★魔王様、リプライをする。
■魔王様、リプライをする。
小柄な魔王はもじもじと言いづらそうに、透明な声を絞り出した。
魔王「…したいのじゃ」
勇者「ん? んん」
魔王「…だから。したいのじゃ」
勇者「あ。あれな? 世界の行く末を決める最後の戦いな? いやぁ、俺もいつかはしたいと思ってる。そうすべきだ。
このままでは人類のためにも魔界のためにもよくない。そうは思ってる。
でもなー。だけど、なー? まだ、早くない? 俺ら出会ってまだ百年くらいじゃん?
世界の行く末を決めるバトルとか、早すぎない?
幼稚園児が老人ホームに入居して隠居しちゃうみたいな感じにならない?
まだこれからおじいちゃんの介護とか、おばあちゃんの介護とか、人生には先にやるべきことがあるんじゃない?」
魔王「介護をか…」
勇者「行く末のないおじいちゃんとおばあちゃんに惜しみない愛情をそそぐ。
ウンチをすればオムツを交換する。お腹が空けば流動食を与える。痰がからめば吸引する。
ウンコを食べれば、口を拭いてあげる」
魔王「ウンコを…」
勇者「ああ。ウンコをおはぎのようにほおばる俺のおばあちゃんを見て、俺は幼心に思った。
あぁ…人間とは、ウンコを食べるために生まれてくるのだ。
大学教授も、政治家も、文豪も、棋聖も。いつかは老い、口にいっぱいの排泄物をほおばり、ニコニコと笑う。
これが人生の意味であったのだ、とーー」
魔王「ちょ、待て。ナミダが…」
勇者「わかっている。受け入れがたい現実だろう。だが、事実だ。認めなければならない。どんなに目をそらそうとも、老いという現実は目の前に迫っていて、君がウンコをほおばる日は、刻一刻と近づいているのだ」
魔王「い、いやじゃぁあああ…」
勇者「で、何だっけ?」
魔王「ああ、うむ。わらわの悩みなど、食されるウンコの前では些末なことに思えて恥ずかしいのじゃが…」
勇者「うんうん。わかる」
魔王「わらわは、至極まっとうに生きてきたつもりじゃ」
勇者「まぁ、公共交通機関にまっとうにお金払って乗る時点でそうだろうね」
魔王「う、うむぅ。それでのう。近年はその、流行っとるじゃろ、あの…」
勇者「誰でも好きなこと書き込める公共掲示板みたいなやつ?」
魔王「! そう、それじゃ。それでのう、はじめは使い方がわからんでのう…。
公共放送のあかうんと? をフォローしてみてのう」
勇者「うんうん。公式マークのついてるアカウントは安心感あるね」
魔王「そしてのう。その。にゅーすの記事の下に、意見を書きこんどるじゃろ…。その」
勇者「あー! あれか! 見当外れな! 何言ってんだオマエっていう!」
魔王「うむ。初めて目した折には自らの目を疑った。
公共の場所で、このような迷惑発言がゆるされ得るものなのか、と…」
勇者「なるほど。それをしてみたい…と」
魔王「うむ。誰にも迷惑をかけないのであれば、わらわもあのような行いを試しにしてみたいのじゃ…」
勇者「ワルにあこがれちゃう年頃なんだね! いいねいいね、ぜひやってみよう!」
魔王「うむ!」むふー!
勇者(公式☑)「子どもが生まれました!」
魔王「りぷらい、とはこのフキダシまーくを押すのじゃな。どれどれ…
『素晴らしい出来栄えですね。ぜひ、邪神さまの供物にしたいので譲っていただけますでしょうか。』」
勇者(公式☑)「お菓子を焼きました!」
魔王「CO2排出対策はしていますか? 車でスーパーに行くとガソリンを消費し、二酸化炭素が排出されます。
あなたの人生にはもっと大切なことがあるはずです」
勇者(公式☑)「仔猫を拾いました! かわいい~!」
魔王「仔猫は取得物なので、今すぐ警察に届けるべきです。取得物横領に当たります」
勇者「わォ!」
魔王「ど、どうであったかのう…? 初めての りぷらいで緊張したぞ…」
勇者「いいねいいね! 朝からこんなん見たらクッソテンション下がる。
魔王「上出来であったか?! ウレしいのう…! この調子で、朝のニュースに自分の見解を述べてゆけばよいのじゃな、SNSとは。
いっぱしの専門家の気持ちになれてなかなかに満足感があるのう♪」
勇者「…あの。ほどほどにね…?」
魔王「? 任せるがよい! 魔界の主として、存分に意見を述べてくれよう!」
勇者「あぁああああ…、魔王を倒さなきゃ世界救えないかんじ…? 俺、ラストバトルのルート入っちゃった…?」
END
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