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「ども、魔王です」「こんにちは、勇者です」  作者: 魔王@酒場
魔王様は玉座にて待つ。宅配便とかを。
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【七月】うなぎを食べる日

みーんみんみんみ~ん…


「…嗚呼、鰻が食べたい」

ある、夏の日のことであった。

軒下にぶらりと吊るされた硝子の風鈴はさも涼やかな音を立て、屋内から見れば、縁側の向こうの夏の庭は、湯気でも上がりそうな、陽炎かげろうがゆらめきそうな、そんな具合であった。


ーーと見れば、よく見ればそれらは描き割り(舞台などの背景に立てる)であり、そこはいつもの魔王城であった。


「魔王様は鰻をご所望かぁ」

分厚い漫画雑誌のぺーじを繰りながら、勇者なるものが言葉を返す。

魔王、と呼ばれた何かぶにょんぶにょんしたモノは顔を縦に、かすかに動かした。


「うむ。ご所望だ」

「鰻だってよー。鰻うなぎウナギ。おら誰か持ってこいよww」


あぐらをかきつつ、足の指ではページをめくり、手の指では芋の薄揚げ(要するにポテトチップス)を何枚もつまむ。

世間一般的に言って、態度が悪すぎる。

人間側からすれば、このような勇者の行動・言動には、疑問しかない。


「勇者よ」

かつてなく表情を引き締めた魔王がたしなめた。

「…あ? なんだよ」

勇者がメンチを切る。要は、鋭いまなざしで魔王を睨み返す。

表情だけ見れば、

『魔王! お前はどうしてそう命を軽んじるんだ!』

『フン。貴様は今まで食べた うな重の数を覚えているのか?』


『ああ! 覚えているさ! お前がまだ人間界に侵攻を始める前ーー。

父さんがまだ生きていた頃、幼稚園のようなものの帰りに連れて行ってもらった近所の老舗のうなぎ屋ーーあの一度きりだ。

あれは美味かったーー2度と味わえないーー思い出の味だ』


といったやりとりに見えなくもない。

話を戻そう。

うな重のおもみについてである。


魔王は静かにかぶりを振り、タブレット端末(某国で作られたものであり、最新鋭の技術が使われていて、画像がモノスゴイキレイだったり、液晶が折り畳めたり、目に優しいブルーライトカットだったりする)を指で操作した。SFじゃない。チキューとかいう惑星では、人間どもの寿命からすればごく最近、実用化され、一人3台くらい持っていたりする。

でも、1000キロくらい移動した地域では、高速の鉛玉を打ち出す兵器を一人3台くらい持っていて、畑に流す水路の水をめぐって、篤志の医師が銃撃されたりする。


に、水面のーー大海原の映像を映し出した。

魔界で言えば、水の大魔女スキュロスが支配する領域である。


「鰻はーー絶滅した」

「!!!」


「人間どもが食べ尽くしたのだ」

魔王は静かなまなざしを勇者に向けた。

自然、喉の奥から、嘲笑の笑みがもれた。

「愚かなものだな。1000年にも満たない寿命の生き物が、より弱いものたちを苛め、文字通りに喰らい尽くす。

人間とはそういう生き物であり、それはこれからも変わらない。」

魔王の温度のない声音に、勇者は返す言葉がなかった。


ーーが、思い出す。そう、人間にはーー


「魔王」

「…ん? なんだ?」


「アナゴ喰えばいいじゃん」


そう、人間にはまだアナゴが残されている。希望を捨ててはならない。暑い夏の日には、鰻を、そしてそれに代わるアナゴを、ハモを食べればいい。秋になればサンマ(地球温暖化と思しき現象の影響により、漁獲量が減少)を。

イワシとかサバとかマグロとかまだ食べるモノはいっぱいある。だから大丈夫。問題ない。


勇者はそう思い、地球上で暮らす多種多様な水棲生物について熱く語った。

そう、クジラ。最近はクジラも食べられるようになった。環境保護の成果だ! 人間は素晴らしい。

持続可能な発展。最高だ。



笑顔で語る勇者だが、魔王がどんどんどんどんものすごく無表情になり、

人間どもが資源を食らい尽くす前にあの美しい地上を我が物にせねばと

新たに決意をかたくかたくかた~くしたことには、気づいていないらしかった。


ちゃんちゃん。


ー(幕)ー

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