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「ども、魔王です」「こんにちは、勇者です」  作者: 魔王@酒場
新米魔王様は食卓にて待つ。
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魔王様、ベーシックインカム的なアレを申請する。/ 魔王様、気がつく。

■ 魔王様、ベーシックインカム的なアレを申請する。


窓口「貯金はありますか?」

魔王「インデックス・ファンドで2兆円ほどを運用しています。年リターンが10%ほどなので、課税前で2000億円が手放しでも増えていきます」


窓口「税金は納められていますか?」

魔王「いいえ。タックスヘイヴンにペーパーカンパニーを設立し、節税に努めています。

詳しくは税理士に聞いてください」


窓口「乗り物はお持ちですか?」

魔王「馬を数頭…。あとは買い物に行く為にリムジンを保有しています」


窓口「リムジン…と」カキカキ

魔王「あのぅ…」


窓口「はい?」

魔王「ダチョウは乗り物に含まれますか?」


窓口「まァ…、乗りこなせるのであれば、そうでしょうね」

魔王「では、ダチョウも20頭ほど…」


窓口「ダチョウ…と」


窓口「なぜ、申請を?」

魔王「生活が…、困窮しているので…」(´・ω・`)


窓口「困窮…なさっている?」

魔王「はい。とても」(´・ω・`)ショボーン


窓口「そうは見えませんがねぇ…?」

魔王「あの…魔界でダチョウ牧場を経営しています。赤字なんです。

観光客はさっぱり来ない。しかし、ダチョウもアヒルもウマもエサを食います。」


窓口「そのくらいでは生活保護は認められません。

裸一貫になり、健康を損ない、人間関係がボロボロになり、親戚一同からも見捨てられ、

白髪が増え、老眼もひどくなり、栄養失調で幻覚を見るようになってからはじめて申請するものです」


窓口「いいですか? 世の人間というのは、みな、働いています。

勤労と納税は国民の義務です。

まず働いてください。話はそれからです」


魔王「だからそれができないんです」

窓口「なぜ?」威圧的


魔王「…その、人見知りでして…」

窓口「人見知りくらい克服しなさい!! みんなね、つらい思いをして働いているんですよ。それが人生なんです。にんげんの世界なんです。つらい、つらい、ああ、つらい。それが生きるということです」


魔王「そ、そんな…」

魔王 とぼとぼ…。


魔王「…しのう。」

魔王「あの世で、幸せになろう…。うん、そうしよう。

いいアイディアな気がしてきた! そうと決まれば善は急げだ! ふんふんふーん♪」


勇者 通りすがり「おっ。魔王じゃん。そんなとこで何してんの?」

魔王「おお、勇者よ。奇遇であるな。そこの断崖絶壁から飛び降りるところだ」


勇者「…えっ」

魔王「今まで世話になったな。悪くない人生だった。だが、ああも無碍に断られてはな。

永遠に働かなくてもよい場所に行くつもりだ」


勇者「天国?!!」

魔王「地獄の可能性も否定できぬ…。」


勇者「なぜだ!! 生きることも許されないというのか?!」

魔王「生活保護を受けたければ、経営しているダチョウ牧場と運用する2兆円、移動用のリムジン、競馬に参加する馬をすべて処分してこいと言われた。すべてだ」


勇者「お、おう…。けっこういっぱいあんね…。そっかー。ダチョウも処分かー。あんなに無垢な瞳でかわいい生き物なのにな」

魔王「で、あろう? ならばと、俺様は自分を処分することにした」


勇者「早まるな」

魔王「三日三晩寝ずに考えた末の結論だ。もう行くも戻るも許されぬ。ならばと…」


勇者「俺が一緒に窓口行ってやっから!!」

魔王「えー…? ダチョウがいてもよいのか?」


勇者「ダチョウは生活必需品だから持ってていいだろ。とにかく役所行くぞ」

ずるずる…


窓口「…ああ。あなた、また来たんですか」

勇者「よッ」

窓口「あ、あなた様は…!!」


勇者「この紋章が目に入らぬかー!」びかぁあああ

窓口「い、いまッ! 書類を用意しますッ!!

これとこれとこれとこれとこれとこれに判を押してーー」


勇者「百枚ぐらいあるね?」

窓口「決まりですから」キリッ


魔王「な、なん…だと。ダチョウを飼っていても生活保護を受けることが許されるのか?」


窓口「しかし! 何度も言っていますが、働けるようなら働いてくださいねッツ!!

勤労と納税と艱難辛苦は臣民の義務!! ですからァアアアアア!!!

アナタの血と汗とナミダが!! おかみのヨロコビなのです!!

アナタが苦しみにのたうちまわり、上司にマウントを取られ、いびられ、つらい思いをすればするほど、国家というのは繁栄するものなのです!!」


魔王「やはり飛び降りようかなぁ…」

勇者「いや、うん。やめとけ。な?」


魔王「…うぅむ」

勇者「しんでもいいことないよ? 冷たい墓場に埋められるだけだし」


魔王「…うぅむ」

勇者「ネズミーランド行って忘れよ? ね?」


魔王「…ダチョウも連れていってもよいだろうか?」

勇者「! ああ! ああ、モチのロンだ! ダチョウたちも一緒に散歩させようぜ!」


魔王「…うむ。」


魔王は、ようやく少しだけ口の端をゆがめた。

それは見ようによっては、まだ、泣いているように見えたかもしれない。

けれどその瞳にはーー確かに。明日への希望の光が灯っていたのだーー。



■ 魔王様、気がつく。


その一瞬、脊髄に一献の電撃が走った。

そうか。そうだったのだ…。図らずも、この世の心理に触れた気がして、そのまま背筋が冷えた。


魔王「勇者よ…。俺様は気がついてしまったのだ。この世の真理に。」ワナワナ

勇者「お。どったの? あんまん食べる?」もっしゃもっしゃ 残りの一つを半分に割る。


魔王「うむ。有難く頂戴しようではないか。かたじけない」

勇者「なんのなんの。世は支え合い、ってわけだよ。持たざるものは奪われ、持つものには施される。これが世の真理だ」


魔王「世の真理多いな…。まぁ、ともあれ、俺様が気がついたほうの真理のハナシをしよう」

勇者「うむ。されようではないか」腕組み&ふんぞり


魔王「これを見給え」

勇者「なんと…これは、毒液ではないか。そのほう、これをどこから手に入れたのだ?」


魔王「うむ。我もそのように感じた。ゆえに、先ずは裏を確かめた」

勇者「何と! 裏を! …して、裏には何と…」ごくり


魔王「洗面所に置かれたその毒液の底には、水滴がついているだけであった」


勇者「ふむ」

魔王「しからばと、我はそれを少量口に含んでみた…」


勇者「口に含むためらいのなさ、まさに蛮勇と呼ぶに値する」

魔王「うぎゃぁああああ!!! 我はのたうちまわった」


勇者「なるほど」

魔王「この刺激臭! 舌を刺激する感覚! 間違いない! これは!」


魔王「次亜塩素酸ナトリウム水溶液!!!」

勇者「飲んだらヤバイやつ。塩素系漂白剤」


魔王「やばいやつだ! 俺様は即座に吐き出した! カァー、ペッッ!! べしょ!」

勇者「なんで痰のからんだおじいちゃん風なの? おじいちゃんは痰が喉に絡まると呼吸ができなくて死んじゃうから、非常手段として仕方なく道路に痰をぺッてしてるんだよ。


お年寄りの痰を吸引する機械まであるくらいだ。

つまり世間は、おじいちゃんがカーッ、ペッ!ってするのにもっと理解を示すべき!

あれは仕方がない! 緊急用ボートで脱出したとき、乗せられない定員オーバーのひとを海に突き落としてもいいのと同じ理屈!」


魔王「おじいちゃん用『携帯用たん入れバケツ』の開発が早急に望まれます。

国会で予算を通すべき。老人が繁栄する一大老害大国の模範を世界に示すべき!」


勇者「うむ。おじいちゃんも苦労しているんだ。人にはそれぞれ、やむを得ない事情がある。

ベビーカーにも子供用車いすにも、スケボーの新型みたいなやつにもイヤホンの音もれにも、もっと我々は理解を示すべき」


魔王「べき なの多いな…。疲れるわ」


勇者「そういうのをコンプライアンス疲れという。『世間』の求めるただしい行いから逸脱してみたい! 真の、心からのホンネを吐き出したい! それもまた切実な願いだ。

決して、フタをして、見なかったフリをして、無かったことにして生きていていい問題ではない。


この地上にはたくさんのヒトが暮らしている。価値観も肌の色もそれぞれだ。

しかしそこには、他人への思いやりも、そして、自分自身への思いやりもバランスよく含まれるべき」


魔王「だから、『べき』多いっつの…。」


勇者「人口に指数的に比例して多くなるから仕方がないね」

魔王「貴っ様ぁ…!!! 俺様の切実な問題を『仕方ない』で済ますのか!

どこでも痰を『カーッ! ペッ!!』ってする権利を人類は保証されるべき!!!

ゲロも駅のどこでも吐いていい! 呑みすぎたら仕方がない!!」


勇者「それ見て眉をひそめてる人もいんのよ…」


魔王「ウッソ! 恥ずかしい! 元もてメンとしてそれは許されない! これからはバケツ持ち歩く! 約束する!!」

勇者「それも大変な気がするけどね…」


魔王「進退窮まった!! 自決する!!」パイナップル的な物体

勇者「やめんか」


***


勇者「何の話してたっけ?」

魔王「コレ?」ヨイショオ!


勇者「話題から逸れたのに遺憾の意を表明して毒液が本格派のウィスキーみたいなオークの樽に入って登場した」


魔王「コレ、よかろう? 旅の怪しげな商人から20ゴールドで買ったのだ。ついさっき。部下が」

勇者「いいな~。ノマド暮らしじゃなかったら俺もひとつ欲しいわ。部屋に置いて眺めたい。癒されるよね…樽」


魔王「あのフォルムがね。たとえ毒液が入っててもね」

勇者「と思って、この樽を360度ぐるっと見てみたら、反対側の側面に『消』って書いてあるやん」


魔王「うん。知ってた」

勇者「だよね。普通気づくよね」


魔王「あえて目をふさいでみた」

勇者「なんでっ?!」


魔王「これさ、たぶん事務の人か誰かがでっかい字で印刷して貼ったんだよね。で、この文字のサイズ感」

勇者「あぁ…、老齢大国だからね。洗面所にあって、おじいちゃんおばあちゃん間違って口ゆすぐのに使っちゃったら危ないもんな…」


魔王「かもしれぬ」(((uдu*)ゥンゥン


魔王「きっと、大事なことゆえこのサイズの文字にしたのだと思うのだ。その選択の妙を思うと、…な。こう、胸に来るものが…ありはしないか?」

勇者「迫るね。ハリウッド映画で今年最高の感動みたいな」

魔王「で、あろう?! いやぁ、貴公なら判ってくれると信じていたぞ! これぞ竹馬の友!」


勇者「故事成語だから、意味のしりたい人はYouTubeで調べるといいよ」

魔王「なんで動画サイト?」


勇者「最近の五歳児はそうするってきいた。

最初にしゃべる言葉は『チャンネル登録よろしくね!』だ」

魔王「最近のお子様そうなん…?」


勇者「時代だなぁ」

魔王「で、あるな」


FIN。

Thanks for your Read ! Enjoy Your Day♪

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