側近ともやし(…何度目)
おひさしぶりです! --いつものです笑
■Scene1 ごあいさつ
魔王「ども、魔王です」ふんぞり
勇者「こんにちは、勇者です」ぺこり
魔王「どうも、あれな」
勇者「???」
みーん、みんみんみーん
勇者「…あれ、とは…?」
魔王「涼しいじゃん、今年」
勇者「…ああ!」
魔王「サマーバケーションとかどうなるの今年?! って感じじゃん、ことし」
勇者「…お前、『ことし』好きな、今年」
魔王「まあね、一日たりとて同じ日は無いっていうか~」
勇者「でも、冷夏だな」
魔王「だな」
蚊「ぷぃ~~ん」
勇者「蚊だ!!」極炎魔法 発動!
地獄の火炎が、小さな生き物を焼き尽くす! ゴォオオオオ!!!
魔王「うぉっ…! あっぶな!」
魔王「あっぶなー! あっぶな~!! 俺とか燃えちゃったらどうする気だったの今!」
勇者「え?」涼しい顔
勇者「…そうしたら、セカイが平和になっていいかな~って」
魔王「あ、そかそか。そうか。それもそうか。」
勇者「だろ? 蚊も倒せて一石二鳥!」
魔王「でもね、蚊だって、生きてんのよ。小さな命、つないでんのよ。連綿と」
勇者「まあね、それはね、認めざるを得ない」
魔王「なぜ同じ地上にありながら我らは憎み合うのか…」
勇者「やっぱ、あれじゃね? 血とか吸うからじゃね?」
蚊「ぷぃ~~ん…」
勇者「はァッ!! 謎の老師様から教わった必殺拳! アタタタタ!!!」連打
魔王「貴様…蚊の何がそこまで」
勇者「宿命だ」
魔王「ほう?」
勇者「蚊と おれは、前世から、こうして憎み合う宿命だったのだ」
魔王「…えっ? 俺様は?」
勇者「あ~、うんうん。忘れてないよ。魔王ね。魔王とかもね、うん。たぶん?
おれとかと憎み合うディスティニー? そう言っていいんじゃないかな、うん、たぶんー?」
魔王「なぜそんなに自信なさげなのだ…。もっと自信を持って俺様を憎むがよい」
勇者「えー?」
そのとき勇者の脳裏に浮かんだものは、散らかり放題の魔王の私室であった。
勇者「あんな汚部屋の住人は憎めない。憎んじゃいけない。人として」
魔王「…え。なんかかわいそうな感じ?」
勇者「片づけられない魔王」
魔王「…ぐっ」
勇者「自分の六畳間ひとつ片づけられないのに、なん億ヘクタールとかの地上とか治められるわけがない」
魔王「いいの! そういうのはね、部下とかがやってくれるの!」
勇者「6畳間を片付けられないリーダーに誰がついていきたいと思う?」
魔王「…うっ」
勇者「片づけのプロに電話する?」
魔王「…ヤダ! この部屋のものは何一つとして他人には触られたくない!」
勇者「じゃあ自分で断捨離しなさい」
魔王「ヤダ! 片づけない! 片づけるものかぁああああ!!!」
魔王が その真の姿をあらわす! 第三形態だ!
勇者「え~…、なんか変身とかしてるし。放置でいいかな」
魔王「ぎゃお~す!!!」
勇者「お昼ご飯食べに行こ…」てとてと
■Scene2 側近と もやし
謎の影「フヒッ」
昼なお暗い、部屋の中。呼気が響く。
「フヒヒヒヒ」
ソレは、わらう。
「コレは私のものだ…。渡さない…誰にも渡さないぞ…」
真白い、細長いものたちが、部屋の中で無数に横たわっている。
幾重にも折り重なり、かすかな光を吸い込んで、きらきらと、宝石のように輝く。
ソレは、それらを、抱きしめた。
「そう…私のものだ。フヒッ! フヒヒヒヒ…!!!」
***
一週間後、某国辺境、魔王城。
部下A「もう一週間ですよ…」
魔王「サスガに心配になってきた…」おろおろ
勇者「ちわーっす。勇者弁当のお届けでーっす。今日はね、なんとカレー! ラッキョウもあるよ!」ババァ~ン!!
部下A「勇者さぁ~ん」うるうる
魔王「おお、勇者よ。良いところに…」カクカクシカジカ
勇者「えっ。なに。側近、屋敷にこもって出てこないの?」
魔王「うむ。側近は、我が魔王城からわずか3歩の屋敷から通勤しているのだが…。」
勇者「通勤してたのか」
魔王「うむ。しばらく前、『いいものを手に入れた』とLINEがあったきり、こちらの既読がつかないのだ」
勇者「いいもの…?」
部下A「はい。屋敷のドアが開いた様子もなく、何をしているのか心配で…」
勇者「それは心配だな」
勇者は、側近の屋敷へと向かった。
屋敷「ずぉぉおおおおん!!!」
勇者「うおッ、すごい瘴気だ…!! ひょっとすると魔王城より邪悪な感じ」
魔王「…うん。我が城、最近ファンシーだけどね。入場料とか取って、ライトアップとかしちゃってるしー」
部下A「経営難ですから、止むを得ないですよ魔王様。映画館と温泉施設も併設しましょう」
魔王「うん…いいね。前はね、わりと邪悪だった。千年前くらいとかは」
勇者「どうせならカラオケも頼む」キリッ
部下A「なるほどー。いいですね!」メモメモ
魔王「(いいのか)」
コンコン
勇者「側近ー。いるのー? 出勤しなくていいのー? 無断欠勤だめだよー。
人間やめるときだって『俺は人間をやめるぞ』って言ってからやめるのがマナーだからね?
報・連・相(ホウ・レン・ソウ)! コレ大事!」
謎の影「フヒッ」
勇者「うわっ! …誰?」
魔王「側近…なのか?」
勇者「えッ!! これが!?」
部下A「ぼくらが屋敷を訪ねると、側近様は無数の白いものに囲まれ、髪もすっかり伸び、まるで別人のようでした」
謎の影=側近「渡さない…誰にも渡さないぞ…!!」
勇者「えっ? これ? もやし? いやいや! 取らないよ! ってかいらないよそんな ひからびたモヤシ!」
側近の影がふくらみ、じゃあくなまものが姿を現す!
影「キシャァアアアア!!!」
魔王「えっ、なに、ボス戦?! セーブしてないよ!」
部下A「魔王様、最近のスマホゲーはオートセーブが主流です! 今の10代、セーブポイントとか知りませんよきっと!!」
魔王「なんだと!」
***
勇者「はぁ…はぁ。なんとか倒したぞ…!」
部下A「よかった…! 怪我はありませんか魔王様?」
魔王「うむ。傷ひとつないぞ!」
側近だったもの「グルルルル・・・」
魔王「側近…どうしてこうなってしまったのだ…」
部下A「おそらく…。ですが。手に入れたものはきっと、大量のもやしだったんです。見て下さいこれ…」
屋敷の中には、無数のもやし(ひからびている)が散乱していた。
壮絶な有様であった。ここで何が起きたのかを想像するのには難くない。
部下A「いやいやいやっ、想像できませんから! わけわかりませんから!!」
魔王「側近はきっと…手に入れたもやしを…誰にも渡したくなかったのだ…」
側近だったもの「ヴヴヴヴヴヴ」
部下A「いえ、取りませんし。いりませんし、そんなに」
勇者「側近…」
側近だったもの「グァ?」
勇者「ひとりでそんなにたくさんのモヤシを抱え込んで、どうするつもりだったんだ?」
側近だったもの「愛でます」即答
部下A「側近様…。魔王様の補佐がそんなにストレスだったんですね…」ほろり
魔王「えッ! 原因、俺? 俺なの?」
勇者「もやしは…誰のものにもならない」
側近だったもの「いいえ! いいえッ!! もやしは! 世界中のもやしは! 全てわたくしのもの!
わたくしが! わたしだけがもやしを手に入れる…!」
勇者「それでどうするんだ?」
側近だったもの「愛でます」きぱっ
勇者「フッ」
勇者「側近。お前は、もやしのことを何も分かっていない」
側近だったもの「なん…ですって…?」怒
勇者「お前はもやしたちの気持ちを考えたことはあるのか?」
側近だったもの「もやしの…気持ち」
勇者「ああ。誰にも口にされず、こんなにひからびて、溶けて、カビの生えてしまったもやしたちが、今、何を考えていると思う?」
もやし「……」
側近だったもの「!!!」驚愕
側近だったもの「わたくしは…わたくしは何ということを…!!」ワナワナ
勇者「ああ。もやしたちは、誰かに食べてほしかったんじゃないかな。ラーメンに添えて。炒め物に混ぜて。もちろん、そのまま茹でて醤油をかけて食べたっていい。」ニコッ
側近だったもの「あぁあああ!!!」がくり
側近だったもの「勇者よ!! わたくしが間違っていました! もやしを独り占めするなどと! もやしは!
誰かと共有し、人々の手に渡ることで初めてもやしになる…!!」
魔王「(ごめん俺様、ついていけてない)」コソッ
部下A「(安心してください魔王様。ぼくもです)」コソッ
勇者「そうだ。金庫にしまい込んで大切に大切に置いておいたって、もやしは何も生み出さない。
料理に使われて、初めてもやしは生かされる…。そうじゃないか? 側近」
側近だったもの「もやし…!! もやしもやしもやし…!!」
部下A「(…え。あれ、大丈夫ですか)」
魔王「(知らないし、知りたくもない)」青ざめ
側近だったもの「もやしよ…わたくしは改心いたします! そして誓いましょう!
これからは皆のためにもやしを振る舞うと!!」
部下A「(いや、そんなもやしだらけでも困りますけど)」コソッ
魔王「ええ話や…」ほろり。
***
一週間後、魔王城。
側近「おはようございます」きらきら
魔王「うむ。今日も漆黒の闇が心地よい…」フッ
部下A「お屋敷の掃除、終わったんですか? 側近様」
側近「ええ。わたくしは、もやしに囲まれていたい、もやしを手に入れて安心したいという自らの欲望に負けたのです…。これからは、自宅の暗室で育てられるだけのもやしを愛でることにいたしますよ。やはり、世間に流通してこその、もやしですから」にこり
部下A「そうですね。もやしは皆のものです! 独り占めはよくありませんよ!」
側近「フフフッ」
魔王「(愛はこうも、ひとを狂わせるものか…)」びくびく
(この話が)、終わる。<<
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夏休みの課題は進んでいらっしゃいますかー! いぇーい!!




