21 勇者と魔王とだらだらと
勇者「勇者です」
魔王「魔王です」
部下A「部下Aです」
勇者「昨日は魔王城を大掃除したらしいな」
魔王「大変だったわー。使ってない部屋とかも多くてさ」
部下A「魔王城は広いですからね」
部下B「畳もみんな干したんだ」
部下A「タンスの裏から十ゴールド硬貨を見つけました!」
魔王「天井にくもの巣が張ってたからさ」
部下A「僕たちが頑張って掃除しました」
僧侶「魔王城的にそれはどうなんです・・・? 掃除の行き届いてピカピカな魔王城に私たちは攻めこまなきゃならないんですか・・・!」
魔王「・・・誰?」
僧侶「勇者パーティの僧侶ですよ僧侶! もー、魔族って勇者しか見えてないんですか!」
盗賊「・・・ども。盗賊です」
魔王「勇者パーティって3人?」
僧侶「そうですよ?」
盗賊「俺のクリティカルと勇者の攻撃が主戦力だ」
僧侶「あたしも攻撃力にパラメータかなり振り分けてますけどね」
魔王「へー」
勇者「感心している場合か魔王! 俺たちのパーティが強化されれば、それだけお前の負ける確率が上がるんだぞ!?」
魔王「それもそうか。やりなおし」
部下A「やり直さなくていいですから・・・」
部下B「しっかし、いいな~。オレもレベルアップ、してみたい」
魔王「我々はレベルアップしないからな」
勇者「・・・ふっ」
魔王「人間め!!」
勇者「魔王め!!」
魔王「まあそれはさておき」
勇者「・・・ふっ」鼻で笑う
魔王「いいよ別に一生レベルアップなんかしなくても。俺はどうせ魔王だよ」
部下A「僕はどうせ部下Aです・・・。一生、部下Aなんです! 出世しても部下A! 課長になっても部下A! 自分で事業を興して社長になっても部下A!!! 僕なんて・・・!!!」
魔王「落ち着け部下・・・えっと」
部下B「よっ、大魔王A!!」
部下A「大魔王にAもBもありませんよっ!? 大魔王様は大魔王様なんです! ただそれだけでアイデンティティ! オンリーワンにしてナンバーワン! それが大魔王様・・・!」
魔王「悪かったな中間管理職で」
部下A「魔界に行くと魔王様レベルの魔力持ちはざらにいますからね・・・」
魔王「うむ」
勇者・僧侶・盗賊「・・・。」
盗賊「嫌なこと聞いちまった」
勇者「まったくだ」
僧侶「あたし、普通の女の子に戻ろうかな・・・」
勇者「俺も普通の村人に戻ろうかな」
盗賊「俺もただの泥棒に戻ろうかな」
勇者「この中に1人、悪人がいる!!」
魔王「すみませんでした。ハリケーンもタイフーンもスコールも霧雨も雷雨もガウディもネッシーもみんな俺のせいです」
部下A「魔王様、落ち着いて」
部下B「そうだぞ、魔王。こういう時は胸を張ればいいんだ」
部下A「そうですよ。びくびくしてるから万引きと間違われるんです」
勇者「えー。魔王が万引きとかどうなの?」
側近「お小遣いはちゃんとあげていますよ」
魔王「ストレスがたまってつい・・・。ってやっとらん」
勇者「万引きってあれだね、愉快犯の一種?」
魔王「CDショップとかゲームショップは出入り口にたいていセンサーが付いているらしいな」
勇者「ビーって鳴るやつな。最近、本屋にもついてる」
魔王「背広を買おうとしたらそれにもインクの飛び散るタグがついてた」
部下B「靴屋では靴が壁にくくりつけられてた」
盗賊「オレは・・・オレは何も・・・」
僧侶「盗賊はいいんですよ。他人の家に入ってお金を取っても」
盗賊「遺跡な遺跡。古代の遺跡」
勇者「盗掘だって」
盗賊「世知辛い世の中だ」
*
魔王「もうすぐ新年かー」
勇者「何。忘年会でもやる?」
魔王「クリスマス空いてる?」
勇者「んにゃ。その日は実家に帰ってサンタ・クロース捕獲計画を実行に移さねばならん」
魔王「まだ信じてたのか、サンタクロース」
勇者「信じろ! お前の目には見えないのか! あの白ひげ赤服の太ったおじいさんが・・・!」
魔王「だからそれは商売で・・・」
勇者「バカを言え! サンタクロースは実在する! 妖精さんがいるのと同じだ!」
魔王「いるのかよ」
勇者「妖精も見たことがないだと!? 魔王の分際で!!」
魔王「えー・・・」
勇者「信じる心を失った人間はただの動物だ! 想像するからこそ、見えないものを見るからこそ、人間は! 人間なんだ!!」
魔王「まじで?」
勇者「うん。まじ」
魔王「しょうがないなあ。それだけ言われちゃなあ」
勇者「分かればいい。さあ、魔王もサンタさんにお手紙を書こう」
魔王「・・・。」
勇者「なんだよ。書けよ。信じるんだろ?」
魔王「えー・・・、拝啓、サンタ様。俺のコタツを半分やるから世界を全部ください」
勇者「何だその不等価交換」
魔王「いい案だと思ったんだがなあ」