魔王、語る
『魔王、語る。』
魔王「働いたら負けだと思っています」
勇者「なるほどー。ひきこもりの大御所、三千年も、家にこもったまま眠っていた魔王様としては、働くのは敗北である、と。そのように考えてらっしゃる」
魔王「はい。そうですね」
勇者「働くことの、何がそんなにいけないのでしょうか?」
魔王「そうですね。働くとまず、疲れますね」
勇者「労働の度合いにもよりますがーーまあ、概ね、疲れるとみて間違いないでしょうね」
魔王「疲労は良くありませんね。つまりね、人格がおかしくなる」
勇者「ほほう、人格が…」
魔王「疲れたり忙しかったりすると、過去の幸せだった時間ばかり振り返ったり、何も考えられなくなったり、周囲の人間に気を遣えなくなったりといったことが起きます」
勇者「ふむ…」
魔王「あのね、私はね、働きすぎて家庭を壊した人間をね、何人も見てきてるんですよ」
勇者「家庭崩壊ですか…」
魔王「ええ。人生、何が大事かって、人と人との絆、つながりほど大事なものはない。世縋、という言葉があるでしょう」
勇者「はい。ありますね」
魔王「あれはね、世を儚もうとした人間が最後に思い出すもの。思いとどまるもの。世にまだ縋るべき理由、意味。そういったものなんです」
勇者「はぁ…」
魔王「わたしが何を言いたいかと言いますとね、働いたら負けだ、っていうことなんですよ」
部下A「(魔王様、魔王様、話しがループしてます)」こそっ
魔王「なんだよ部下A。いま大事なところなのだ」
魔王「つまりです。わたしは、働かない。配下の魔物たちに存分に働いてもらい、その間、わたしは惰眠をむさぼります」
勇者「惰眠を…」ゴクリ
魔王「ええ。働かずに食うメシほど美味いものはない。それはね。わたしが確信を持って言えます」
勇者「ありがとうございました。今回のインタビューは、ひきこもりのプロ、ひきこもり続けて三千年、ついに復活した魔王様からうかがいました。」
勇者「ついに世界を破滅へと導くかと思われた魔王様ですが、この様子では、まだ、働くつもりはないようです。以上、魔王城に決死の潜入をした勇者が、お伝えいたしました」
スタジオの司会「ありがとうございました。いやぁ、どうなんでしょうね女神様。魔王はやはり、我々を欺くための嘘をついているとお考えですか?」
女神「…」
スタジオの司会「女神様? 女神様ー?」
女神「働いたら負け…か。フフ。魔王のやつ、相変わらずいいことを言う」
司会「…あの、女神様が地上に加護を与えるのをやめると我々がですね」
女神「甘ったれるな、人間よ!」
司会「ビクゥゥ!!」
女神「祈るな、働け。酸素もATP(アデノシン3燐酸)も、価値も意味も、自らの手で造り出せ!」
司会「酸素も…? め、女神様。それはどのようにして…」
女神「がんばればできる。甘えるな。わたしのやり方を見て盗め」
司会「は、はぁ…」
女神「いいか! 酸素はだな、ここをこうしてこうすると…」
司会「なるほどー! 慣れると意外と簡単そうですね! わたしも酸素が作れそうです」
女神「ふふん」
司会「では、次回をお楽しみに!」
*
魔王「俺は考えた、勇者よ。何故、ひとは働くのだろう」
勇者「働かなくてもよくね? いやむしろ働くべきじゃない。働いたら負けだ。働いた者から死んでゆくんだ…」
魔王「うむ。そうだな。この惑星のありとあらゆる森羅万象有象無象沙羅双樹の花の色が働こうとも、我々だけは働かずにいよう」
勇者「うむ。そうだな」
こうして勇者と魔王は、改めて働かないことを誓い合ったのであったーー。
これを桃園の誓いという。
②勇者、失踪する
勇者「勇者であることに疲れました。今までありがとう。探さないで下さい」
僧侶(勇者の仲間)「大変ですー。書き置きを残して勇者さんが失踪しました」
盗賊(勇者の仲間)「そんな辛い思いをしているのに仲間でありながら気づいてやれなかったなんて…!」
僧侶「まあまあ、盗賊。自分を責めても始まりませんよ。まずは新しい勇者を探しましょう」
盗賊「もう切り捨ててる!?」
僧侶「当たり前です。過去は振り返らない主義なんです。プランBはいつだって用意しておくものですよ」
僧侶「というわけで、勇者ちゃん、推定6才ですー」
子供「あたちじぶんのなまえかけるよ?」
盗賊「おー、偉い偉い」
子供「ぐれーとそーどもそうびできるよ!」
盗賊「ちょっと待て」
子供「あたち、まおうをたおすの。みててね、おとっつぁん、おかあちゃん」
魔王「何、勇者が行方不明だって?」
盗賊「あ、魔王……」
子供「まおう、かくごー!」グサッ
魔王「 …フ、フフフ、人間。この我に傷を付けるか…、いい度胸だ」
盗賊「落ち着け魔王」
僧侶「そうですよ魔王さん、大人げない」
子供「やったあ! あたち、まおーをたおしたよ~」ぴょんぴょん
(とくにオチはないです…)
Thanks for Reading !




