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二周目領主はもうだまされない!  作者: 雨傘ヒョウゴ


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7 正気なのかとショタに聞かれる



「そろそろファリス村に着くわねー!」


 るんるんで馬車の窓から顔を出し、気持ちよく吹く風に弄ばれる髪を片手で押さえる私に対して、馬車の中は重たい空気が流れていた。

 青年が一人と、少年が一人。二人とも腕を組み、ぴくりとも動かず、互いに視線すらも合わさないで、無言で座っている。


 振り返って、その様を確認し、妙なおかしさを感じて吹き出すと、少年――ルーとぱっちりと目が合った。わずかな間、私とルーは見つめ合ったが、彼は子供らしくない冷たい目をしたまま、ふい、とそっぽを向いた。

 窓枠に手を掴みながら、はは、と私はさらに苦笑を深める。

 我ながら大胆な提案をしたものだ、と思う。けれど受け入れてくれたのだから問題ないということだ。エヴァンはいまだに、納得のいかない顔をしていたけれど。


 ――あなた、今から私の子供にならない?


 この提案は、もちろん意味があってのことだ。

 なんせ私は()()()()()()()()()()()()()()()。一周目の際には結婚詐欺にころっと騙され、お金を盗み取られた恨みは相当根深い。金髪サラサラヘアーの、今となっては名前すら思い出したくないあの男。百年の恋も、騙されたとなれば恨みに変わるのは一瞬である。


 むしろ当時としても、恋をしていたというより、誰かに支えてもらいたかっただけなのかもしれない。実際は独身であるため、相手もいないのに既婚を主張することは難しくとも、未亡人であり、子供のためにもう誰も付き合う気がないというアピールはできる。

 一周目に起きた結婚詐欺男が来るのは、まだ先のことだ。

 来たとしても私が相手にしなければいい話なのだが、もはやどんな男性であってもそういった関係になるのはご免なのである。


 名付けて子供バリアーなんてどうだろう。ちょっと、いや少し性格が悪すぎる気がするが、これくらいさらっと提案できねば、騙す側として生きていくなんて到底できまい。

 騙すための第一歩として、自分自身を偽る。これ基本なり。


 私の子供にならないかと提案した私に対して、『はあ?』と、ルーは目をしばたたいた。あら、可愛らしい顔もするのね、と思った瞬間、見かけに似つかわしくない顰め面になる。


『……正気なのか?』

『正気も正気よ! 義理の、という意味じゃなくて、私が産んだ子供のふりをしてくれない? 事情があって、協力してくれる人を探しているの。報酬だってあげるわよ。一応これでも私、領主なの。食べるものの苦労はさせないわ』

『母親って……いくつのときの子供だと言うつもりなんだ?』


 おっと、そこまで考えていなかった。


『ルー、あなたは何歳なの?』

『……六つ?』


 謎に疑問形なことが気になったが、なるほど六つか。五つか六つと思った私の観察眼は中々のものだったらしい。私は現在十五歳。そのままの年齢だと、さすがに無理がありすぎる。

 目をつむって考えた後で、ぴん、と人差し指を耐えた。


『よし。私は今日から二十五歳ということにしましょう。ルーの年齢を変えたら違和感があるけれど、私なら大丈夫でしょ』

『は、ハァ!?』


 ちなみにこの『ハァ!?』とはルーではなく、エヴァンの声である。

 あまりのことに声すら失っていたようだが、やっと思考が巡り始めたらしい。


『先程から、何をおっしゃっているのですか! 王族であるあなたが自身の身分を偽るなど、むちゃくちゃなことを……』

『王族? お前が?』

『そう。実は私、王族なのよ。ごめんなさい、名乗っていなかったわよね。私はリッカ・エスターチェ。この国の末王女……本当に一応だけど』


 簡単すぎるほどの自己紹介をルーにした後に、今度はエヴァンに向き合う。


『残念ながら、身分を偽ることは簡単なのよ。今から向かうファリス村ではね』


 なんせ私は、()()()()()()()()()()()()。今から起こることを知っているのだ。

 ファリス村、という言葉が出た途端、つまらなそうにしていたルーがぴくりと反応したのを目の端で捉えたが、今は他に話すべきことがあったから、それほど気にはならなかった。


『いい? エヴァン。領地に着いたら、誰に何を言われようとも、決して言い返してはいけないわ。これ以外、私はあなたに何も命令しない。だから、これだけは守ることを約束して』

『一体何を……』

『誓ってちょうだい。仮にも騎士でしょう。私はあなたの主よ』


 実際には、エヴァンは父王だか他の王族からかは知らないが、私の監視のために付いてきているだけだ。主は別に存在するのだろうけれど、表向きは違うので言い返すことができないらしい。

 エヴァンは大きな体をぐっ、と抑えるように息を呑み込み、口を閉じた。このこともエヴァンに伝える必要があったから、よし、心の中でガッツポーズを作る。


『……行き先は、ファリス村なんだな?』


 エヴァンと無言で睨み合っていると、腕を組んだルーがぽつりと呟くように確認する。


『そうよ。今から私はファリス村周辺の領主として、村を訪れるの。視察じゃないわ。数年は滞在しないといけない』

『……好きにすればいい』


 つまり、了承と判断してもいいってことね?

 私は思わず破顔して、『それじゃあこれからよろしくね、ルー!』と片手を差し出したが、ぷいと無視されてしまった。


 まったく、子供らしくない少年である。


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