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幸せの赤い竜  作者: さや@異種カプ推進党
リクエスト番外編
32/42

ドキッ☆セリフだらけの番外編集~ポロリは無しよ~

番外編その1目次

1.ロマンチストは報われない(プロポーズ的なアレ)

2.お前は…誰だ…(結婚式直前の2人)

3.看板に偽りなし(新婚ノロケ話)

4.出産・子育て編はまたの機会に(妊娠中の話)

5.アレ、なんか男女逆じゃねっていう(みんな大好き!朝チュンチュン!)




◇ロマンチストは報われない



 朝食後に熱いお茶を飲みながら、軽く今日の予定などを2人で話し合っていた時の事。


「ねぇ、マサ。ちょっと前から思ってたんだけど……。

 私達そろそろ結婚しない?」

「ゴホッ!

 おまっゲホッゲホッアミっ……いきなり何カハッ……」


 あまりにあっさりと口にされた言葉に、マサは飲み掛けの茶を噴き出すと同時に気管に詰まらせた。


「大丈夫? そんなに咽ちゃうようなこと言った?

 ほら、先日ようやく旅に掛かった費用を全額マサに返済できたでしょ。

 私としては、それでちょっとしたケジメがついたというか。

 で、まぁ。仕事も結構順調だし、そろそろいいかなって……マサはまだイヤだった?」


 そんな彼の反応に、アミは目をぱちくりと瞬かせながら、発言の意図を説明する。


「コホッ、あー、こっちはいつでも……じゃなくて、アミ。

 何つーか、そういう事は俺からちゃんと言いたかったんだが……」


 その言葉で察するものがあったらしい彼女は、眉を八の字に下げて囁くように言った。


「えーっと。もしかして、マサはシチュエーションにこだわりたいタイプ……だったり?

 ご、ごめんね。アレなら無かった事にして、もう1度やり直してくれてもいいけど」

「いや……もう……いい」


 申し訳なさそうなアミの態度もあって、マサは分かりやすく肩を落としつつも、彼女の提案を受け入れる。


「…………続けてくれ」

「あー。えっと……なんか、本当に、ごめん。

 まぁ、じゃあ早速具体的な話をしましょうか。

 こっちの世界では戸籍とかってそこまで細かく管理されてないみたいだけど、婚姻に関しての定義ってどうなってるのかな。むこうでは婚姻届っていうのを提出すれば結婚が成立するんだけど、この世界ではどうしてる? そういえば、マサのグリンストンって日本みたいに名字ってワケじゃないんだよね? だったら、名前が変わったりはしないのかな? 法律ではどうなってる? 夫婦になることで課せられる義務はある? 式とか挙げる習慣は? あるとしたら場所は? 作法は? 費用は? 招く人は? 日付とかも決めないとだよね? 予約とか準備ってどのくらい前からするものなのかな」

「お、おいっ。おい。とりあえず、待て。落ち着け。

 そんな一気に言われても分かんねぇよ」

「あ、ごめんね。じゃあ順番に行こうか。えーっと、まずはー……」


 アミは夢も希望もないどこまでもリアリストな人だった、というお話。





◇お前は…誰だ…



 結婚式当日のこと。


「アミ、そろそろ時間だぞ。

 準備はどう……っと、すまねぇ。人違いだ」


 扉を開けて室内に足を踏み入れようとしたマサだったが、中にいる人物を目にした瞬間、慌てて踵を返すべく身体を反転させた。

 が、そこへ、背後から待ったの声が掛けられる。


「やだっ。何言ってるの、マサ。

 こんなちょっとの間に自分の花嫁の顔も忘れちゃったの?」

「……は? って、その声……まさか、アミ!?」


 驚愕に思わず指をさしてしまうマサ。

 そんな彼の様子に、アミは至極愉快そうに笑みを浮かべた。


「そうよぉ? ふふ、お化粧ひとつで結構雰囲気変わるでしょう?」

「雰囲気ってか、別人じゃねぇか!」

「あっははは。私の場合、元が平凡顔だからすっごく化粧映えするのよねぇ、コレが。

 ね、ね。どう? これなら年相応に見える? キレイ?」


 この町の結婚式では、花嫁は薄緑のワンピースを着て自ら編んだ花輪を頭に乗せるのが一般的だ。

 だが、本人の希望でアミは今ドレス仕立ての白いワンピースを着ている。

 裾を軽く持ち上げながら微笑み小首を傾げる彼女を見て、マサは眩しそうに目を細めた。


「……あぁ。なんつーか、美人すぎて隣に立つのが申し訳ねぇな」

「えー、もう。何、言ってるの。やぁねぇ」

「……なぁ、アミ」

「なぁに?」


 小さく首を傾げるアミへ、マサは佇まいを正して緊張の面持ちで問いかける。


「今さら聞くのもどうかと思うが…………本当に、俺なんかが相手で良かったのか?」


 瞬間、アミは眉間に皺を寄せ不快を露わにした。


「ばか。俺なんか、なんて言わないでよ……マサじゃなきゃ、ダメなの」

「そ、そうか。そりゃ、えーと、良かった。うん」


 囁かれた言葉に、マサは凶悪な顔面を朱に染める。

 それは、さながら怒れる地獄の極悪鬼のようであった。


「ねぇ、マサ」

「おっ、おうっ。何だ?」

「私たち……一緒に、幸せになろうね」

「…………そうだな」


 小さく頷きあって、マサとアミはお互いの腕を絡ませた。

 しっかりとした足取りで、2人は式の行われる町の広場へ向かう。

 外には、彼らの未来を示唆するような、どこまでもどこまでも清涼な青空が広がっていた。





◇看板に偽り無し



「恐妻家の会? 別にアミは恐妻でも何でもねぇんだが……」


 畑仕事に精を出した帰り道、唐突に呼び止められたかと思えば、そんな誘いを受けていた。


「そんなにお固いアレじゃないって。

 普段は言えないような、ちょっとした愚痴を言い合おうってだけの会さ。

 最近はメンバーが決まっちまってて、つまらないんだよ。

 とりあえず試しに1回だけ参加してみようぜ、な? な?」

「……あー、まぁ。1回ぐれぇなら」

「よぉし! 決まりだ!」


 断りきれず、そのまま隣人に連れられて、マサは会場である町外れの一軒家へと足を運んだ。

 そこには、確かに説明を受けた通り、己の妻への愚痴を肴に酒盛りをする男たちの姿があった。

 すでにかなりできあがっているようで、その様子にマサは小さくため息を吐きつつ、適当な場所へと腰を下ろす。


「毎日毎日、食っちゃ寝、食っちゃ寝、ブクブク太りやがって!

 俺が嫁にしたのは豚じゃねぇぞぉー!」

「そうだそうだー! 女扱いして欲しかったら、もっとそれらしく振る舞えー!」


 人の好いマサとしては、あまり居心地の良い空間ではなかったが、誘われた手前すぐに帰ってしまうのも戸惑われ、少しだけ付き合うかと憂鬱なため息を溢す。


「稼ぎが悪いのうだつが上がらねぇのと罵る前に、たまには自分で稼いできてみろってんだ!」

「おぉー! 分かるぜ、その気持ちー!

 こっちの苦労も知らないで、イイ気なもんだよなぁ!」

「言葉より先に暴力で訴えるのは止めてくれぇーっ!

 年々威力が鋭くなってって、このままじゃ絶対いつか死ぬぅー!」

「切実だな! 頑張れ! 生きろ!」

「よし! 新入り、お前も何か言え!」

「えっ。いや、俺は……」


 と、そこで突然、ひときわ派手に煽りを入れていた大工の棟梁から肩を叩かれ、困惑するマサ。


「何でもいいんだよ!

 新婚とは言え、愚痴の1つや2つあるだろ!

 ほら! 早く!」


 促され、マサは仕方なく最愛の妻との日々を反芻した。


「あー、アミへの愚痴……か。

 そうだな……もっと、俺を頼って欲しい……とか、か?」

「どこが愚痴か分からん! 詳しく!」

「えーと、せっかく結婚したってのに、俺の稼ぎなんかてんでアテにもしねぇで生活費は完全折半……。

 それならそれでプレゼントの1つでもと思って聞けば、自分で買うから必要ねぇと断られるし。

 家事だって、これも妻としての勤めだとか何とか言って、俺にはろくに手伝わせてもくれねぇ。

 いいじゃねぇか、俺が何かしてやりてぇってんだから素直に甘えてくれりゃあよぉ。

 それを言やぁ、俺がいるだけで充分幸せだから他に何もいらねぇんだとかっつって、笑いやがって。

 そんな風に返されたら、それ以上なんにも言えねぇだろうが!

 アミのバカヤロー!」


 吐き出す内にヒートアップしてきたらしいマサ。

 しかし、その内容が他の参加者たちにはお気に召さなかったようで、彼は口々に扱き下ろされてしまった。


「なんだオイ! 結局ノロケじゃねぇか、コンチクショウ羨ましい!」

「どんだけ出来た嫁なんだよ! 新入りコノ野郎!」

「カァッ! これだから、新婚はいけねぇや!

 酒の肴にもなりゃしねぇ! 次、次!」

「よし! 俺に任せろ!

 いい加減、毎月の小遣い上げてくれぇー!

 俺がいない間に自分ばっかり美味いもん喰ってるの知ってんだぞ、コノヤロー!」

「いいぞー! もっと言えー!!」


 空気の読めない新婚野郎に水を差された恐妻家の会のメンバーだったが、すぐに次の愚痴が垂れ流されると、再びの盛り上がりを見せた。

 が、そこで予想外の人物の声が会場に響く。


「あぁら。随分と楽しそうだねぇ、あ・ん・た?」

「ぎゃあっ! カカァ!? んなっ、なんでここに!?」

「いやさ?

 旦那の帰りがちょいと遅いってんで心配になって探してみりゃあ、こぉんな町外れの家の中からそれはそれは面白そうな話が聞こえてくるじゃないか。

 だから、妻にもその楽しみをちょいと分けてもらおうと思ってねぇ。

 だろ? みんな!」


 その言葉を皮切りにそれぞれの連れ合いが次々と姿を現し、そこかしこで悲鳴が上がる。

 唖然とその様子を見ていたマサの背後にも、当然のごとく忍び寄る影があった。


「恐妻家の会……ねぇ」

「っアミ!?」

「マサって、私をそんな風に見てたんだ。ふぅーん。

 ……まぁ、別にいいけど? 思う分には勝手だし?」

「いやっ、そのっ、違う!

 誘われて断れなかっただけで、俺はそんなこと全然思ってな……っ!」

「だから、別にいいって言ってるじゃない。

 それじゃ、私は先に帰らせていただきますから。

 どうぞ、ごゆっくり楽しんでいらして旦那様?」

「ちょっ、まっ! アミッ!」


 呼びかけを無視してその場を素早く後にするアミの背に、思わず伸ばした手を固まらせたまま呆然と見送るマサ。

 愛する妻たちによる強襲を受けて以降、恐妻家の会が開かれることは二度と無かったという……。





◇出産・子育て編はまたの機会に



「あ、そうそう。最近ちょっと体調が悪いって言ってたでしょ?

 あれねー。妊娠してたせいだったみたい。

 先日、お医者様に診て貰ったらそうだって」

「……………………は?」

「だ・か・ら。赤ちゃん、できたって」

「誰のだ?」

「ちょっ、バカ言わないでよ!

 マサとの子に決まってるでしょうがっ!」

「あだだだだっ! ヒゲを引っ張るな!」

「自業自得!

 何、私が浮気するような女だとでも思ってたの?」

「違うっ。スマンっ。ちょっと、混乱しちまっただけだ。

 いや……というかアミ……産む気か?」

「当たり前でしょ?

 …………どうしたの、いきなりそんな真剣な顔して」

「悪いが……俺は、反対だ」

「っ……なんで!」

「アミ。お前は知ってるだろう。俺の母親がどうして死んだのか……」

「……それは」

「俺は……お前にテメェの母親の二の舞になって欲しくない」

「でも、死ぬとは限らないじゃない。

 そんな可能性の話で子供を諦めるなんて私はイヤ」

「俺はお前を失う可能性なんて考えたくも無ぇ」

「じゃあ考えなければいいでしょう。

 今のところ、マサの話で聞いたみたいに生命力を奪われるような感覚は無いし。

 私は貴方のお母様みたいに竜人族の里にしばられているわけでもないんだから、優秀な医師のいる都に移ればそう心配することも無いと思うけど?」

「だが……」

「ねぇ。本当に大丈夫だから、心配しないで。この子のこと素直に喜んであげてよ。

 私、マサに家族がいる幸せを教えてあげたいの。それができるのは、世界中探したって私だけでしょう?

 お願い。産ませて……」

「アミ………………分かった。スマン」


 完全に納得はいっていないのか、苦渋に満ちた顔で小さく頷くマサ。

 彼の態度に少なからず不安を覚えるアミだったが、それはすぐに払拭されることになる。


「アミ、何やってる!」

「何って…………掃除だけど」

「そんなに動き回って、腹に障ったらどうする!

 家事は俺が全部やるって言っただろうが!

 何でじっとしてねぇんだ!

 それで、万が一転んだりなんかした日にゃ目も当てられねぇ!

 俺がやるから座ってろ! いや、いっそ寝てろ!

 いいな!?」

「いいわけないでしょ!

 そんな過保護じゃ、産まれるものも産まれないわよ!

 今までつわりが酷くて仕方なく代わってもらってたけど、もう安定期に入ってるんだし、むしろある程度の運動は推奨されるものだからね!?

 子供が大事なのは私だって同じなんだから、知識のないマサは黙ってて!」

「ぐっ……」


 その後、言い負かされて口こそ出さなくなったが、今度は無言で彼女の後をつけまわすというストーカーのごとき行動を取るようになったマサだった。

 当然、それも禁止された。





◇アレ、なんか男女逆じゃねっていう



 窓から柔らかな太陽の光が差し込んで、ベッドの上で微睡む存在が2つ、ゆるやかにその意識を取り戻す。


「んー……ふぁ……あ、おはよう。マサ」

「あ、あぁ」

「ん? どうしたの?」

「いや、その……昨日の……あの……夢、じゃ、なかったんだよ……な?」

「じゃなきゃ、この状況の説明がつかないと思うんだけど」

「わあっ! アミ起きるな!

 シーツがはだけてっ……!」

「えっ。昨日さんざ見といてまだそんな反応!?

 ……起きないと服が着られないじゃない」

「う……まぁ、そうなんだが……」

「もー、真っ赤になっちゃって。マサ、可愛い」

「かわっ……その言いようは止めてくれ、全っ然嬉しくねぇ。

 というか、何でアミはそんな平然としてんだ」

「平然っていうか。そうね……。

 恥ずかしいより嬉しいの方が勝ってるから、かな」

「へ?」


 朗らかな空気から一転して、アミは視線を落とし静かに語り出した。


「……私ね。

 実はもう随分前から、マサが私のこと女として見てくれてるんだなって、気が付いていたの。

 でもね。マサが決心してくれるまで、私と一緒になってくれる覚悟ができるまで、待とうって思って、我慢してた。

 まぁ。結局、逃げ出されそうになって、つい実力行使に出ちゃったけど……。

 それでも、ずっとマサとこうなりたかったから……だから、ようやく願いがかなって嬉しいの。

 ごめん。ごめんね。こんな、自分勝手な女で」

「アミ…………いや、俺もすまなかった。

 いつまでも嫌われるのが怖ぇだなんだと手前勝手な臆病風に吹かれて、お前を追いつめてた事に気付けなかった」


 その言葉を受けて、アミはマサの顔を見つめながら小さく笑んだ。


「そんなこと、いいの。謝らないで。

 あの……ね。昨夜もさんざん言ったけど……好きよ。マサ」

「…………あぁ。

 あぁ、俺もだ。アミ、愛してる」

「うん、私も。愛してる」

「アミ……アミ……」


 ひどく切なげな表情で、マサはアミの名を呼びつつ頬に手を伸ばす。

 その手に自らの手を添えたアミは、視線をマサの顔に戻すと静かに目を見開いた。


「…………マサ、泣いてるの?」

「え……うわっ、なん……っだ、コレ……なんで……っ」


 慌てた様子で乱暴に腕で顔を擦るマサ。

 アミはその腕をそっと掴んで下ろさせる。


「落ち着いて……大丈夫。マサ、大丈夫だよ。

 悲しい涙じゃないんでしょう?

 だったら、大丈夫」


 そう言って、アミはマサの濡れた瞼に、頬に、優しく口づけて涙を拭っていく。

 それから、そっと彼の大きな頭を胸の内にかき抱き、そのままゆるやかに髪を撫でた。

 しばらくして、冷静さを取り戻し、恥ずかしさから小さく呻き身じろぎするマサ。

 アミはそんな彼から身体を放してコツリと互いの額を合わせイタズラに笑う。


「ふふ。ねぇ、マサ?

 こうなった以上、私、絶対に貴方を逃がす気はないから。

 たとえ逃げても、地の果てまで追って行くから。

 だから…………覚悟、してよね?」

「はっ、お前って奴はホントに……。

 むしろ、そりゃ俺の台詞…………いや、望むところだ。

 俺を逃がさないように、常に傍で見張っててくれ。アミ」

「うん。頑張るよ。マサと、ずっと一緒にいられるように……」


 クスクスと小さく笑い合って、そのまま2人はどちらからともなく静かに唇を寄せた。

 彼らの魂に深く刻まれていたはずの孤独という名の傷跡は、もうどこにもない。 



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