101 クラムチャウダーちゃうんちゃう?
勇者「魔王! ーーこの星空を見て、どう思う?」
魔王「おお! 絶景だな! そうだなぁ、一刻も早く、跡形も残らず消し飛ばさねばと、焦りがつのるね!」
勇者「…え。そういうもん…? 俺が守らなきゃ、とか思わない?」
魔王「その発想は、なかった」
勇者「ないのか…」
魔王「ないな」
勇者「ないんだ」
魔王「…だからな、そういうのは、勇者が考えてくれればいいよ! 俺には無理!」
勇者「丸投げェ。お前もうちょっと前向きになる努力しようよ! なんでそんなに何もかも壊したがるの! メッ!!」
魔王「勇者はさ、善人だね。善人すぎるよ」
勇者「……そんなじゃねえ。俺はね、俺のやりたいことをしてるだけ。手の届きそうな夢があるなら、手を伸ばしたいーーそれだけなんだ」
魔王「…ほう?」
勇者「ま、魔王こそどうなんだよ! 星空にさ、手を伸ばして…」
魔王「にゅい~ん」
勇者「……伸びるんだ?」
魔王「うむ。新機能だ」
勇者「アンドロメダ星雲辺りまで行ける?」
魔王「あー、アンドロメダはね、ちょっと遠いね。せいぜい、カシオペア座くらいじゃない? 近づいたら、メッチャ熱くて驚いた」
勇者「近づいたのか…」
魔王「うむ」
勇者「星には、手を伸ばしてはいけなかったのか…」
魔王「いやぁ、そうでもないけどさ。やっぱね、手の届く辺りで満足しとくのは、アリだね。足るを知る、ってーの? ほら、シジミの味噌汁作りたいな~って思って」
勇者「ああ! アサリしか売ってなくて!」
勇者「じゃあシジミ採りにいこう!みたいな」魔王「アサリ汁でいいや、みたいな」
勇者・魔王「「……あれっ?」」
勇者「いやいやいや、なんで諦めるんだよお前! 地球上にどれだけのシジミが棲息してると思ってんの! 海なんて100kmもクルマ飛ばせば、スグだろ! なんで取らないの! そこにあるんだよ、シジミはっ!」
魔王「……え~、夕飯の味噌汁ごときでそこまですんの、お前? あのね、妥協って言葉、知ってる? 100kmも走ったら、ガソリンどれだけ食うと思ってんだよ! ガソリン代と高速代、もったいないだろ!」
勇者「いいや魔王、わかっていないのはお前だ! いいか、シジミを食べたい→(から)シジミを取る、それは人間の自然な行動だ。なぜ、シジミを諦める? シジミとは、お前にとって、アサリで代用できる、そんな安っぽいものだったのか!?」
魔王「うっせえな! シジミもアサリも大して変わんねぇよ! むしろクラムチャウダーでいいよ!」
勇者「味噌汁、諦めちゃうのォ!? 魔王、諦めすぎ! なんでそんなに色々あきらめんの!」
魔王「うっせえよ! 俺は世界征服とか世界滅亡とかさせんので忙しいの!」
勇者「前々から思ってたんだけどさぁ、お前、支配したいのか滅ぼしたいのかハッキリしろよ…」
魔王「どっちもだよ! 支配もしたいし壊したい! その日の気分で変わる!」
勇者「変えんなよ!? トップだろお前、偉いヒトだろ!?」
魔王「あー、あー、聞こえなーい。もう、いいよ、今日は、スペイン風魚介スープにする。スーパー行ってこよ」
勇者「……あっ、エコバッグ……」
魔王「そっきーん、買い物行ってくるなー。バイク貸して~」
側近「魔王様だとバレると人間どもにボコられますから、ちゃんとフルフェイス・ヘルメットのまま、入店するのですよ? 護身用の剣も、ちゃんと持ちましたか?」
魔王「大丈夫、大丈夫。いってくるー」
勇者「……フン。俺はひとりでもあきらめない…! シジミの味噌汁をなッ! 見ていろ、魔王!」
ななたた企画でしたっ☆
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