10 勇者と魔王と、カーボン竹刀
勇者「魔王、覚悟っ!」
すばやい すり足、そして力強い踏み込み。
勇者「めーーーーんっ!」
魔王「……む。何だその戦闘法は?」
勇者「異世界の武術だ! 見ろ、この新品のカーボン竹刀!」チャキッ
魔王「化学合成品なのか天然素材の竹なのかはっきりしろ」
勇者「だからぁ、軽くて丈夫! ささくれません! ヤスリ掛け不要! お子様にも安心してお使い頂けます。
さぁこれで魔王を倒す! うりゃぁああ!!」
*
僧侶「魔王様と勇者がまた たわむれてますよ。何であんなに楽しそうなんでしょうね?」
盗賊「新品のカーボン竹刀だからに違いない。」
僧侶「おぉ! そうですよね。あたしも今日はラスボス戦なんでぇ、おろしたての勝負下着です!」
盗賊「……勝負の意味、違くね?」
僧侶「なんでですか? 今日の魔王戦は、人類の未来の幾末を賭けた一大バトルですよね? それが勝負じゃないって、どういう意味ですか盗賊。これ以上に大事な戦いがあるんですか盗賊? どうなんですか盗賊」
盗賊「……すいません、オレが間違ってました」
僧侶「分かればいいんですえへん! さぁ、魔王を倒しますよメ●ンテ!」
どっかーーん
盗賊「……けほっ、けほっ。さりげなく自爆すんなこのバカーー!」
僧侶「なんでですか抱きついて自爆は最終決戦のお約束じゃないですか!! それをあたしにさせないなんて、盗賊は魔王の手先だったんですね!?」
盗賊「な、なんでだよ、オレはただお前の身を心配してーー」
僧侶「盗賊……」
盗賊「僧侶……」ミツメアウ フタリ
僧侶「あたしが羨ましいんですね!」
盗賊「は……? はぁっっ!?」
僧侶「自爆できるあたしがうらやましくて盗賊はそんな嘘をーー!」
盗賊「なんでだよなんで嘘って決めつける!?」
僧侶「あたしの頭がもげたって本当は盗賊は痛くも痒くもないんです!! どうしてそんな嘘をつくんですかっっ! ひどい、盗賊さん……」
盗賊「急に『さん』つけんな! …えー、皆さん、そーりょは、最終決戦の緊張のあまり混乱しているようです」
僧侶「してない!」
盗賊「してる!」
僧侶「してない!」
盗賊「してる!」
僧侶「してます~!」
盗賊「してませ……、あれ?」
僧侶「あはははは! や~い、ひっかかったぁ~」
盗賊「……クッ」
僧侶「あはははは! ばーか、ばーか、盗賊ばーか!」
盗賊「(なんだこの屈辱感…)」
*
勇者「小手ェえええ!!」
審判「小手あり。二本先取で、勇者の勝ち!」
勇者「いゃったぁああ!! これで県大会進出だ!」
僧侶「やりましたよ勇者!! 団体戦で県大会に出場です!」
盗賊「…え。あれ? オレとそーりょは応援だよな。あとの4人って……?」
僧侶「魔王軍高校のチームは、先鋒、部下A。次鋒、部下B。中堅、四天王。副将、側近。主将、魔王!!
対する我が勇者高校は、ですねぇ、先鋒、勇者。次鋒、勇者。中堅、勇者。副将、勇者。主将、勇者!!
どうです!? すごいでしょう!! 絢爛たるメンバー!」
盗賊「片一方だけ個人戦じゃねえか!! しかも4人がかりのとかあるし!!」
僧侶「ふふ~ん、人類最強の名は伊達じゃないんですよ。勇者に勝てる人なんてあたしくらいしか…」モジモジ
盗賊「勝つのかよ」
僧侶「気合いの問題なんですよ。勇者の弱点はーー耳!」
盗賊「おう! ……、耳??」
僧侶「ふふふー、勇者さんたら、耳が弱いんですよー。そこだけ鍛えてないんですね」
盗賊「……どうやって鍛えんだよ、耳筋(耳筋肉)を、よ」
僧侶「それは秘密ですよ。盗賊に教えるなんてもったいないです。
耳腕立ての方法も、耳腹筋の方法も、耳呼吸の方法も、あたしと勇者だけのひみつです!」
盗賊「すでにそれは耳じゃない……」
インタビュアー「本日の勝利を飾ってみて、どうですか、感想は?」
勇者「そうですね…。私だけではここまでこられなかった! 応援してくれた皆さんのおかげです!」
ワァァアア
*
僧侶「こんにちは、僧侶です」
盗賊「オレもこのノリに付き合わされるの? 盗賊です」
僧侶「ふたり合わせて~」
盗賊「……やだ、お前とは合わない」
僧侶「なんで目を逸らせるんですか盗賊!? いやぁああ、もう一度こっちを見てェええ!!」
盗賊「……なんで懇願する?」(笑顔)
僧侶「…なんででしょうね? …勢い?」
盗賊「まぁ、そんな所だろうね」
僧侶「ですよねー!(満面の笑顔) こんなふうにクールなところが、盗賊のいい所なんですよ。いっつもいっつもノリが悪くて、あたしのノリ突っ込みとか浮いちゃうんです」
盗賊「それは・・・、すいません」
僧侶「いえいえ~、いいんですよ。その分は勇者さんのするどい切り返しがありますからねっ」
僧侶「ではでは、本日はこの辺でっ!」
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次回は、コンビニで魔王。(・・・の予定です)
読んでくださった方、ありがとうございます!