16 フローラル・ゾンビ
魔王「えー、今日は手芸でこんなものを作ってみました」
???「うがーっ」威嚇ポーズ
部下A「わー、ゾンビじゃないですか。かーわいーい」
魔王「だろ? いやぁ、徹夜で苦労した甲斐があったな」
部下A「はみ出してる内臓なんて最高ですね」
魔王「こっちはどうかな」
部下A「首から上がありませんね…」
魔王「攻撃力にはやや欠けるが、数と、しぶとさで人間どもの街を恐怖と混乱の渦に陥れるのだ」
部下A「サイコーです! うわぁ、ワクワクしてきました! 側近様にも見せに行きましょう」
魔王「そうだな」
勇者「ちわーっす、勇者です」
魔王「ヤバいヤバい、隠そう」
部下A「魔王さま! 台所の冷蔵庫と風呂場に!!」
魔王「よっしゃ分かった!」ぎゅうぎゅう
勇者「…あれ、取り込み中か?」
魔王「いやいや! 大丈夫だいじょうぶ」
部下A「風呂場にゾンビを隠していたわけじゃないんですよー」
魔王「(部下A……)」
勇者「…ふーん? ま、あれだよね。俺としては、悪は見逃せないわけじゃん?」
魔王「面倒な性格だな」
勇者「そんなことないって。ゴミのポイ捨てとかありえない! …なんか臭わない? 肉の腐る臭いみたいな……」
魔王「…あー、最近ゾンビを量産しててな。…ホラ、そういうのの出てくる映画、あるじゃん」
勇者「へー、あるんだ」
魔王「うむ、あるのだ。そこからゾンビの大量注文が入ってな」
勇者「でもさー、この臭いは、な。消臭剤とかないの?」
魔王「仕方ない、ちょっと買ってくる」
部下A「わわっ! 僕が行きますから!? 魔王様がホームセンターでトイレット・ペーパー買ってるとか目立つんですよ!?」
魔王「…すまん」
勇者「フローラル・ゾンビ…」
魔王・部下A「はっ!?」
勇者「いやさ、レモンバームの香り付きのゾンビとかよくね?」
魔王「ゾンビの臭いは、恐怖心を煽る効果もあるのだ。フローラルでは意味があるまい」
勇者「ダメかー。俺、あの匂いけっこう好きなんだよね。キンモクセイとかせっけんの香りとかー」
魔王「……。」
部下A「やめてェーー! お花の香りで消臭! あなたのお部屋にハワイの風! お車の消臭にも最適です! あなたの助手席に首なしゾンビ! とかやめて下さい!!」
魔王「エスパーか貴様。」
勇者「いいな……」
部下A「よくないですよ!? 勇者さんも、どういう感性してるんですか!?」
勇者「あの臭いキッツいんだよ。アンデット・モンスターとか、スケルトン以外は臭いで遭遇前に気づくよな」
魔王「意外な弱点だな」
勇者「意外? 臭いとか真っ先に気づくだろ」
魔王「消費者の貴重なご意見。」
部下A「(消費者って……)」
勇者「というわけで、これ以降、俺の前に立ちはだかるゾンビはすべてフローラルにしろ!」
魔王「よかろう。部下A~Z! 明日はミドガルズ王国に侵攻するぞ! もちろんフローラルなゾンビどもを使ってな」
勇者「うわぁ。実行力のあるトップって素敵」
部下A「勇者様ぁ」
勇者「俺に任せるんだ部下A! フローラルなゾンビは俺が倒す!」
*
翌々日。
部下A「しくしくしく」
勇者「泣くんじゃない部下A」
部下B「勇者とかマジ鬼畜」
魔王「…まあ、お約束ではあるな」
部下A「勇者さんの仲間の魔法使いさんが、大規模な火炎魔法でゾンビの群れを一掃して……」
勇者「王国は救われた」
魔王「フローラルな消臭効果は、肉の焼ける硫黄臭に凌駕されていたらしいな」
部下A「現場で事件が起きてました……」
部下B「事件が現場で起きてたぜ……」
※ 香水と悪臭が混ざり合うと、ちょっと名状しがたい臭いになります。
*
姫様「初めまして苦しゅうない、姫です」
魔王「ようこそ魔王城へ」
姫様「(キョロキョロ)…アレはどこじゃ?」
魔王「アレ?」
姫様「わからぬヤツじゃ! さあ、隠されたエロ本とエロゲを差し出せ!」
魔王「ええっと…、誰か持ってる?」
部下A「筋肉多めのヤツなら」
部下B「ちょっと特殊なヤツなら」
部下C「お嬢ちゃんにはまだ早いんじゃない?」
姫様「早くない!」
魔王「エロ本山積みの魔王城とか嫌だな」
部下A「全くです」
姫様「そなたら、それでも男か!!」
魔王「魔王だ」
部下A「石像です」
部下B「俺は男ですが…」
部下C「女です」
勇者「勇者です」
魔王「うわっ、もう来たか! 姫は返さんぞ!」
勇者「誘拐の現行犯で逮捕だ!」
魔王「…ああ、マニュアルが面倒くさい。ドラゴン、相手をしろ」
悪竜「やですよ、勇者とかレベル上げすぎなんだよね」
勇者「ダンジョンが長いのが悪い」
部下D「作るのマジ大変でした!」
魔王「くそ、マニュアルさえなければ私が相手をするのに!」
勇者「…マニュアル?」
魔王「魔王組合の規定があってな? 姫はドラゴンにさらわせろとか、その場合、戦わせるのもドラゴンに、とかうるさいんだ」
勇者「誰も見てねーって」
魔王「…いや、そこの、目玉に触手のついたモンスター。天井に50体くらいぶら下がってるヤツ」
勇者「細かいな、面倒くさい。」ズバッ
魔王「魔王商工会議所に怒られる……」
勇者「どんだけ色々制約あんだよ」
魔王「色々な」