13 勇者と魔王と、自転車どろぼう
魔王「こんにちは、魔王です」
勇者「こんにちは。勇者です」
魔王「あのさー、駅前に自転車停めといたら盗まれたんだけど」
勇者「ばっかでー。鍵かけないからだよ」
魔王「掛けたよ。がっちり三重ロック」
勇者「かけすぎだろ、それ」
魔王「そんで会社終わって駅着いてー。階段下りて右に曲がって」
勇者「そんな細かい描写は要らん。はよ結論」
魔王「自転車が盗まれました。」
勇者「もーっ、だからそれはもう聞いたの。自転車なくしてがっかりな瞬間の魔王くんを再現してほしいっていうかー」
魔王「がっかり。」
勇者「その程度か! 自転車を無くしたお前の悲しみはその程度で済まされるものだったのか、怒れ! もっと怒りをぶつけろ! 自転車ドロを地上から撲滅するんだ!!」
魔王「え? いや、ホームセンターで7890円の安物だし・・・。そこまで怒ることもないかなって・・・」
勇者「むきゃーーーーっ!! ムカつく! 自転車ドロむかつく! 魔王に許されてるムカつく!!」
魔王「意味わかんねぇよ。いつも思うんだがお前の頭はどうなっているんだ」
勇者「愛と希望でできています! 強くなければ生き残れない、でも優しさを忘れたら生きている資格なんかないっ!!」
魔王「あっそ。俺もう帰って寝るわ」
勇者「(じーーーーっ)」
魔王「あ? 何?」
勇者「・・・自転車、買いに行かないの?」
魔王「自転車屋とかもう閉まってるだろ。明日でいいよ」
勇者「でも・・・。」
魔王「いいって、バス使うし」
勇者「・・・へぇ。そう、なんだぁ。魔王くんにとって自転車は、あってもなくてもいい、いてもいなくても変わらない、そんな存在なんだね」
魔王「(・・・イラッ)」
勇者「そうだ! 私が魔王くんの自転車になってあげる!!」
魔王「・・・んん?? 意味が分からない」
勇者「私も言ってて分からなかった。あれじゃね? 担いで運んであげるよ、自宅から駅まで」
魔王「何の拷問だよ、やめてくれ」
勇者「勇者運輸の引越しサービス、今ならお見積もり無料! 番号は、111-111*」
魔王「引っ越す予定もない」
勇者「もーっ、ケチー。平和になったら、鍛え上げた肉体なんて、あんまり使い途ないんだからね。魔王くんを駅から自宅まで搬送するくらいしか」
魔王「いいと言うに。そんなんだったら部下Aに頼むし」
勇者「・・・ふぅ。二言目には部下A・・・。二人は付き合ってるんだね」
魔王「もう貴様は帰れ。」
勇者「やぁん、まだ飲むーー」
*
魔王「というわけで自転車を買いました。ライトがすぐ壊れるし、ホイールがゆがんでたりするスグレモノです」
勇者「一国の主なんだからさ、もっといいモノ乗ったら?」
魔王「ベンツとか」
勇者「プリウスとか」
魔王「ジャガーとか」
勇者「プリウスとか」
魔王「ロールス・ロイスとか」
勇者「プリウスとか」
魔王「・・・もういい。どんだけプリウス好きなんだ」
勇者「映画で大活躍してるの見て以来。」
魔王「あーー・・・、それは分かるな。映画で主役が乗ってたりすると」
勇者「そうそう。自分も乗ってみたくなっちゃう」
魔王「俺もさ、魔王の出てくる映画に憧れて魔王になったんだよ」
勇者「迷惑極まりない」
魔王「だよねー」
*
魔王「というわけでした魔王です」
勇者「意味が分からないけど勇者です」
魔王「ていうかさ、秋だよね」
勇者「秋だねぇ」
魔王「梨とか食いたくなるな」
勇者「イチゴもね」
魔王「月見団子」
勇者「メロン!」
魔王「意図的に秋を避けていないか?」
勇者「秋って物寂しいじゃん。どんどん寒くなってくしー。どんどん厚着になって防御力もアップして」
魔王「回避率がダウンして攻撃に よく当たるのが冬」
勇者「身軽になって回避率と命中率が上がるのが春」
魔王「暑さでバテてレベルがダウンするのが夏」
勇者「一年ってあっという間だなー、そう考えると!」
魔王「そうでもないって。24時間は長いよ」
勇者「一週間も長いよ?」
魔王「それで一年が短いのはおかしい」
勇者「そうか、一年は長かったんだ」
魔王「分かればいいんだ。分かれば」
あとがき
読んでくださった方、謹んで御礼申し上げます。
この時点で原稿用紙64枚分らしいです。信じられ…るようなそうでないような。