魔王様、ウォーキングする
■ ウォーキング
魔王「ウォーキングをはじめてみた」
勇者「なんと!」
魔王「あるくあるく」
勇者「魔王が歩く…だと?」
魔王「てくてく」
勇者「まて魔王ー!!」ダッ
側近「お待ちください魔王様ー!!」ダッ
勇者「ちっ、見失ったぞ…! どこに潜んでやがる魔王のヤツ…!!」
側近「見失いましたね。魔王様め…!!」
勇者「いつも思ってんだけどお前は魔王を敬ってんの? 見下してんの?」
側近「見下しつつ敬っているのですよ! わかるでしょうこの感じ!」
勇者「わっかんねーよ! 見下しつつ敬うってナニ?! 何がしたいの?! 敬うの敬わないの、どっち?!」
側近「もやし…」
勇者「はっ」
側近「わたくしはもやしを…愛しています」
勇者「うん、…知ってた」
側近「なんですって?! わたくしのこのもやしへの秘めたる愛を知っていた?! あなたはそうおっしゃるのですか?!」
勇者「え…うん。まあ」
側近「なんということでしょう。魔王軍の幹部たるわたくしの好みが知れ渡るなど、世界の損失…!!」
勇者「え、嘘」
側近「大宇宙の欠損! 完全無比なる玉の皹にも等しい…!!」
勇者「え、そうなんだ…」
側近「ふ、ふふふふ…」
勇者「?」キョトン
側近「このことを知られたからには生かして返すわけにはまいりません…!!」
勇者「え?! ちょ、やめ… アーッ!!」
ばさばさばさ(鳥たちが飛び立つ)
魔王「ふんふん、ふーん♪ お散歩とは、このように楽しいものであったのだ…側近め。この楽しさを私から奪うなど、不届き千番!」
魔王「帰ったらおしおきだな…!」
てくてく
魔王「ただいまー」
側近「おかえりなさいませ、魔王様」ツヤツヤ
勇者「うっ、うっ、もうおヨメに行けない…」しくしく
魔王「俺様がウォーキングしてる間に何があったの」
***
側近「そろそろ考えねばなりませんね…」
魔王「あー、やっぱり?」
側近「そりゃあ、そうですよ。貴方、魔王始めて何年ですか!」
魔王「えー、いちねんくらい?」
側近「200年と1年です」
魔王「えー、そんなに過ぎてた? もう?」
側近「」コクコク
側近「その間、前の魔王様から受け継いだ領地は縮小に縮小を続け、今や魔界の一握りの土地でしかありません」
魔王「えー、だってほら、みんな独立とか民族自決とかさ。やっぱ、なんつーの。ね、そこに暮らすヒトの意見っての? 大事にしたいじゃーん」
側近「貴方それでも独裁者ですか!!」バン!
魔王「」ビクッ
側近「いいですか魔王様。魔王とは、絶対君主なのです」
魔王「うぅむぅ、ぜったいくんしゅなぁ?」
側近「ええ、圧倒的な武力を以て世界に君臨する覇者の中の覇者。それが魔王なのです」
魔王「ふむふむ…。メモメモ。『まおうとは、あっとうてきな…』
あー、まだ俺知らないこといっぱいあんのな! やー、もう1年くらい魔王やってるけどさあ、ほんとな。知らないことばっかだわ」
側近「ですから、200と1年です」キリッ
魔王「ふむふむ…それで?」
側近「は?」
魔王「それで『魔王とは』…の続き」
側近「ええ…。こほん。つまり魔王とは独裁者なのです」
魔王「メモメモ。『まおうとはどくさいしゃである』…へー。なるほどー」
側近「」ビシッ 無言でメモを叩き落とす
魔王「あっ! 何すんだこの側近! メモを取るのは基本だろ! そう教わらなかったのか!」
側近「あなたねぇ、何年魔王やってるんですか!」
魔王「え? だから1年くらい…」
側近「二百と! 一年です! いいですか魔王様…!」
勇者「よっ、来たよ!」
魔王「あー、勇者じゃん遅かったね。今さー、側近が何か大事な話してるらしくて…」
勇者「えー、なにそれ。俺も聞きたい」
側近「」プルプルプル…
勇者「おぉ、なんか魔王いっぱい勉強してんじゃーん。えらいね」
魔王「まあな!」えっへん!
勇者「じゃ、ちょっと今日は一緒にお菓子でも作ろうかと思って小麦粉とかデコレーションとか買ってきたんだけど」
魔王「か、菓子…だと? あれは買うものではないのか? 自らで作れるものなのか?」ゴクリ
勇者「あったりまえだろ。厨房借りるなー」とてとて
魔王「おお! なんと! これが美味そうな菓子になるのか…!」ふぉおおお
側近「」ぽつーん
側近「…はぁ。洗濯でもしましょうかね…」とぼとぼ
側近「いつになったら世界を征服して下さるやら…」
***
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