魔王様、ASMRを堪能する。/ 魔王は勇者さんにブロックされています。
■ 魔王様はASMRを堪能することにした。
勇者「まおうー。この動画つまんなーい。ひたすら焚き火が燃えてるだけじゃん。
何がしたいの? ストーリーとかなくてイライラする。
こっちのは、雨がひたすら降ってるだけ…はー。気が滅入るわー。
動画でまで雨音とか聴きたくないし。もっと面白いの見よ」
魔王「…。」
勇者「まおう、なんで悲しそうなの? チャンネル登録とかキタイしちゃったカンジ?
やだーウケるー。これでチャンネル登録とかないわー。
って、アレ? すごい登録数あるじゃん?! 何なに、意味わかんない!!」
魔王「フッ。」
勇者「その意味ありげな笑いやめろ!
クッソー。自宅の暖炉の動画投稿しただけで再生数10000000とか!! ワケがわからん!!」
魔王「…クックック」
勇者「コッチはー。ひたすらカップ麺すすってるし! 何?! 何がしたいの?!!」
魔王「フハハハハハ!!! 勇者よ、気がついてしまったようだな!!
自律感覚絶頂反応の良さに!!」
勇者「なんだそのえろい単語…。なに? AVとかの一種? ラーメン食うのがアダルトビデオなの? 意味わからん…。」
魔王「…フッ。実はな」
勇者「ああ」
魔王「俺様にも何でこれがバズっちゃったのかわからん!!」
勇者「…あ、そうなんだ…。」
魔王「だが、これはカクジツに来てるね。雨音とかラーメン食う音とかの時代が!!
次はチャーハンを炒める動画にしよう。
捕虜を尋問する動画でも良いかもしれぬ…。」
勇者「尋問は日常や自然の音なの?」
部下A「ウチの城では、夜な夜な聞こえてますけど…。人間のお城ではチガうんですか?
亡霊のうめき声とか、すすり泣きとか…。
鉄の足かせが床を打つ音、骸骨の骨が落ちる音とか…」
***
秘書「ウチのオフィスでは そんな音、一切しません!!」
勇者「…あ、あれ? このヒトは?」
秘書「ハァイ♪ どーもー♪」
魔王「勇者よ、紹介しよう。姪の城から研修に来ている秘書二号さんだ」
秘書「ヨロシクでーす♪」
勇者「二号、ってなんかやな響きしかしねぇわ」
部下A「愛人二号、みたいな?」
勇者「一号も二号もない。平等に愛でる」
部下A「そうですね。『推し一号』『推し二号』とかないですもんね。
みんな方向性が違うだけで」
勇者「愛が足りてないのかも…」
部下A「まぁ、あぁいうのは自己責任の世界ですよね」
勇者「たぶんね」
***
魔王「わーい。また『いいね』がついたぞー♪」
勇者「今度は何の動画上げたの?」
魔王「トイレでの排泄音を」
勇者「究極のプライベートすぎるよ! 自重しろ!」
魔王「『ダメね』も半分くらいついた…」
魔王「だが俺様はあきらめぬ! 次は結核にかかったとき、喉から血を吐くまで咳き込んださまをアップロードしようぞ!!」
勇者「そんなん閲覧注意物件だろ!! アカウントを凍結してやる! 運営に通報だ!!」
魔王「(´・ω・`)ショボーン」
勇者「…コホン。とにかく、なんかそんな流れが来てるのは把握した」
魔王「うむ…。凍結された…」
部下A「定番は小鳥の鳴き声、せせらぎの音、中には雷鳴や、小舟をこぐ音なんていうのも」
勇者「落ち葉を踏んだり、草原を歩いたりってのもいいな!」
部下A「雪山を歩く音も欲しいですね」
勇者「おー! いいねいいね! ちょっといい録音機材持って歩くわ。
砂漠はどう? あんま音しないかな?」
部下A「でも、コヨーテの鳴き声なんか聞こえたりして…満月が出てたりして…」
勇者「いいね、いいね」
魔王「(´・ω・`)」
勇者「はー♪ タノシイなこれ!! もっと集めてみるよ」
部下A「はい! 共同でチャンネルを作って定期的に配信していきましょう!
ラジオ的な音声アプリも充実してきてますから」
勇者「旅が2倍楽しくなるな! 行ってきまーす!!!」
部下A「おみやげも楽しみにしてまーす!!」
魔王「排泄音…」
部下A「魔王様はデリカシーというものをお勉強してください」
魔王「…うん。がんばる…」
部下A「その意気です!」
秘書「…ふむ。小規模な組織のトップというものは、失敗を恐れず果敢に、禁断とも思えるアイディアを実行していくものである…と。音声メモ」
部下A「よい面にだけ光を当てていくスタイルですね」
秘書「ええ。何事にもよい面はあります。個室に一日こもることにも」
魔王「俺様はもう今日はトイレから出ない。ウ〇コになる。」
秘書「はい。たまには気分転換も必要ですよね! 外界を遮断し、重要な決断にのみ集中する…! エグゼクティヴなプライベート空間の活用法、ためになります!!」きらきら
魔王「ポジティブな人間がいるところ、根暗の闇もまた深くなるのだ…」どんより
部下A「魔王様、くじけないで!! ちょっといいトイレットペーパー、発注しときますから!!」
Autonomous
Sensory
Meridian
Response
■ 魔王 は 勇者 さんにブロックされています。
勇者「SNSで魔王をブロックしてみたぞ」
勇者「これで、魔王の発言は今後一切、俺のタイムラインに表示されない。快適だ」
勇者「3日が過ぎた。魔王をブロックすることで、俺のQOL(生活の質。Quority of Life)は格段に上がった。もう、奴が朝の色んなニュースにクソリプをつけるのを見なくていいんだ」
勇者「15日目。俺は、『魔王』という巨悪がこの世に存在していたことを忘れ始めた。
心をざわつかせる発言を見ないだけで、こんなにも一日を安らかに過ごせる。いい傾向」
勇者「三ヶ月後。この世に邪悪なんて存在しなかった。
世界が輝いて見える。俺が苦しみながら長い旅をして、魔物たちと戦う必要なんてなかったんだ」
勇者「半年後。もう冒険の旅はやめて、田舎でおしゃれな古民家カフェを始めることにした。
かわいい雑貨や花に囲まれて、今、とても幸せだ」
勇者「早朝に小鳥のさえずりで目を覚まし、ゆっくりと珈琲を淹れる。
日の出が大地を金色に染めるのを眺め、すがすがしい気持ちになる」
郵便屋「おしゃれな古民家カフェの店主さーん。郵便ですよー」
勇者「お? 何だろ。」
急ぐでもなく、封書を開く。
王様からのお手紙『魔物の軍勢はとうとう、我が王国の最終防衛ラインを突破。
我が城は完全に包囲されました。
援軍ヲ求ム。』
勇者「…。」
勇者「俺は何も見なかった。
そう。俺はこれからは、自分の幸福のために生きていくんだ。
誰にも…誰にも邪魔はさせない」
王様 は、勇者 さんに ブロックされました。
END
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