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幸せの赤い竜  作者: さや@異種カプ推進党
リクエスト番外編
34/42

セリフが無いと、俺は番外編も書けねぇのかよッ!

番外編その3目次

1.まぁ、それでも皆さん顔は見ないようにしているわけですが…(マサの日常ご近所付き合い)

2.汚いなさすが女きたない(アミの嫉妬話?)

3.マニュアルなんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ。(子育て風景)




◇まぁ、それでも皆さん顔は見ないようにしているわけですが…



「よぉ、マサの旦那! 今日は1人で買い出しかい?」

「あぁ。いつもの銘柄を4俵頼む」

「まいどあり!

 しかし、こんだけの量を片手で軽々持ち運べるのは旦那ぐらいだなぁ!

 いやぁ、その力で今度の大口の卸しを手伝って貰いたいぐらいだ、はっはっは!」

「別に構わんぞ。いつだ?」

「いやいやいや、冗談だよ! 旦那は本当にお人好しだな!

 気持ちは嬉しいが、客を頼ったとあっちゃあ母ちゃんに怒られちまわぁ!」

「そうか……じゃあ、俺はこれで」

「おぅ! また次もヨロシク頼むぜ!」


 大通りを歩いていると、すれ違う人々から挨拶の声がかかる。

 マサの存在は有名だが、彼の方は町人全員の顔と名前が一致しているわけではない。

 覚えていない事を申し訳なく思う一方で、怖れず話しかけてくる彼らを好ましく思いながら、簡単に挨拶を返していく。

 と、そこへ正面からやって来た青年がマサに気がついて大きく手を振ってきた。


「マサ師匠! ちょうど良かった!

 ちょっと、聞いてもらいたいことがあったんですよ!」

「……師匠は止めろと言ってんだろうが。で、何だ」

「いえね、自警団の武術講習なんですけど……週1回からせめて2回に増やせないですかね?

 最近、マサ師匠の手ほどきを受けたいからって、入団希望の人間がやたら増えてるんですよ!

 町の自衛力が上がるのは良い事ですし、余程の事が無い限りは全員受け入れてるんですけど、そうすると今度はいつもの広場じゃ狭すぎて、肝心の講習が受けられないなんて事に……」

「あぁ、事情は分かった。

 アミにも相談しねぇといけねぇから、今ハッキリとは答えられねぇが……。

 ま、おそらく大丈夫だろう。他のヤツにもそう伝えとけ」

「はい! ありがとうございます!

 じゃあ、僕、見回りの途中なのでこれで!」

「おう。無茶はすんなよ」


 ヒラヒラと手を小さくふって、青年を見送る。

 それから歩きだして間もなく、今度は背後から声がかかった。


「おやっ、マサさんじゃない。偶然ねぇ」

「あぁ、お隣の……」

「あら? そのお米ひょっとして」

「1俵はそっちの分だ。後で家に届けておく」

「まぁまぁ、いつもスミマセンねぇ。ご厚意に甘えっぱなしで申し訳ないわ」

「なに、ウチのを買うついでだしな。どうという事はねぇ」

「はぁ、優しい旦那様でアミさんが羨ましいわ。

 そこをいくと、宅の主人は本当気が利かなくって……」

「まぁ、そう言ってやるな。他所の畑はたわわに見えるってヤツだろ」

「……そうかしら」

「すまんが、あまり遅くなるとアミが心配するんでな」

「あらっ、そうね。引き留めちゃってごめんなさい。

 じゃあ、また」


 その後もちょこちょこと知り合いに声をかけられながら、マサはのんびり自宅へ戻った。

 彼のこれまでの人生からは考えもつかない様な、のどかで平和な生活がそこにはあった。





◇汚いなさすが女きたない



「ねぇ、自警団に最近女の人も増えてるって本当?」

「ん……?

 そうだな。正確な数は知らねぇが、若いのを中心に急激に増えた印象があるな」

「……そっか」

「あん? どうした、アミ。」

「あの、こんなこと言ったら、マサは呆れちゃうかもしれないけど……」

「なんだ?」

「教える立場なんだから、仕方ないって分かってはいるの。

 その、でも、できれば……必要以上に若い女の人には近付かないで欲しい、かな、って」


 一瞬、言われた意味が理解できずにきょとんとした顔でアミを見つめるマサ。

 それを受けて、彼女は今までにない情けない表情をしてジワリと頬を赤く染め瞳を潤ませた。


「ごっ、ごめっ、やっぱり何でもな……っ」

「アミっ!」


 口に手を当て慌ててその場から立ち去ろうとするアミを、マサは素早く腕を掴むことで引き止めた。

 彼女の態度から、言葉の意味をようやく咀嚼できたマサは真剣な表情で口を開く。


「謝らなくていい。俺だっていつも同じことを考えてる。

 …………いや、それ以上か」

「え?」


 不思議そうに振り返るアミに、苦笑いを浮かべるマサ。

 空いている方の手で後ろ頭を掻きながら渋い顔をして彼は言った。


「あー、例えば、御用聞きの男だとか、商店の息子共とか、自警団の連中とかな……。

 とにかく年の近い奴らと話してるアミを見ると、いつ取られちまうんじゃねぇかと気が気じゃなくてよ。

 ……別に、お前の気持ちを疑っちゃあいねぇ。そこは勘違いしてくれるなよ。

 ただ、理屈じゃねぇんだ……そうだな、自分に自信が無ぇからかもしれねぇ。

 いつだって不安で不安で、ずっと家の中に閉じ込めて誰にも会わせずにいれたらどんなにいいかと、そんな犯罪じみた事ばかり考えてる」

「……マサ。それ、本当?」

「あぁ……俺が怖ぇか?」

「ううん。そうじゃなくて。そんな事じゃなくて。

 じゃあ、私、言ってもいいのかな……」

「何をだ?」

「わ……私以外の女の子と、2人きりで話をしないで……とか、できるだけ、触ったり触られたりしないで、とか、必要以上に見つめないで、とか、何か貰っても受け取らないで、とか、笑いかけないで、とか。

 そんな……我が儘な……束縛するような事、言っちゃっても、いい?

 マサ、私の事……嫌わない?」


 不安そうに彼の服の裾を掴んで、上目遣いに見つめるアミ。

 グッと心臓を掴まれた様な気持ちになって、マサは彼女の身体を覆うように抱きしめた。


「俺がお前を嫌うわけねぇだろ。

 我が儘なんか、いくらでも言ってくれ。その方が嬉しい」

「マサ……」


 それから、2人は互いに抱擁したまま熱い眼差しで見つめ合い、心のまま深く口付けを交わした。

 途中、我慢の出来なくなったマサがアミを抱き上げて寝室に消える。


 だが、マサは知らなかった。

 彼女の心の奥底にある酷く冷静な部分が『これで彼に大きな釘を刺す事ができた』とほくそ笑んでいた事を……。



~~~~~~~~~~



 数日後、アミは自警団が講習を受けている広場へと足を向けた。

 女性団員は全員同じ日に参加しているらしいとのことで、彼女らの動向の観察と必要があれば牽制するために、アミは差し入れ片手に乗り込んで来たのだった。


 最初に、少し遠くから広場を眺めていて気が付く。

 大なり小なりマサに恋情を抱く年若い娘が少なくとも3人はいるようだ、と。

 顔はともかく、強さと優しさを兼ね備えたマサは自警団に入る様な気の強い女性にはかなり魅力的に映るらしい。

 その他の女性陣も、思慕の念を抱くほどでは無いにしろ、彼を嫌っている風には見受けられなかった。


 だが、実に不愉快。

 マサの顔を直視もできない小娘風情が……と彼女は人知れず嫉妬心を滾らせた。


 アミは己が平凡な容姿であることを悲しいかな理解している。

 ということはつまり、短慮な女が若さと容姿を武器に本気で妻や妾の座を狙ってこないとも限らない。

 マサが自分を裏切るなどとは欠片も思わないが、うっかり罠に嵌められてしまう事もあるだろう。

 女は時に目的のためなら手段を選ばないものだ。

 彼を取られること自体もそうだが、何より彼の評判が落ちるような真似をされるかもしれないことがアミには恐ろしかった。

 あの顔と真逆の性格を持つマサを人々に理解してもらうために、アミがどれだけ心を砕いてきたか、その苦労を彼女たちが知るはずもない。


 どこからか偵察されて『これなら勝てる』と勝手に判断されるよりは、初手から2人の仲睦まじさを見せつけて他人の入る隙が無い事を理解させてやろうとアミは考えていた。

 障害があるほど燃えるようなタイプの人間には逆効果になる可能性が高いもろ刃の剣だが、少なくとも絶対数は減らせる手段である。

 ついでに、敵意を隠そうともせず思い切りアミを睨みつけてくるような娘がいないかチェックする目的もあった。

 それが出来るという事は、正しいのは己の恋心で、その障害となるアミを悪だと認識しているという事だ。

 そして、正しいからには猪突猛進。

 相手の都合を視野に入れることもせず、また、己の行動の結果を予測することもしない。

 そんなハタ迷惑なタイプの女に他ならない。


 いかに自分の評価を落とさずに、多様な女たちを排除するか。

 アミは全力で思考を巡らせていた。


 それから数週間。

 やたらとマサに構っていたはずの特定の女たちが、1人、また1人と離れていき、ついに誰も彼の傍に近寄らなくなってしまったという。

 誰かが理由を尋ねてみても、彼女らは顔を青くして首を横に振るばかり……。


 げに恐ろしきは女の嫉妬。

 一見するとマサより淡泊そうに見えるアミも、奥底では狂愛と呼べるほどの強い執着心を抱いていたという、ほんのちょっぴり怖いお話。





◇マニュアルなんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ。



 授乳後、ゲップを済ませ眠りについたシャロンをベビーベッドに降ろす。

 瞬間、アミはハッと何かに気が付いたような仕草を見せた後、マサのいる方へと顔を向けた。


「ねぇ。何か2カ月も経って、ものすごく今さら感あるんだけど……聞いていいかな」

「どうした?」

「本当に今さらなんだけど……。

 育児中シャロンがいきなり竜になっちゃって、私がペシャンコに潰されたりとかって無いの?」

「あぁ。それなら、大丈夫だ。

 あまりに小さいうちは、逆に竜形態をとると身体の負担になるからな。

 だいたい、2歳か3歳くらいまではずっと人形態のはずだ。

 そっから1年くらいは特に不安定な時期が続いて、自分の意志で完全に制御できるようになるのが……えーと、早くて6~8歳、遅くても12歳くらいまでには何とかってトコだな」

「そっか。

 じゃあ、少なくとも2年以内にシャロンが竜になっても大丈夫そうな、人気ひとけの無い場所を探さないとね」

「あー……そういう問題もあったか。

 そうだな、とにかく人がいない場所で……なおかつキレイな水場がある……」

「まぁ、具体的な事は今すぐじゃなくてもいいから、おいおい考えていきましょう。

 私も……今はあんまり頭が働かないし……」

「だな。アミ、疲れてんだろ。

 後の事はやっとくから、とりあえず寝てろ」

「んー……いつも、ごめんね。そう……する」


 そう言って、ベッドに横になるとアミはすぐに寝息を立て始めた。

 マサは少しの間その寝顔を見つめ、数回頭を撫でてからため息をひとつこぼし部屋を後にする。

 家事はもちろんの事、生れる以前から着々と仕込まれた彼女の教育のおかげもあり、子供の排泄処理や入浴、ぐずりをあやすといった行為について、ここ最近はほとんどマサが1人でこなしていた。


 お互い仕事を入れず育児にかかりっきりなため、一般のそれよりも楽ではあるはずなのだが、1~3時間おきに授乳によって強制的に起こされるアミは現状かなり疲弊している。

 アミから『もう少しで授乳や睡眠時間も定まってきて多少は余裕ができるはず』と言われてはいるが、それでも目の下にクマを作って辛そうにしている姿を見るたびにマサは見当違いにも代わってやれない己の不甲斐なさを嘆いてしまうのだった。



~~~~~~~~~~



 それから数カ月。

 眠っている我が子を眺めながら、時折『何時間見てても飽きねぇ』『世界一可愛いんじゃねぇか』などと親バカ全開の台詞を口にするマサ。

 実際にもう3時間近く眺め続けているというのだから、アミも呆れるしかなかった。

 敢えて彼の言葉を否定はしないが、現実主義なアミはこっそり『ベタ褒めするマサのせいでシャロンが勘違い女に育たないように気をつけないと』と酷い事を考えていた。


「ふ……ん……」


 そこでふと、シャロンが目覚め、ゆっくりとその小さな瞼を押し広げる。

 特に泣き出すわけでもなく、自分を見下ろすマサを視界に入れたシャロンはフラフラと両手を伸ばした。


「あー。ぱーあー」

「っ!? あっ、アミっ。聞いたか、今……今のっ」


 ガバッと顔を上げたマサは、小刻みに震えながら目を大きく見開いた状態でアミを凝視する。


「そうね。パパって呼んでたと思うよ?

 おめでとう」

「だっ、だよなっ、だよなぁ!」


 すでにシャロンから何度もママと呼ばれているアミは、興奮するマサに苦笑い気味の笑顔を向けた。

 アミの言葉にガクガクと頷いて、マサは再び娘へと視線を戻す。


「シャロンっ。もう一回、もう一回言ってみてくれ!」

「ぱぁー」

「おぉぉ! 偉いっ、偉いぞシャロンー!」


 この数秒後、我を忘れたマサが勢いよくシャロンを持ち上げて大泣きされ、アミにしこたま怒られることになるとは、今の浮かれきった彼には知る由も無かった。



~~~~~~~~~~



 長く話し合った末、魔の森に身を寄せた3人。

 2歳近くなってからはシャロンがいつ竜形態になってもいいように、常にマサが傍に控えているようになったのだが、ここ最近になって少し問題が起こっていた。


「パパ、やー!

 ママ! ママ、いーの!」

「いや、アミはメシの支度中で……」

「やぁー! ママっ! ママぁー!!」


 なぜかシャロンがマサに面倒を見られる事を嫌がり、頑なにアミを呼ぶようになったのだ。

 どうしたものかと途方に暮れていると、泣き声を聞きつけて当のアミが姿を現した。


「はいはい、サッちゃん。ママですよ。

 どうしたのー?」

「ママぁー!」


 アミが現れた途端、それまでの癇癪が嘘のように満面の笑顔でヨタヨタと抱っこをせがみに行くシャロン。

 それを見たマサは、両手を床について深くうちひしがれた。


「しゃ、シャロン、俺の何がダメだと言うんだ……俺の……」

「もう、ソコ。本気で落ち込まない。小さい子の言う事でしょう。

 放っておけば、またすぐ気が変わるって」

「うぅ……」

「でさ。悪いんだけど、料理自体は出来上がってるから、あと盛り付けお願いできる?

 私、このままシャロンの手を洗わせて、テーブルにつかせておくから」

「……あぁ」

「じゃあ、よろしくね。

 さぁ、サッちゃん。おてて、キレイキレイしよっかー」

「てー、きえーきえー!」


 楽しそうに扉の向こうに消えていく妻と娘を見送った後、フラフラと立ち上がり1人台所へ向かう夫。

 これ以上ないほど幸せなはずなのに、どうしてか涙が出そうになってしまうマサだった。



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