102 重い想い
①重い想い
勇者「お前はいつもそうだ! 二言目には『世界征服』! 一体、俺との最終決戦と世界征服、どっちが大切なんだっ!?」
魔王「…え? えー…、えぇー? …そりゃ、あれかな。ちょっと僅差で世界征服のほうかな~」
勇者「…え、あ、そうなの?」しょぼーん
魔王「うん、悪いね、やっぱ世界征服しないと食べていけないわけじゃん? 城のローンもあるし、この間、新魔法生物生み出すのに借金しちゃったしさ~。土地経営だけじゃやってけないのよ」
勇者「…あ、そ、そうなの?」
魔王「お前こそどうなの。やっぱ、最終決戦よりはさ、レアアイテムがほしいとか、課金アイテムがちょっと気になるとか、そんなんじゃないの?」
勇者「バッカ言え…。俺はお前を倒して世界を平和にすることしか考えてないよ」
魔王「えー、だからさ、前にも言ったじゃん? テーブルには三本以上の脚がないと立てないわけ。人生もそれと同じだよ。一本脚でも、二本脚でも不安定なんだな、これが」
魔王「学業なり仕事なりがあって、打ち込める趣味とかがあって、あとさらに、家族が大切だとか友達が大事だとかね、そうゆうふうに、3つくらい居場所があるといいよ」
勇者「は…、はぁ?」
魔王「ひとつの場所でダメダメなときも、別のことしてる時は、それを忘れていられるじゃん?」
勇者「そーゆーもんかな~。逆にね、俺は幼稚園の頃から魔王を討ち果たすのを目標にしてきたから。今更、それ以外の目標ってのもねぇ?」
魔王「重い! この勇者重いよ! ティラノサウルスかメタセコイアかってレヴェルで重いよ! なんか潰されそう!」
勇者「えー? 俺の愛をさ、受け止めろよ? な?」
魔王「無理無理無理無理」
勇者「…そーかー。無理なんだ…。お前を亡き者にして俺も死のうかな…」
魔王「だから重いっていってんだろ!?」
②当店では、最新式のマッサージ・チェアでリラックスしつつ映画を観ながら、気軽に魔王を討伐していただけます。
受付「いらっしゃいませ、魔王城へようこそ! ゆっくり魔王討伐していってくださいね!」
勇者「あー、DVDは観られるかな?」
受付「もちろんです、勇者様。インターネットダーツも、ビリヤードもございます。ごゆっくり魔王討伐していただけますよ!」
戦士「あー、俺、何か飲みたいな」
受付「そちらのフリードリンク・コーナーから、お好きなお飲み物をどうぞ! 紅茶もコーラもコーヒーも、ソフトドリンクが飲み放題となっております!」
魔法使い「あ。あたし、お腹空いてきちゃったな…」
受付「カレーや、うどん、そば、ラーメンなど、お好きな食べ物をご注文いただけます」
僧侶「実家に送金したいんですけど…」
受付「お隣にコンビニエンスストアがございます」
勇者「いいねー、魔王討伐。いつ来ても楽しめるね」
僧侶「ええ。魔王が人間界に侵攻を始めた頃は、生きた心地がしませんでしたけどねー」
勇者「今や、暇人のメッカだよな。巡礼者が後を絶たない」
戦士「おい! 勇者! マッサージチェアでリラックスしながら魔王を倒せるってよ!」
魔法使い「アーユルヴェーダとロミロミもありますか?」
戦士「…え? そ、そういうのはよ、やっぱ、本格的な店に行かないと…」
受付「ございますよ。係の者を呼びましょう」
戦士・魔法使い「「あるのっ!?」」
武道家「おーい、ゆうしゃー、カラオケもあるって! 歌って躍りながら魔王討伐できるんだって!」
勇者「マジ? やるやる! はーい! 俺、魔王倒しまーす!!」
魔法使い「きゃははは、いっきー、いっきー!」
勇者「これでもか! どうだ魔王! これでどうだ!」
魔王役の魔物「あ…、うん。いいんじゃないですかね、勇者様。たぶん、3日後くらいまでには、世界征服やめようかなーって気になりますね」
魔法使い「はーるがきーてー、あきがきてー」
戦士「ゆうきとー、あいだけがー、俺のともだちー」
勇者「はー、今日もいっぱい世界を救っちまった…」
魔法使い「ねー、明日も世界、救おうね。旅の途中で出会った皆もーー、きっとそれを望んでるよ」
戦士「歌いすぎて、ノドががらがらだぜ…」
僧侶「マッサージされすぎてふくらはぎがつりそうです」
勇者様ご一行 ぞろぞろ、ぞろぞろ
***
側近「人間どもというのは、あれで楽しいんでしょうか…。コンピュータ画面の上のシュミレーションで魔王様を殴り、世界とやらを救った気になって…」
魔王「…、まぁ、いいんじゃなかろうか。本物の俺様が殴られているわけでなし」
部下A「オキナワに行きたいけど、時間やお金がなくて、旅行ガイド見て、なんとなく満足するみたいなバーチャル感なんでしょうか…」
魔王「まぁ、なぁ。俺もね、長いこと世界征服してるが、この世界の人間ども、つーのは、自堕落だね。やる気ないね、基本的に」
側近「…お陰様で、侵攻準備が楽ですよ。もうしばらくで、世界が魔王様のものになります」
部下A「わぁ、楽しみですね、魔王様! 世界征服したら、次は滅ぼすんですよね!」
魔王「もち」
魔王・側近・部下A「フフフフフ」
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