18 第二よ、永遠(とわ)に
勇者「魔王~、ちょっと聞いてくれよー」
魔王「おう、どうした」
勇者「国王がさ、俺のこづかい減らすとか言っちゃってんの。超ありえなくね?」
魔王「さもありなん」
勇者「いーやー、とめてよ?! とめてくれよ!! お前の武力で王様を思いとどまらせてくれよ!?」
魔王「・・・いや、そこまでせずとも」
勇者「何? 何かいい案あんの?」
魔王「・・いや。ガンバレ」
勇者「うっわ、超他人事。他人のことと書いて他人事」
部下A「魔王様が勇者さんに小遣いあげたらどうですか?」
魔王「それはどういう関係になっちゃうんだろうなぁ部下A」
部下A「え? 魔王様が勇者さんを養ってるんですよね。問題ありません!」
魔王「あるっつーの」
勇者「そうかなぁ。いい案だと思ったんだけどなぁ。ねぇ、部下A」
部下A「ねぇ、勇者さん。いい案ですよねー?」
魔王「ガーゴイルが勇者と駆け落ちフラグ」
部下A「や、やめてくださいっ?! 胸が大きい人とか、好みじゃないんです!」
勇者「俺も肌が岩肌の人はちょっと。ごつごつしすぎてて」
魔王「ていうかお前、女だと思われてなくね?」
勇者「失礼な! こんな ないすばでぃ、国中さがしたってそうそういないぞ?!」
部下A「自分で言っちゃう所が勇者さんです・・・」
魔王「自分で俺っていうのが問題なんだよな。『あたし』にしてみたら?」
勇者「あたし、勇者。今駅前のマックにいるの」
部下A「何がしたいんですか勇者さん」
勇者「あたし、勇者。今あなたのアパートの郵便受けの横に立ってあなたの部屋を見上げているの」
魔王「ふむふむ」
勇者「あたし、勇者。今ニュージーランドにいるの」
部下A「遠ざかった?!」
魔王「音速超えたな」
勇者「ってかケータイ普及した今となっては怖くも何ともない」
魔王「ふつーに電話しつつ背後に立てるもんな」
勇者「いやいや、考えてもみろ。1ヶ月誰からも着信のない俺のケータイに、ある日突然、可愛らしい声の女の子が電話してくるんだ」
魔王「どんだけぼっちなんだよ」
部下A「まあまあ」
勇者「それで言うわけだよ。あたし、マリーさん。今あなたの後ろにいるの」
部下A「きゃーーーーっ!!」
勇者「あれだろ? 嬉しくて感激するよな!? もう何時間だって話し込んじゃうぜ」
部下A「話し込んじゃうんですか・・・」
魔王「話し込んじゃうんだ・・・」
勇者「わぁぁあああ、そんな目で見るな!!」
*
勇者「・・・俺、勇者やめたんだ」
魔王「そっか。今、どこもキビシイからなー」
勇者「派遣切りってやつ? たまんねーよな、ああ、もう明日からどうしよ」
魔王「勇者よ、私と手を組まぬか。世界の1/π をやろう」
勇者「割り切れてない!? 端数どうすんだよ、端数!!」
魔王「え? ・・・そうだな。頑張って割り続けてみたらいいんじゃない?」
勇者「適当なこと言うなよ!? 俺の取り分をちゃんとハッキリさせろ!」
*
魔王「あーー、ゆーうつ。やっぱ悪事とか企まなきゃなんないのかなー。正直、疲れるんだよね、悪事とか。高笑いとか。第3形態とか。あーー、正直さー、早いトコ退職したいわ。リストラとかしてくんないかなー。早期退職とか喜んでするよ。」
部下A「ま、魔王様…。勇者どもが城を取り囲んでいます。ゴキブリホイホイの使用も辞さないと申しております」
魔王「焼き芋の季節だな」
部下A「…はっ?」
魔王「焼き芋の季節だと言ったのだ!」
部下A「はっ! 魔王様のおっしゃることはいつでも正しいです!!」
魔王「Yesしか言わない部下とかいらねー…」
勇者「あー、魔王城の皆さん。諸君らは包囲されています。大人しく武器を捨てて投降すればよし。さもなくば我々はここでラジオ体操を始めます」
部下A「ま、魔王様…いかがされますか」
魔王「害はなさそうだが…」
勇者「いっちにー、さんしー、ごーろく、しちはち。手首を曲げてー、肝臓の運動! いっちにー、さんしー、ごーろく、しちはち。次は腎臓の運動です。おいっちにー、さんし」
部下A「内臓を鍛えるんでしょうか…」
魔王「鍛えるらしいなぁ」
勇者「さぁ魔王城の皆さんもご一緒に~」
魔王「……参加したやつ、クビな」
部下A「さすがワンマン経営の魔王軍」
側近「わたくしはやりますよ」
魔王「っ…、No.2! 裏切るつもりか!?」
側近「ふふ…、そう。あなたのうろたえる顔…そう、それが見たかった」
魔王「…くっ、側近…」
側近「くくく…、あーっはっはっは! 健康的なラジオ体操の前に為すすべもない! 手も足も出ない! いい気味ですね!」
勇者「おいっちにー、さんし。ごーろく、しちはち。」
部下A「い、いけない、僕もリズムに乗って体操してしまいそうです…」
魔王「部下Aまで…。おのれ、勇者め! その耳障りな音楽をとめろ!」
人間兵士「魔王がひるんだぞ! 今だ!!」
勇者「おいっちにー、さんし」
兵士「…あの、勇者さま?」
勇者「どうしたんですか、兵士さん」
兵士「魔王軍を叩くには今が好機に見えるんですが…」
勇者「馬鹿を言うな! この体操は第2まであるんだ! 終いまでやめるわけにはいかないんだ!」
兵士「かかれぇーー!」
魔物「うぉおおお!!!」
魔王「…烏合の衆とはこのことか。ゆくぞ、部下A~Z」
部下A「はいっ!」
部下B「ういっす!」
部下C(巨人)「アタシに踏み潰されたいのは誰かしら?」
勇者「はっ! いつの間にか音楽が止まっていた」
勇者「辺りには血臭が満ち、其処此処で魔術の火炎が上がる。断末魔の絶叫、戦端の雄叫び。ーー、いつの間にか雨が降り始めていたーー」
魔王「よお、勇者」
勇者「あ、魔王」
魔王「どちらかが倒れねば終わりになりそうにないな、この戦い…」
勇者「俺が…、俺が浅はかだった。ラジオ体操が世界を平和にしてくれるって…、あの頃は信じていたんだ」
魔王「無理もない。ラジオ体操だからな」
勇者「魔王…、う、うおおおお!!」
ザシュッ
……
勇者「ーー、ま、おう?」
ドシャアッ
勇者「え……」
部下A「魔王様ッッ!!」
勇者「……え、何、コレ……」
部下B「魔王!」
部下C「魔王様!」
勇者「……え」
*
王様「よくやった、勇者よ。永い旅であったな」
勇者「……」
王様「魔族の脅威は去り、新たな世界が始まるのだ」
勇者「……」
王様「勇者よ……、本当に行くのか? 姫もそちに、ここに残ってほしいと願っておる」
勇者「…いえ、決めたことです」
王様「…そうか…。仕方あるまい。…また、いつでも帰ってくるのだぞ。ここを自分の家と思って……」
勇者「はい。」
そして勇者は再び、ーーひとり、旅立っていった。どうか、忘れないでほしい。平和の陰にはいつだってラジオ体操がありーー、勇者が、いたのだ。
fin.
あとがき
たぶん……まだ、続く……予定です。