12 勇者と魔王と、旅行代理店
魔王「…む、どうやら勇者たちのパーティが最深部に到達したようだ」
勇者「ちわーっす、勇者様御一行です! 皆さま、あちらが毎度おなじみ、魔王になりま~す」
魔術師「わぁすごーい、アタシ、ホンモノの魔王って見るの初めてー! 写メ撮っちゃお♪」
魔術師「アタシもアタシもー! 一緒に撮ろー! あ、ちょっとそこの魔物、アンタも入って」
ピロリロリン♪
魔術師「さて、観光も済んだしあとは食事かな。勇者さん、豪華なのキタイしてますから~」
勇者「……。」
ゾロゾロゾロ……、魔術師5人が魔王城を出ていく。
魔王「…ゆ、…勇者…??」
勇者「…パーティ、組めなくて。代わりに旅行代理店に頼んだんだ…」
魔王「詐欺か」
勇者「…いや、彼女たちクラスのハイレベル魔術師だと、魔王城の魔物なんてザコ」
魔王「そりゃひどい」
勇者「…く。俺には、魔王を倒すどころかパーティを組むことすらままならないのか…!」
魔王「ま、元気出せよ。生きてればいつか良いこともあるさ」
勇者「見え透いた慰めなどいらんっっ! 見てろよ魔王! 俺は必ず成功させてみせる、勇者ツアーズの打倒魔王ツアー!!」
魔王「……はぁ?」
勇者「見てろよ魔王ーー!」
*
勇者「いらっしゃいませー! 今はこちらが人気でございますよ」
客「これで今日からあなたも勇者、行ってみませんか、魔王城の最深部。極上の冒険をあなたにーー」
勇者「どうです? 限定5名様の募集ですよ」
客「魔王城ってなんだか辛気くさそうねぇ」
魔王「そんなことはない。居住性能も抜群だ。冷暖房完備、ソーラー発電付き、火を使わないクッキングヒーター、ウォシュレットまで付いて、今なら50億万ゴールド!!」
勇者「……、売る気か」
魔王「魔法ですぐに建て直せる。……ふん、金などつまらぬものだな」
勇者「……クッソ、何かムカつくな」
勇者「お客様、こんなのはいかがでしょう。新築の豪邸見学会! 今ならラスボス戦も体験できます!」
客「ハードなのはちょっとね。もっと楽なの、無いの?」
魔王「勇者を護衛するだけの簡単な仕事です。三食昼寝付き」
勇者「護衛されるのか…俺」
魔王「そもそもだな、お前には私がいるではないか。他の人間どもなど、必要ない」
勇者「…あれ? これって愛の告白?」
魔王「(聞いていない)初代勇者は、棍棒と皮の鎧のみで魔王を殴り倒したと聞く。貴様も、旅行代理店などやめてそのくらいの覚悟で私に挑んでくるがいい」
勇者「…ねぇ、告白?」
魔王「告白すべき罪など、ありすぎて忘れたっ!」
勇者「…愛の。」
魔王「おのれ勇者め、今ここで息の根を止めてくれる!!」
勇者「…それはヤンデレならぬデレヤンなの? それともツンデレなの?」
魔王「人間どもの愛の基準って謎すぎて、正直、俺様には分からん」
勇者「…あ、そうなんだ」
魔王「熟年離婚はなぜ起こるのか…。不倫と出生率低下の関係。子はかすがいというが、そもそも子がいない夫婦のほうが一般的に仲睦まじい件について」
勇者「愛か…」
魔王「愛ねぇ…」
勇者「まあ、いいや」
魔王「俺様には関係ないしな」
勇者「お、客だ。いらっしゃいませー! 今なら香港旅行がお得になっております。魔王城鑑賞券も付いてきます」
魔王「だから、諦めろと言うに。誰が好きこのんで魔の巣窟に足を踏み入れるというのだ」
勇者「オーロラ鑑賞魔王城ツアー! トナカイ 1頭プレゼント!!」
勇者「……ダメか」
魔王「冒険者の酒場はどうなっちゃったんだ。まだあるはずだけど」
勇者「不況のあおりを受けて潰れたよ…今はオシャレなブティックになってる」
魔王「はじまりの酒場がブティックに…」
勇者「けっこう、人気みたいでさ、母さんも日参してるらしい」
魔王「……ふーん?」
勇者「そんなことより打倒魔王だよ!」
魔王「じゃんけん、ほいっ、あっちむいて、ほいっ」
勇者「くっそ、負けたぁあああ! またゲーム・オーバー!!」
魔王「フハハハハ……!」
あとがき
Thank you for Reading!
こんないい加減な話を、お気に入り登録してくださった方! ありがとうございますっ
というか、読んで頂けていることが嬉しいです!
どこまで書けるか分かりませんが、てきとーにがんばって参ります。
次回予告
勇者「魔王くん、あたし…好きな人ができたんだ」
魔王「…はぁ? 何故それを俺様に言う?」
勇者「…その人はね、世界征服を企んでて…。あたしより魔法攻撃力が高くて、HPも多くて…。だけど回復魔法が使えないの…。
ちょっと最終形態とかになるし、大魔王には捨て駒にされたりするけど…、カッコ良いんだよ」
魔王「……。」
勇者「魔王…、くん?」
魔王「……ッ」
部下A「魔王様魔王様、脂汗。」
部下A「魔王様に《恋愛》はNGワードなんですよー。こう見えても魔族のはしくれなんで、《愛》とか《希望》とか《夢》とか聞くと寒気と頭痛、便秘と下痢に苛まれて。」
勇者「難儀な体質なんだな、魔族って」
部下A「(ムッ)人間ほどじゃありません。」
勇者「なんだとー!?」
部下A「なんですか!」
勇者「既に予告になってないよこれ!!」
部下A「僕もそう思ってました!」
勇者・部下A「次回の冷やし勇者は! なんと超有名なあのゲスト! 自転車泥棒さんにお越し頂きます!」
勇者「まじか、まじかーー! 俺超ファンなんだよ! 色紙用意しとこ。盾の裏側に飾るんだ!」
部下A「…ヤな装備ですね…《勇者の盾》の裏側に自転車泥のサインとか…」