銀行へ行こう!
勇者「とぼとぼ」
いつも変わらぬ夕日が、勇者の背中を照らしている。
燃えるような夕焼け。きっと明日も晴れるのだろう。
勇者「(はーぁあ)」
勇者「(勇者になったら、大冒険ができるって、子どもの頃は思ってた…)」
勇者「(仲間たちとの出会いと別れ。危機を乗り越え、絆を深めてーー)」
勇者「(信じられないような風景との出会い。世界のために何ができるかって、いつも考えてーー)」
勇者「はぁ」
勇者「それが実際はどうよ? 毎日電車に乗って、魔王城と自宅の往復。通勤電車では、チカンに間違われないように両手を挙げてる始末」
勇者「同じ駅。同じ車両。立ち寄るのも同じコンビニ、使うのも同じトイレ」
勇者「仲間なんてもう見飽きた。毎日毎日、おんなじ魔王を討伐して家に帰る。一人寂しくビールを飲んで…」
勇者「ああ、もう。やってられねーよ」
勇者「…勇者、やめよっかなー…」
勇者「…でもな。生活安定してるし…」
勇者「魔王が第36形態になった日くらいしか残業はないし…、あれな、回復魔法使うから辛いんだよな…」
勇者「とぼとぼ」
勇者「魔王が回復魔法なんて使うとさ、あぁ、そこまで追い込んじゃったのか…、って罪悪感湧くし」
勇者「城に戻れば、会議、会議…。何をそんなに話し合うんだっつーの…。暇なの? 王様暇なの? いいなぁ」
勇者「はー…」
どんっ
勇者「わ! ご、ごめんなさい! 考え事してて…!」
魔王「俺様は、何も聞かなかった。とくに、勇者の超大ボリュームの独り言とかは」
勇者「…まおうぅ。聞いてたんじゃねぇかよ~」
魔王「だって聞こえたし! 俺様、超地獄耳だし! 聞こえたね! チョー聞こえたね! ウチの城の地下にまで響いてた!」
勇者「…え。そんなに?」
魔王「マジ、マジ」
勇者「そっかー…。疲れてんのかな、俺。温泉でも行こうかな」
魔王「休暇とってパラグアイ(地名)でも行けば?」
勇者「なんでいきなり休暇の行き先がパラグアイなの?」
魔王「恵まれない子どもたちに夢と希望をボランティアしてこいよ」
勇者「やだよ! むしろ俺がボランティアされたいよ! よこせよ! 持ってんだろ!! 夢と希望と愛が欲しい!」
魔王「ねぇよ、んなもん」
勇者「なん…、だとぉ」
魔王「自分の意思で生きないなら、誰かに利用されるだけだ。そして使い捨てられる」
勇者「……」
魔王「いいか、勇者よ。」
魔王「人生は変えられる。生きている限り、いくらでも変えられる。ーーあきらめなければ、な」
勇者「…そっかー」
魔王「うむ。俺様がいい例だ。最近は、ヨガとアロエとジャバスクリプトとインターナショナルを始めたぞ!」
勇者「魔王は、人間界から奪った溢れんばかりの金銭があるから、そういうことして遊んでられるんだよ」
魔王「馬鹿者! なぜあきらめるのだ! 今からでも、人間界に侵攻し、人間どもをいたぶり、財産を奪えばよかろう。なぜそれをあきらめるのだ? 不可解だな、勇者は」
勇者「あー…、うん。まぁ、良心とかあるから」
魔王「ならばその良心を捨てればよい。なぜ、銀行に金を奪いに行かない? 金がそこにあるのに。願いが叶うのに、なぜ、叶えようとしない? 不可解なのにも程がある!」
勇者「え。だ、だから…!」
魔王「よし。わかった。勇者がやらぬのなら、俺様が自ら手本を示してやろう。いいか、まず、ストッキングを購入しーー」
勇者「…かぶるの?」
魔王「うむ。よくわかっているな。無論だ。」
魔王「次にモデルガンを購入しーー」
勇者「懐に忍ばせるの?」
魔王「む、むぅ。よくわかっているではないか、勇者よ。いいか、知識とは、持っているだけでは役に立たん。実行し、初めて活かされるのだ」
勇者「…うん。そっか」
魔王「よし。いくぞー!」
勇者は止めた。だが魔王は振り返らなかった。
決然とした足取りで、銀行へと向かう。
そしてーー
魔王「10年国債買ってきた」
勇者「ストッキングかぶってモデルガン持って国債買いに行ったのかお前は」
魔王「生命保険も勧められたからパンフもらってきた」
勇者「そ、そうか。よかったな…」
魔王「あと、ティッシュと飴と洗剤も、タダでくれた。最近の人間どもは、親切なのだな」
勇者「…そっか。よかったな」
めでたし、めでたし…??
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