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幸せの赤い竜  作者: さや@異種カプ推進党
パラレル・赤い竜
40/42

ラスト



 以降は特筆するような事も無く、二人での旅は淡々と続いた。

 時が経つにしたがって、移動の間はマサさんに抱えられるのが当たり前になっていった。

 勿論、人前では降ろしてもらいますけどね!


 さて、そんなこんなで旅を続けて一年ほど経ったある日のこと。


「え? 一人用の部屋がひとつ空いているだけ?」


 マサさんはぴくっと片眉を吊り上げた。


「他に空いてる宿も無かったし、もうここでいいんじゃない?」


 別に一人用だろうが何だろうが私的には無問題です。


「ばッ、アミ、一人用の部屋ってことは寝床が一つしか無いって事だぞ」

「うん、知ってるよ?

 別に一緒に寝ればいいじゃない。

 野宿の時はいつもくっついて寝てるでしょ?」

「野宿の時とは違うだろ。

 いや……あれもどうかと思うが」


 うん、ごめん。

 マサさんの言いたい事は分かってる。

 そして敢えて無視している。


「でも、ここがダメなら野宿になる可能性が高いよ。

 それなら、もうここで手を打っちゃおう?」


 それからマサさんはうーうー唸りながら考えたあと、宿の人に話しかけた。


「……部屋にもう一つ寝床を用意してもらうことは出来るか?」

「いえ、その、新たに用意するだけのスペースが部屋には無っ……ひぃっ!

 申し訳ございません!!」


 宿の人が言葉を発する度にマサさんは不機嫌を顔に現していく。

 あーあ、怯えてチワワみたいになってるじゃん。可哀相に。

 それからも一悶着あったけど、最終的には私の説得にマサさんが折れてこの宿に泊まることになった。


 その後、久しぶりのお風呂タイムを満喫。

 同時に考え事タイムに突入。

 んんー、ていうかさぁー。

 マサさん大事にはしてくれるけど、一年も一緒にいて全然手を出してこないし、恋情なのか親愛なのかいい加減分かんないのよね。

 伴侶になる見込みが無いなら、いつまでもマサさんにくっついていられないじゃない?

 私だってそれなりの年齢なんだから、無理なら早めに次を探したいよ。

 まぁ、いちいち真っ赤になって過剰反応するのを見る限り、一応女として見てもらえてるんじゃないかなぁとは思うんだけど、男性の場合イコール好きってわけじゃないからねぇ……。


 そりゃ、気持ちが無いまま手を出してきても怒りはしないよ?

 拾ってくれた恩もあるし。

 でもその場合、万一子供が出来ちゃった時にどうなるかっていう不安があるのよね。

 まだ一人で生きていく事も難しい状況なのに、ハラボテ状態で捨てられでもしたらと考えるとさー。

 マサさんの性格から言って無いとは思うけど、常に最低の想像しておかないといざという時に対処が遅れて身動きとれなくなるからね。


 何て言うのかなぁ。

 気持ちはハッキリさせたいけど、今後を考えると自分から誘うわけにもいかないし……ジレンマっていうか。

 えっ、充分煽ってるだろ?

 ……はてさて、何のことやら。

 なーんて、実を言うと向こうから手を出してきたらとりあえず相手の責任に出来るかな、っていう思惑があったり無かったり?

 って、そんなこと言ってたら、計算ばっかりしてるみたいじゃん。

 これでもちゃんとマサさんのことは好きですよ?

 いやいや、マジでマジで。

 じゃなきゃ、あの凶悪犯罪者顔が可愛く見えたりしないってー。

 絶賛盲目中だよ、私は。

 でも、生活もあるんだし現実は見ておかないとさ……恋に恋する小娘じゃないんだから。




~~~~~~~~~~




 さて、そろそろ寝るかという段階になってマサさんが渋りだした。


「……やっぱり床でいい」

「今さら何言ってるのマサさん。

 そんなことしてたら野宿疲れは取れないよ」

「別に、俺は野宿程度で疲れたりなんか……」

「問答無用!

 ほらほら、いいから横になりなさい」


 ぐいぐいと腕を引っぱり、強引にベッドに寝かしつける。


「いや、アミ。だから」

「むっ、マサさんの身体が大きすぎて隙間が無い」

「あぁ、そうだろうな。それじゃあ俺は床で……」

「まぁ、マサさん丈夫だし上に乗っちゃっても問題ないよね?」

「は?」

「よいしょっと」


 ひょいとマサさんの大きな身体の上に寝転がって布団をかぶる。

 ふむ、暖かい。

 床で寝るより負担になるんじゃね?っていう疑問は、この際無視する。

 マサさんは私の突然の行動にびっくりして固まっていた。

 うーん、野宿初日を思い出す反応だわー。


「うん、充分広いしこっちは大丈夫…………マサさん重い?」


 顔を上げて問いかけると、未だに固まったままのマサさんは反射的に答えを返す。


「いや」

「そっか、だったら大丈夫だね。

 じゃ、おやすみなさーい」


 そう言って、彼の意識が覚醒する前に胸板を枕に目を閉じた。

 頭の下から響いてくる中々早く打っている心臓の音に少しだけ口が緩む。

 うとうとと眠りに落ちる直前、マサさんは深い深いため息をついていた。



 それから数時間後、ふと目が覚めた私は現在の時刻を確かめるために窓のある側へと身体を傾けた。


「……んん?」


 私が動いたことに反応したのか、マサさんが眉間に皺を寄せた後、うっすらと目を開ける。


「あ、ごめんね。起しちゃった?」


 小声で謝ると、マサさんは私をぼんやりとした目のまま見てくる。

 そして、ゆっくりと手を動かして私の頭の後ろを掴んだかと思うと唐突に顔を近づけてきて……。


 口と口がくっついた。


 ひゃっ、へっ!? ちょ、まっ、えぇ!?

 いきなり何!?

 って、うわ、舌ぁ!

 舌入ってきたぁぁあああ! ひぃーっ!

 ……やっ、マサさ……激し、ていうか、やたらウマ……ひぇぇぇ。


 しばらくそのまま翻弄されていると、急にピタリとマサさんの動きが止まった。

 そして目をカッと見開いたと思うと、ものすごい速さで顔を離した。

 それから彼は一気に顔色を真っ青に染めて、口をパクパクと開閉する。


「マサ、さん……?」


 私は自分が潤んだ瞳にほんのり朱色に染まった頬と少し荒い呼吸という中々に扇情的な様子であることを理解しつつ、あえてそのまま彼の名を呼んだ。

 だってさぁ、寝ぼけてたにしろ何にしろ、これってちょっとチャンスじゃん。

 名前を呼ばれたマサさんは、青かった顔を一瞬で赤くして狼狽える。


「うあっ、いや、その、違っ、俺……あの……っ」


 捨てられた子犬のような情けない顔をして弁解しようとするマサさん。

 あぁー、もぅっ! 何、その表情! 可愛いなぁ、おい!

 思わずへらりと笑うと、マサさんはピタッと動きを止めた。


「………………のか?」


 顔を少し俯かせ、呟くように何かを問われて私は首を傾げた。


「アミ…………怒って無いのか?」


 今度はきちんと聞こえたその問いに、黙って首をフルフルと横に振る。


「怖くなったり」


 フルフル。


「嫌いには?」


 フルフル。


「じゃあ、もう一緒に旅をしないなんて事は……」


 ていうか、マサさんキスひとつでネガティブになりすぎ!

 そろそろウザい!

 埒があかないので、私は黙ってマサさんをギュッと抱きしめた。

 一瞬ビクッとしたけど、そのあと彼は何も言わなくなった。

 しばらくそうしていると、マサさんは震える腕を私の背に回してくる。

 それから懇願するような、どこか苦しげな、そして熱のこもった声で何度も私の名前を呼んできた。

 彼はゆっくりと互いの身体を反転させ私の身をベッドに横たえさせると、その巨体で覆い被さってくる。


 っはい、キタぁーーーーッ!

 マサさん、一・本・釣りぃーーーっ!!

 ていうか、この反応はアレでしょ。

 単なる性欲とかじゃなくてもう両想いって事でいいよね?

 イケるよね?

 よーしゃ、よしゃ。

 いやぁもー、待ちくたびれたぁーっ!

 据え膳一年目にしてようやくですよ、本当にもう!

 腐る前で良かったね!


 このあと特に寝落ちなんてお約束もなく、晴れて二人は男女の仲となりました。

 おほほ、ごちそうさまでした。




~~~~~~~~~~




 はいはいはーい、アミです。

 何だかんだで、あれから早くも約半年が経過しましたよん。

 で、一つご報告。

 このたび、私ことアミ・ナカシマはマサさんと夫婦になることが決定いたしましたー。

 わー、どんどん、パフパフー。

 今日からアミ・グリンストンだよ!

 やっふーぅ。


 実は、旅の途中にイケメンからフツメンまでそれなりに沢山の男と出会ってはいたんだけど……どいつもこいつもとにかく最悪だった。

 例えば、ナルシストで選民思想な冒険者、マザコンでロリコンの商人にマッドサイエンティスト気味な魔術師、脳筋で汗臭い鍛冶師、腹黒で性悪な騎士……エトセトラ、エトセトラ。

 いくら顔が良くても、そんな奴らと恋愛だなんてとんでもない!

 その度にマサさんの良さを再確認したわ。

 顔はともかく、照れ屋で可愛いし、優しいし、強いし、素直だし、何より常識人だしね!


 最上の伴侶を得た今では、あの自称神様にもちょっとだけ感謝してるかな。

 でも、ほんとにちょっとだけね。

 だって、家族や友人といきなり引き離された恨みの方が大きいもの。


 ……。

 ………。

 …………。


 さて……と、そ・ん・な・こ・と・よ・り。

 これから一緒にめっぱい幸せになりましょうかね、マサさんっ。





 パラレル赤い竜・完。


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