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「ども、魔王です」「こんにちは、勇者です」  作者: 魔王@酒場
新米魔王様は食卓にて待つ。
159/162

魔王様、ヒュッゲする。/ 新米魔王様、決算する。

■ 魔王様、ごろごろする。


魔王 ごろ~ん

魔王 だら~ん

魔王「…ふぅ。今日もよい一日であった。就寝するとしよう」ぱちり ←魔導ランプをけす音


勇者「いやいやいやいや、どこが! どこがスか、魔王氏!

アナタの今日のドコに! どこいらへんに! そんな満ち足りた顔色で安眠できる成し遂げたモノがあったんですか!!」


魔王「…フッ。分かっておらぬな…勇者よ」

勇者「な、なにを…?」ゴクリ


魔王「よいか? 想像してみるがよい。

外は吹雪で、冷たい嵐が吹き荒れている。びゅごぉおおお」

勇者「びゅごおおお」さむさむ


魔王「貴様は暖かい暖炉の前でまどろんでいる」

勇者「お? おお。でっかいモッフモフの犬とかかたわらにいたりしてな」


魔王「なんなら猫も三匹つけよう。サバトラと三毛と黒猫だ」

勇者「ヤッター!!」バンザ~イ!! むぎゅううう~!




魔王「とある国の人々はこの感じに名前を付けて愛でている。

その名も『HYGGE』という」


勇者「ごろごろだらだらすることに名前をつけて愛でる!

道理で世界で一番シアワセな国になれるワケだ!」


魔王「というワケで俺様は彼らを見習い、ヒュッゲする時間を最大化することにした。

それ即ち、幸福の追及」


勇者「そ、それでごろごろだらだらしていた…とおっしゃる?」

魔王「うむ」


魔王「そもそも、貴様らの国の人間はせかせかと働きすぎだ。

働きアリこそがこの世で一番偉いと思っている」


勇者「働かざるもの、食うベカラズ~! っていうもんな」



魔王「よく働き、よく遊べ。つまりはバランスだ」

勇者「ふむ…。一理ある」


魔王「勇者よ。貴様にとっての『HYGGE』とは…何だ?」

勇者「月並みだけど、アレかな~。寒い荒野を旅してさ」


魔王「ふむ」

勇者「温泉見つけて飛び込む瞬間」


魔王「だから何故そう、せわしなく…。まあ、よいか。

そのひとときを堪能するのだな」

勇者「そうそう。ニンジンスティックとかモリモリ食べて」


部下A「温泉でニンジン…新しい試みですね」メモメモ

勇者「なんなら誰もいなければ全力で泳ぐ。満喫する」


部下A「勇者さんってこう全体的に…生き急いでますよね。アクティブというか」

魔王「ふふふ。まあ、人それぞれであるな」


勇者「そうそう。そうか~。魔王はさ、人生の目的を見つけちゃったんだね」

魔王「? どういう意味だ」


勇者「『ヒュッゲ』すること、って今じぶんで言ったじゃん♪」

魔王「うむ…?」



■ (東の)新米魔王様、決算する


秘書「魔王様。今期の営業成績です。

人間どものばら撒いた生物兵器により大幅に成長率は減少したものの、

ドライブスルー・デリバリー・テイクアウトに重点を置く戦略により、

プラスの利益をかろうじて上げております」


魔王(東)「…ん? 今、何と言ったかの?」

秘書「? プラスの利益をかろうじて上げております」


魔王「その前じゃ」いらっ

秘書「ドライブスルー・デリバリー・テイクアウトに重点を置く戦略により…」


魔王「なんて?」

秘書「こほん。魔王様はご存じないかもしれませんが、我らのダンジョンは先年、ドライブスルーを開設いたしました」


魔王「…ほ、ほう?」

秘書「具体的には、冒険者どもは、馬車に乗ったまま窓口を通り過ぎ、魔物たちにダメージを与えることができます」


魔王「いや、それはどうなのじゃ、魔物的に」

秘書「前線の魔物たちからは、冒険者どもとの接触を減らし、感染のリスクを抑えることができると非常に好評であります」


魔王「で、あるか…」


秘書「続いてはデリバリーです。これは、宿屋にいながらにして魔物討伐を行いたい冒険者パーティのために」

魔王「…なんて?」


秘書「こほん。つまり、昨今、市井では未知の感染症が流行しており、冒険者どもも、冒険に出かけるのは健康上のリスクが高いと認識されているようです」

魔王「もっともじゃな」


秘書「冒険者どものなきがらから得られる武具などの売却益は、我が城にとっても、欠くことのできぬ収益源です。

収入の30%ほどを占めており、これからの成長は期待できないものの、安定したキャッシュフローを生む業務です」


魔王「ふむ」

秘書「ゆえに、討伐を行いたい冒険者と、冒険者を襲撃したい魔物とを魔導チャネルを用いてマッチングし、

迅速に顧客のもとへ出向することで、双方にとって意義のある出前が可能です」


魔王「そ、そうなのじゃな…。」

秘書「はい。さいごに、テイクアウト…これは説明する間でもありませんね」


魔王「…いやその、できたら説明してくれんかのう? 共通認識の確認のためにも…」

秘書「心得ましてございます。ぺこり。

これは、ダンジョン内において指名された宝箱を、冒険者が持ち帰ることができます」


魔王「持ち帰られてしまう…。ほう」

秘書「人間どもとの接触をできるだけ避けつつ、ミミックを混ぜることで、サプライズも期待できます」


魔王「そりゃ、注文と違うモノが出てくるのは、確かにサプライズじゃな…」

秘書「イートインに比べ適用される王国税率が2%低いため、ご好評いただいております」


魔王「イートインで何をするのじゃ、冒険者どもは…」

秘書「はい。冒険には食事が欠かせません。アスリートである肉体派の前衛職ともなればなおさら。

そこで、わがダンジョンでは栄養を考えた食事を冒険者どもに提供し、より高いスコアが出せるよう、

サポートしております」


魔王「いたれりつくせりじゃな」

秘書「人間どもあっての我々ですからーー。滅んでもらっても困るのです。

もっとも、魔王様がすべてを手中に収められ、新秩序を構築するまでの束の間の夢、ではありますがーー」眼鏡キラーン


魔王「フッ。ワシが天下をとったあかつきには、あの光あふれる地上を我らが大手を振って歩くことができよう」

秘書「もちろんでございます」ニコッ


***


魔王「ドライブスルー・デリバリー・テイクアウト…か。

フッ。小さな遺伝物質(※)の欠片が、これほどまでに大きく人間どもの社会を変えてしまえるとは…。

これもまたひとつの革命、よの。まこと、趣深いの。」


新米魔王は扇子をぱちん、と閉じ、豪奢なしつらいの ひじ掛けにもたれると目を閉じた。

変わるもの。変わらないもの。得るものと、失うもの。


魔王「すべてワシの裁量次第、か」

つぶやけば、かたわらの鳥かごでホトトギスが美麗な鳴き声を上げた。


※ ここではRNAを指します。


>>>

Thanks for Reading !


 1年ほど毎月更新してましたが、また、不定期更新(更新未定)に戻ると思います。

 感想もコメントもツッコミ待ちなのですが一向に全く反応ないし、ランキング上位には相変わらず似たような作品群が並んでて萎えますし。

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