……マカロニ、だと? これが?」
勇者「名付けて勇者のマカロニ!! 食べると歯が鉄より頑丈になるんだ!」
魔王「鉄より頑丈な歯じゃなきゃ食えねえよ」
勇者「そこが今後の改良点だな」
魔王「このマカロニ? に改良しなくていい点などなかろう」
勇者「魔王はちょっと普段、いいモン食いすぎなんだよ。少しは庶民の暮らしを思いやれ」
魔王「……そうか。俺が間違っていたようだ」ガリガリ
部下A「あわわわ、魔王様……、いくら何でもお腹壊しますよ」
勇者「このマカロニはどうだ! ハニカム構造の断面にヒントを得て作ったんだ!」
部下A「わぁい、ブラックスミス(鍛冶屋)技能で作られたマカロニ最高」
魔王「いや、鉄分多すぎだろ、客観的に考えて」
勇者「鉄分の不足がちな若い女性にも是非」
魔王「勇者としてそれでいいのか貴様」
勇者「ん? 何で? 俺は勇者としての生き方を後悔したことなどないぞ?」
部下A「そうですよ魔王様。人間集団っていうのは一様に見えますが、ある程度以上の知能がないと過去を振り返ることはできないんですよ」
勇者「そうだそうだ! 分かったか魔王!」
魔王「あー、うん。勇者はそれでいいんだな、たぶん」
勇者「さーて、明日は何を作ろうかなー、お料理たのしいなー」
魔王・部下A「(明日は何を食わされるんだろう……?)」