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幸せの赤い竜  作者: さや@異種カプ推進党
パラレル・赤い竜
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マサ視点と会話集



 道を歩いていたら、突然少女が降ってきて驚いた。

 俺が顔を上げた瞬間、少女がその表情を恐怖に歪めたのは……まぁ、いつものことだ。


 俺を怖がって必死に謝る少女に声をかけたのは、単なる気まぐれだった。

 大抵は俺が声を発した途端にさらに怯えさせてしまうから、普段は黙って立ち去っている。

 だが、予想に反して彼女は目を大きく開きながら、俺をまっすぐに見て来た。

 その後も、自身の置かれた境遇に不安な様子はありつつも、俺に対して怯えるといったことも無く、さらにあろうことか、ついて来たいとさえ言った。

 怖がりもせずに俺を頼りにしてくれたことが嬉しくてロクに考えもせず了承してしまったが、それを聞いた少女が本当に安心したように笑うので何とでもなると思ったのだ。

 その直後に成人した女性であることが分かり、色々とマズイだろうと考え直したのだが……涙目ですがってくる彼女に反射的に頷いてしまう。


 ……あんなの反則だろう。


 その後も彼女はどこまでも規格外というか、とにかくおかしかった。

 平気で俺の隣りを歩き、平気で俺の顔を見て、平気で俺と話し、平気で俺に触れる。

 そして、何でも無いことように彼女は俺に笑顔を向けてくる。

 それなりに親しい知人たちですら、俺を直視することは少ないというのに、なぜ会ったばかりの彼女がそんな態度でいられるのか不思議でならない。


 ひとつ困ったことに、彼女は女としてどこまでも無防備だった。

 おそらく最初に子供だと勘違いしたことが原因なんだろう。

 それにしたって大の男、それも俺のような奴を前にやれ下着が欲しいだの同じ部屋でいいだのと……。

 普通なら誘っているのかと思うところだ。

 まぁ、その後の信用発言であっさり撃沈したわけだが……。

 あんな風に言われて手を出せるのは、よっぽどのロクデナシ野郎だけだ。


 とは言え、風呂上がりの彼女を見た時は少しヤバかった。

 湿った髪がほんのりと朱色に染まった肌に絡まり、薄い寝間着が彼女の成人女性らしいラインを浮かび上がらせ……あー、くそっ!

 思い出すな、俺!


 大陸を広く旅しながら生きている自分としては、最初はそれこそ誰か信頼できる人間に預けようかとも思っていたが、一日ですでに俺が彼女から離れがたくなっていた。

 だから、二人で旅ができるように、彼女をギルドに連れて行き登録させた。

 その際、彼女からランクを聞かれ少し焦った。

 俺が最高ランクだと知ったら、彼女の態度は何か変わってしまうだろうか。

 適当に濁すと、彼女もそんなに興味はなかったのか、それ以上聞いてはこなかった。


 ホッとしたのもつかの間、ギルドを出ようとしたところで予想外の人物に会ってしまう。

 この国の王太子殿下だ。

 竜人族の中でも突出した力を持つ俺を利用しようとする輩は多いが、その中でも特にしつこく勧誘してくる厄介な男。

 前回、近衛兵百人抜きという賭け勝負に俺が勝つことでようやく諦めたかと思ったんだが……どうやら、また気が変わったらしい。

 何が運命だ。くそったれ。


 余計な事をしゃべられる前に席を外してもらおうとアミに声をかけたのだが、そのせいで殿下が彼女の存在に気づいてしまった。

 もし、俺がアミに懸想している事がこの男に知られたら危険だ。

 殿下は有能だが、極端な合理主義で、人の感情には疎い。

 俺を手に入れるためなら、彼女を利用する事に躊躇いは無いだろう。

 アミを子供と勘違いしていることを正さずに関係を誤魔化してみるも、殿下は彼女が俺を恐れない様子を見て何かあると感じたようで、挑発するような質問を投げかけてきた。

 思わず舌打ちをしそうになるが我慢する。

 結局上手く誤魔化しきれず、殺気を発して怯ませたところで、無理やり殿下の前から去った。


 殿下は追手を差し向けて来るだろうか。

 アミを不必要に危険な目にあわせてしまわないだろうか。

 そういえば、あの会話を聞かれてしまったが、彼女はどう思っただろう。


 悶々と考えていると、背後から声をかけられた。

 振り向けば、息の上がったアミが少し潤んだ瞳で俺を見上げている。

 そして、彼女の華奢な手をがっちりと掴んでいる俺。

 慌てて手を離して謝ったが、彼女は笑って首を横に振った。


 ふと辺りを見回すと、ギルドから随分と離れた場所にいることが分かる。

 一人で思考に耽って彼女を長く引っ張り回していたらしい。

 何てこった。

 再度謝ると、今度は強引に話を変えられる。

 その際に背中を叩かれたが結構痛かった。

 ……案外、力強いんだな。

 それにしても、黙って俺に振り回された挙句、笑顔で許すなんて、アミは優しすぎる。


 殿下の捜索が入る前に街を出ることを決めた。

 それをアミに伝えると、彼女は酷くあっさりと了承した。

 なぜそんなに簡単に頷くことができるのだろうか。

 不安じゃないのか?

 そこまで考えて、ふと気が付いたことを口に出してみた。


「……アミは何も聞かねぇのな」


 街を出る理由にしろ、さっきの殿下にしろ、俺の正体にしろ、こっちから口にしない事や、言葉を濁した事について、彼女は一度たりとも言及してこない。

 すると、アミは食べる手を止めて俺を見ながら首を傾げた。

 しまった、藪蛇だったか?


「マサさんが話すべきじゃないって判断したんだったら、私はそれに従うだけだよ」


 アミのその言葉は衝撃だった。

 彼女は全部わかっていて、それでも敢えて口を閉ざしていたんだ。

 信頼されている事を嬉しく思いつつも、それに足るほどの存在ではないと苦しくも思った。



 旅の途中のアミはどこか子供のようだった。

 初日の夜から当然のようにアミは俺の膝の上で眠り、さらに三日目の朝は筋肉痛を理由に彼女は俺に運んで欲しいと言って抱きあげることを提案してきた。

 勿論、この程度で何の負担になるというわけでもないし、頼りにされるのは嬉しい。


 …………が、正直生殺しは辛いぞアミ。


 腕の中の彼女はいつだって柔らかくて良い香りがした。

 その黒い髪に顔を埋め抱きつぶしてしまいたくなる衝動を何度こらえた事か。

 出費がどうの手間がどうのと変なところで気を使う前に、男としての俺に気を使って欲しいものだ。

 ずっとこんな調子じゃ、いつ理性が決壊するか……。

 そんな事を考えながらも、彼女と触れあえる機会を逃す気にもなれず、乞われるがまま言う事を聞く己の浅ましさに自嘲の笑みが零れる。


『愚かな……化け物が人並みに誰かに愛されようなどと……』


 いつだったか、誰かに言われた言葉が頭の中でこだました。


 それでも、旅は順調に続いた。

 だが、久しぶりに宿のある町に立ち寄った夜、とんでもない失態を犯してしまう。


 他に空いている宿も無かったため、仕方なくアミと一人用の部屋に泊ったのだが……。

 久しぶりに布団で寝たせいか、それともいい加減アミへの欲求が強くなりすぎていたのか、寝ぼけて彼女の唇を奪ってしまったのだ。

 それも、ごく軽いものではなく、深く貪るように、だ。

 恐れていた事を現実にしてしまったと青くなる俺に気付かないのか、アミはまるで誘う様な表情をしたまま俺の名を呼ぶ。

 血の気が引いたはずの顔面が一気に火照るのを感じた。

 弁解しようと口を開いたが、上手く舌が回らない。

 それに焦っていると、俺を見ていたアミが気の抜けるような笑顔を見せた。


「何で、笑える……?

 アミ……お前、怒って無いのか?」


 ほぼ独り言だったのだが、きょとんとした表情になって首を傾げるアミに、今度はしっかりと問いかけた。

 彼女は俺の言葉に黙って首を横に振った。

 ならばと、聞き方を変えるがやはりアミは首を横に振る。

 その後、質問に答える代わりに何も言わず俺を抱きしめてきたアミに……己の頭の片隅で理性が切れる音を聞いた。







以下、会話集↓




◇大・丈・夫。全部計算だよっ。


「ところで、竜の方のマサさんてさ。空は飛べないの?」

「いきなりだな。飛べるがどうした」

「動物や人を乗せて飛んだ経験は?」

「無い」

「乗れないの?」

「さぁな。乗せた事ねぇし分かんねぇよ。

 何でそんなことを聞く?」

「乗りたい」

「ダメだ。落ちたらどうする」

「試しに低空低速飛行からやってみればいいじゃない」

「んなの、関係ねぇ。背中に乗った時点である程度高さがあるんだぞ。

 アミには無理だ」

「じゃあ、飛ばなくていいからとりあえず一回乗ってみたい。

 落ちそうになったらその前に尻尾でも足でも使って受け止めてくれたらいいよ。

 マサさんなら出来るでしょ?」

「おまっ…………大体、竜なんて化け物だぞ。

 普通は怖がるもんだろーが」

「正体がマサさんなのに怖がるわけないでしょー。

 ねぇ、お願いっ」

「……はぁ。ったく、しょうがねぇな。

 乗せるだけだぞ。飛ばねぇからな」

「やった! ありがとー、マサさん!」




◇首飾りなんかにすると死亡フラグ回避アイテムとして作用します


「なぁんだー、もっとジワジワ変身するのかと思ってた。

 一瞬なんだね」

「ゆっくり変わってたら隙だらけになるだろう」

「わっ、竜の姿でもしゃべれるのね。

 声帯どうなってるの?」

「……知らねぇ」

「ま、いっか。しかし、間近で見ると大きいねぇ」

「そうか」

「うーん、思ったより登るの大変そう。

 ねぇ、咥えて背中に降ろしてもらったり出来ないかな?

 せっかく、首長いんだし」

「せっかくの意味が分からん。

 咥えるったってこの口だぞ」

「何とも鋭い牙ですね。

 仕方ない。頑張って頭にしがみつくから背中まで宜しく」

「結局、自分で登らないのか…………ほらよっ、と」

「おぉーう。高い、高い。

 中々良い眺めだよー、マサさん」

「落ちるなよ」

「いやぁ、広いから大丈夫ー。

 ところで、記念に鱗一枚貰っていい?」

「何がところでなんだ、何が…………別に構わんが」

「よし、じゃあこの大きめのを……うぐぐ、ぬぬ、せぃ!

 ほやっ! とえいっ!

 ……取れないぃ、マサさぁーん」

「あーもぅ、っがねぇなぁ……っと、これでいいか?」

「わぁ、ありがとう! 大事にするね!」




◇期待なんかしてなかったんだからね!


「ふー、満足満足。ありがとう、マサさん。

 もう人型に戻っていいよー」

「あぁ……あ? 何で後ろを向くんだ?」

「え、大丈夫なの?」

「大丈夫? どういう意味だ?」

「人に戻ったら服を着て無かったりするんじゃないの?」

「何でそうなる!」

「なーんだ、違うの。

 てっきり人型に戻ったら裸になっちゃうのが嫌だから竜になりたくないって言ってるのかと思ってた」

「ってーと、何か!?

 お前は全裸ありきで俺に竜になれと強要していたのか!?」

「見なきゃ平気かなって」

「んなわけ無ぇだろ!」

「あれ? だったら、竜の時は服はどこにいってるの?」

「話聞けよ!

 ……って、別にどこにもいってねぇよ。

 服も同時に変化するからな」

「えぇー」

「何でそんな微妙な顔になる」

「だって、物理的におかしいじゃない。

 どういう理屈でそうなるのか全然わかんない」

「物理……?」

「あ、細胞ごと変化するものだと考えるからいけないのか。

 魔力的な力を使っての変化だったら服ごと変わってもおかしくないのかな。

 ……でも、それにしたって理屈が分からないのは一緒だわ」

「アミ?」

「魔力…………魔法か。

 無から有を生み出す仕組みを科学世界に生きる人間に理解しろってのが無理なのかもね」

「おーい」

「大体、ファンタジーな世界に連れてきておいて補正が言葉だけってのはおかしいわよね。

 そうよ。普通、魔法が使えるなり身体能力の強化なりあるもんじゃない?

 あの自称神様はもっとラノベを読み尽くすべき」

「…………」




◇君を知ったその日から僕の心のともしびは消えない


「ねぇ、マサさん。

 竜人族って、竜と人どっちが主体なの?」

「別にどっちって事ぁ無ぇよ。

 まぁ、生活するのに便利だから人間の姿をとってる奴の方が多いかな。

 中には一生竜の姿で生きるような奴もいるが、流石にそれはほんの一握りだ」

「そっかー。

 じゃあ例えばさぁ、竜人族のマサさんと人間の私との間に子供が出来たらどうなるのかな?」

「ゴホッ! おまっ、アミっ!

 いきなり何言ってんだ!?」

「私、そんなに変な事聞いた?」

「……い、いや、何つったら良いのか。

 基本的に竜人族は里から出ずに一生を終える奴がほとんどの閉鎖的な一族でな。

 他種族と夫婦になったなんて話は俺も聞いた事が無い。

 だからどうなるってのは俺にも分かんねぇよ」

「ん? 里から出ない? え?

 じゃあ、マサさんは?」

「……俺は例外だ」

「例外ねぇ……『逃げて来た』『攫われた』『追い出された』『始めから里にはいなかった』『不明』の内のどれかに当てはまる?」

「追い出された……が、一番近ぇかな」

「そうなんだ。でも、おかげで私はマサさんに会えたし、ある意味感謝だね。

 って、不謹慎かな。ごめんね、マサさん」

「あ、いや、あぁ…………その、追い出されたのも、悪くなかったかもな」





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