魔王様、ハンコを作る
■ なつやすみおわっちゃう、と勇者は泣いた。
ミーンミンミンみーん…
しゅわしゅわしゅわしゅわ
魔王「あー、あっつー。世界とか早く滅ばねーかな。ていうか、誰か世界滅ぼしてくんねーかな…」だるーん
勇者「バッカヤロウ!! 早く世界を滅ぼせ! なつやすみ終わっちゃうだろ!!」
魔王「勇者よ…」慈しむような目
魔王「何事にも始まりがあれば終わりがある…。
楽しい夏休みはな…、いつか…、終わるんだ」
勇者「まだだ! まだ終わらんよ! 俺たちのなつやすみはこれからだ!」
魔王 肩ぽんっ
勇者「うあ”あ”あ”あ”あ!!! あーん、あーん!!
なづや”ずみ終わっちゃうよぉぉぉあああああ!!!」号泣
そう、夏休みはいつかは終わる。
その事実を噛みしめながら、世界征服と夏休みの宿題ってちょっと似てると思う魔王様であった。マル。
ツクツクホーシ、つくつくほーし
しゅわしゅわしゅわ…
魔王「秋だな」9/1
勇者「はえーよ」
魔王「いや、俺様が秋といったら秋なのだ。わかるか、勇者よ…」
勇者「1センチもわかんねーよ」
カナカナカナ…
魔王「聞くがよい。この虫たちの切なげな声…。昇ってくる月を待つのもまたよい…」
勇者「…どうした?」
魔王「んん”?」
勇者「オマエはもっとギラギラしてたはずだ…」
回想 全盛期の魔王
「フハハハハ!!! 勇者よ! この先に進みたくば我を倒してからにするのだな!!!」
勇者「いやまてその回想! お前ラスボスだろ?! 何、かませ犬に成り下がってるの!!!」
魔王「あ、そうか。やり直し」
回想 2
魔王「フハハハハ!!! よくぞここまでたどり着いたな勇者よ!!!(駅の改札)
ここを通りたくば我にピッてするアレ(ICカード)で触れるがよい!!!」
勇者「ちょ!!! 待て待て待てェエエエエ!!
何でお前自動改札にジョブチェンジしちゃってんの! どゆこと!」
魔王「あ…、ゴメン。自動改札ってカッコイイなー。いつかなってみたいなーって思ってたからつい…。ついね」
勇者「もー、しっかりしてくれよ。魔王だろお前」
魔王「重い」
勇者「は?」
魔王「その呼び方、重い」
勇者「えぇええええ!!?」
魔王「俺、たしかに魔王軍のトップよ?
でもさー。『社長、社長』って呼ばれてるようなもんじゃん。なんかさみしーよ、それ」
勇者「そ、そう?」
魔王「おん。他人行儀だね。俺ら、その、ほら、もっと親密じゃん?
命ァ取り合う間柄なワケじゃん?」
勇者「いちおう自覚はあったのか…。もう忘れてると思ってた」
魔王「やだなー。忘れねーって。俺ら宿敵じゃん?
永遠に相容れない不倶戴天の敵じゃん?」
勇者「お、おう…」チョット フクザツ…
魔王「だからさー。もっと気軽に本名で呼んでほしいわけ」
勇者「そ、そうか…。小さい子のママさんとかも、『おかーさん、おかーさん』と呼ばれ続ける内に
『アタシって誰だっけ? アタシの名前はドコに行っちゃったの?』というゲシュタルト崩壊に陥るらしいしな…。
お前もきっとそうなんだろうな…。
たしかに社会的な二つ名だけしかないなんて切なすぎるよ。
唯一無二の自分だけの名で呼んでほしい。その気持ちはよくわかるよ…。
で、お前の名前ってなに?」
魔王「次郎」
勇者「ジロォオオオーーー?!!?」
勇者「イチローは?! イチロー兄さんはどこ!?」
魔王「ボストンのレッドソックスで活躍してるよ」
魔王「ってゆう設定」
勇者「いやいやいや!! それその設定マズいから!
世界的に有名なスポーツ選手のキョーダイが独裁者やってるとかイメージ台無しじゃん!」
魔王「血のつながりなど…」フッ
勇者 ブンブンブン!!(首を左右に)
余談。
勇者「アメリカの『サマースクール』とか『サマーキャンプ』っていいよな~!
大自然の中で仲間と過ごす! 楽しそう! 俺も参加したいー!!」
魔王「俺様は、ああいう集団行動ってキライ」
勇者「USA産の映画だと、イジメられっ子のつらい記憶シーンの定番だな」
魔王「…フッ。所詮この世は(焼)肉(定)食…。強者が弱者を踏みにじるだけの場所なのだ…」
勇者「『弱』肉、な。『強』食、な。」どきどき
■魔王様、ハンコを作る。
勇者「まおうー。ハンコ作ったんだって?」
魔王「うむ。魔王ともなれば、大事な書類にハンコを押すこともあろうかと思ってな…」
勇者「え。書類なんて見たことないけど」
魔王「今やオフィスはペーパーレス。ペーパーレスなのだ。分かるか、勇者よ」
勇者「え。じゃあハンコいらねぇじゃん」
魔王「そういうわけにもいくまい。例えば、このトイレ掃除当番表…」
勇者「あ。魔王城のトイレに貼ってあるやつな。何時何分に誰々が掃除しましたよ、っていうあれな」
魔王「うむ。ここに、我がハンコを、押す…!!!」カッ
勇者「えーーーー!?!?!」
ぺたっ。
勇者「あー、あー、この魔王様、ハンコ押しちまったよ。まだ掃除してねーのに」
魔王「馬鹿者!」
勇者「びくっ」
魔王「そのような些末なこと、下々(しもじも)の者にやらせておけばよい。我にはハンコを押すという、より重大な仕事があるのだ…!!」ゴゴゴゴゴ
勇者「で、でもさ。ほら、トイレは掃除しとかねーと。なんつーの。来客者ってね、いくら店内(?)がキレイでも、トイレ見てんのよ。キレイなトイレなら好印象。どんなにインテリアが凝ってても、トイレが臭うと台無しよ。だからね、トイレ掃除ほんと大事な…!」
魔王「魔王城の印象良くしてもな…」
勇者「いや! ダメ! トイレは! 掃除しろ! 俺が! 使うからッッ!!」
魔王「え。なにそれずうずうしい…。魔王討伐に押しかけといて、トイレまで借りるとかどういう了見なの。携帯トイレ持って来ればいいじゃん! 勇者パーティの汚物処理とかなんで俺らがしなきゃなんないの?」
勇者「で、でもホラ、通路でいたすわけにも…いかないじゃん。ほら、なんつーの。いくら世界最強の冒険者といえども、ね。せいぶつだからね。いたさないわけには…」
魔王「だから持ってこいよトイレ! オムツでもいいよ!」
勇者「オムツ! オムツして魔王討伐すんの?!」
魔王「ったりめーよ。てめえ、俺サマと戦ったら48時間じゃきかねーから! たぶん一週間くらいかかるね! 飲まず食わずは仕方ないとしてもトイレはね。やっぱり勇者パーティで持ち込んでもらわねーと」
勇者「ま、マジか…そこまで考えてなかったわ。魔王討伐ってやっぱ事前に色々と準備しなきゃいけないんだな…」
魔王「あ。第35形態になると背景(?)も宇宙になるからね。そこんとこよく考えて…」
勇者「無重力かよ!」
魔王「そうそう。だからトイレもバキューム式のな」
勇者「高温処理して臭わなくして宇宙に捨てるわけか…」ゴクリ
魔王「ったく。人間どもってーのはホント考えなしな」
勇者「…悪かったよ。魔王は、その辺も考えて世界征服してるんだな…」
魔王「まあね。引きこもってるからね。色々と考える時間はあるかな~?」
勇者「そかそか。無駄に引きこもってるわけじゃなかったんだな、魔王は。色んな可能性を考えながら、然るべき案を練っていたんだ」
魔王「まあね」
勇者「とりあえず、ポータブル・トイレを用意して…、あ、やっぱオムツもあったほうがいい?」
魔王「その辺は任せるよ。俺様はカンケーないしね」
勇者「ふむふむ…。魔王討伐ってのはほんと、色々気を回さなきゃならないんだな…。勉強になったわ」
魔王「うむ。それはよかった」
勇者「あ、おやつはいくらまで?」
魔王「知らんわそんなん。俺様は作ったばかりのハンコを押すのに忙しいのだ」ぺたりぺたり
勇者「(楽しそうだな…。魔王印のハンコ…。)」ドキドキ
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