100 そちも悪(ワル)よのう!
①そちも悪よのう!
勇者「え~、本日はお日柄もよく、絶好の魔王討伐日和と存じます。つきましては、我々人間といたしましては、魔王様を討伐させていただきたいと、そのように考えております」菓子折りをしずしずと差し出す
魔王「これはこれは、どうもご丁寧に。そうですね、私といたしましても、人間どもには常日頃多大なるご迷惑をおかけしておりますから、そのようなこともやむを得ないかとは思うのですが、なにぶん、わたくしどもといたしましても、人間界征服は長年の悲願でございまして、そこのところ、お分かりいただけませんでしょうか?」
勇者「…なるほど。しかし我々といたしましては、やはり多数の同胞が地に伏し、物言わぬ骸となってゆくのは、目に余ります。つきましては、ぜひ貴君のお命を今日明日にでもちょうだいいたしたい」
魔王「いえ、ですから。そのようなことは、我々としましては、承服いたしかねます。人間の皆様には、無抵抗で、速やかに我々に征服されていただくのが、双方のために利益のあることかと存じます」
勇者「ぶっちゃけ早く帰ってテレビ見たいんで倒されてくださいませんか?」
魔王「いえいえ、私も、とっとと作りかけのプラモ組み立てたいんで、お引き取り願えませんかね?」
勇者「ですから、わたくしといたしましても、人間の王や仲間たちの代表としてここにおりますので、貴方様には、ご退場願いたいのです」
魔王「少々、くどいように感じられます。核兵器を使わせていただくことも視野に入れねばならないようです」
勇者「どうかそれだけは思いとどまっていただくよう、切にお願い申し上げます。譲歩して、三日間の停戦でいかがでしょうか?」
魔王「よろしいでしょう。私は三日間の休暇というわけですな。貴方もお人が悪い」
勇者「魔王様には敵いませんよ。あっはっはっは」
魔王「そちも悪よのう。フハハハハハ!!」
(物陰)
部下A「魔王様と勇者さんの対決は、いつみても緊張しますね…!」どきどき
側近「ええ。まったくです…!!」
②最近のゲームは、オートセーブで安心
勇者「おぉう…、魔王城の自販機のジュースが、ついに140Yenに…orz」
ゴブリン「あっ、ゆーしゃだ! 退治だ! 退治しないと!」ポカポカ
勇者「ぎゃふん。も、もうだめだー!」
ゴブリン「やった! 僕が勇者を倒したぞ!」
勇者 は、脱水症状で たおれた!
*
王様「オーゥ、勇者YO!! 死んでしまうとは情けないやつじゃな!」
勇者「最近のRPGはオートセーブが基本だからな…。もう、いつ雷が鳴っても安心だ」
姫様「ふふ、勇者様。そんなことを言って、内心では、様々な形のセーブポイントが懐かしいのでしょう?」
勇者「姫…。そうですね。光ってたり、赤かったり青かったり、モノリス(板)だったり…。ゲームごとに、色んなセーブポイントがありました」
姫様「ダンジョンの中にセーブポイントがあったら、次はボス、が常識なのですよね?」
勇者「そうそう! そうなんです! あれはいただけない! いつ中ボスが出てくるかというドキドキが味わえない!」
姫様「そうですね。そんな勇者のためにわたくし、セーブポイントをこっそり片付けたりしましたわ」
勇者「いやぁ、あれにはびっくりした! 気を抜いてTシャツとサンダルで歩いてたら、ボス出てきましたからね! あれは危なかった! 『やくそう』をたくさん使いました」
姫様「ひとによっては、グミやブルーベリーや謎の怪しい飲み薬などで体力を回復させるのだとか…?」
勇者「ええ! ええ、そうなんです! あれはね、色々工夫をこらしてありますね! 食べ物系のアイテムは、腹具合と相談したりしてね!」
姫様「…勇者様の持ち物に以前、中身の入ったシチュー鍋がありましたね」
勇者「ええ! あれはね、七回くらい食べられましたね! 案外、腹持ちするんですが…、砂漠エリアに入ったときは、やばかった!」
姫様「まあ! シチューがいたんでしまったのですか!?」
勇者「いえ、水気がなくなって、ドロドロになりましてね」
姫様「勇者様…、過酷な冒険をくぐり抜けて来られたのですね」
勇者「ええ。しかし今や、オートセーブだ」
姫様「いつトラックにひかれても、そこから人生をやり直せるので安心ですわね」
勇者「そうなんですよ~。人生がオートセーブできるようになってから、もうね、だらっとしちゃってね」
姫様「…、もう。勇者様、早く助けに来て下さらないから、わたくし、退屈で」
勇者「はっはっは。すいません」
姫様「でも、よいのですわ。こうして、無事、城に帰れました」
勇者「はい」ニッコリ
勇者「あとは、魔王を倒して、世界を平和にするだけですね」
姫様「いいえ。世界中の子供たちが笑顔で暮らせるように、がんばりましょう」
勇者「そうですね!」
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