【二月】チョコを食べる日
さて、今日の話題はーーチョコである。
みんな大好き、カカオ豆の実の中身を、あんなことやこんなことにして作りだすアレである。
「…う、うまい!!」
勇者は目を輝かせた。とくに味が違うわけでもないような気もするが、手間がかかっていると聞けば、味にもそれが反映されているような気にもなるもの。要はこれは、ストーリーを楽しむ食べ物なのだな、と思いながら魔王はそれを眺める。
「…でも思ってたより甘くないな~。ちゃんと砂糖入れた?」
調理を担当した魔物の顔がひきつる。
「ただ今お入れしてまいります!!」
秒速で飛び出し、亜高速で戻ってきた。
「…ど、どうでしょうか…」
おずおずと尋ねる魔物に、人間どもに担ぎ上げられた若造は鷹揚に頷いた。
「…うん! いいねいいね。これなら満足」
残りをごはんの上にのせ、さらに醤油をひとかけ。一気かきこんだ。
「勇者よ。実に美味そうに食べていたではないか。人間どもの食にかける情熱は我らには理解しがたいものだがーーこれもまた、その類のようだな」
ウン、と勇者は頷き、メモを取り出す。
「あんね~、みかんとか、チョコとか、お魚に食べさせたんだって。チョコはそうでもなかったけど、みかん! いいねみかん魚! ちょっとシトラス感ある」
「ほう?」
「でも、チョコのほうはもっと甘くなってもいいよね、魚がね」
「…勇者よ」
魔王は重々しく、口を開く。
「遺伝子組み換え作物を食べたからといって、遺伝子組み換え人間になれるわけではないのだ」
「えぇ?! ウソだろ?! 信じない! おれは信じないぞ!!」
「貴様とてそのちょこれーととやらを食うであろう。だが、貴様の腕を切り落とし、鍋で煮込んだところで…」
「…煮込むなよ。ヤメテ」
「貴様の血肉の味しかせぬ。ーーそういうことだ」
「どうしてそうなるの?」
魔王はやれやれ、と息を吐く。窒素と引き換えに 出てくる気体は魔界の瘴気。
「自らの肉体がどのように『生きて』いるかにさえ考えが及ばぬのか、貴様は。」
「…及びません」
疑問などない。
考えずとも手足は動き、肺は呼吸する。目は光を捉え、体は重力を捉える。
そこに疑問など、ない。
「沸かした湯の熱量が、そのまま貴様が肉体を動かす熱量にはならんのだ」
「…え? なんで。」
「チキューという惑星で目立つ生物を例にとろうか。
酸素や炭水化物などのエネルギーの高い分子を取り込み、それを最終的には水と二酸化炭素に分解することで、貴様らの肉体は動いている」
「え~…。そんなのフェイクニュースだよ。だっておれ、そんなもので動いてないし。」
「まあ、誰も貴様がそれで動いているとは言っていない。…よかったな、酸素があって」
「酸素にはいつもお世話になっています。まじリスペクト」
勇者が真面目な顔をする。
魔王「呼吸・血流などの物理的な移動と、60兆を超える個々の細胞での化学的な反応で成り立っていて、
まあ要は、炭水化物を分解し、変化させていく過程で酸素を使ってエネルギーを取り出し
そこには無数の蛋白質(酵素)が関わっている。--まあそんなところだ。」(※ あまり正しくないかもしれません…。正しい知識は勉強して下さい。)
勇者「ざっくりしたな」
魔王「うむ。ざっくりした」
魔王「つまり、遺伝子組み換え大豆は安全なので、ぜひ我が国から輸入するがよい、勇者よ」
勇者「ヤダ! それもフェイクニュース! ヤダ! 食いたくない! イメージ的に!!」
???「…なぜですか!! こんなにクリーンなルームで栽培した清潔なモヤシなのに!!」
勇者「えッ? ちょ、側近?! いつのまに大豆でもやし栽培してたの?!」
側近「遺伝子を組み換えて、より安全で完璧なもやしを作っています」きりっ
勇者「チョコ食ったお魚は美味しい。それでいいじゃないか」
魔王「…まあ、貴様がよいのなら、よいのではないか?」
※ チョコを食べたおさかな
詳しくは「チョコブリ」「みかんブリ」で検索なさってみてくださいな~♪
おしまい♪




