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二周目領主はもうだまされない!  作者: 雨傘ヒョウゴ


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6 我、名案得たり……いや迷案?


「リッカ様! 何をしていらっしゃるのですか!」


 エヴァンの声に私はびくりと肩を震わせる。唐突に、周囲から音が戻ってくるような感覚。

 そうだった、ここは道の真ん中だった!

 いきなり飛び出して少年を抱きしめるという奇妙な行動を起こした私を、人々は遠巻きに様子を窺っていた。少年どころか、私が馬車に轢かれる可能性があったと思うとぞっとする。そこまで気が回っていなかった。

 腕の中にいる少年は、すっかり力を失って、くたりとしている。


(ど、どうしよう……)


 こんな小さな男の子が隣国の第一王子なわけがないけれど、金の瞳はセレスニア王家特有の瞳のはず。

 関わり合いになるのは絶対にやめた方がいい。一周目のときと同じく、どこかの病院に預けた方が……と、ぐるぐると混乱して、もう一度少年の顔を見てしまう。

 すると最初に目にしたときには金色だったはずの瞳はくすんだ別の色合いになっていて、金というよりも茶色に近い。もしかして、光の加減で見間違えたのだろうか?


(そもそも一周目に会ったときだって、瞳の色は金じゃなかったわ……)


 自分の馬鹿さ加減に気づいて、同時にほっと息をついた。少年はぼんやりと私を見上げて、またすぐに目を閉じて、意識を失ってしまった。


「あ……っ!」

「リッカ様!」

「ひゃあ! あ、あの、えっと……」


 たまりかねたという様子で、エヴァンが再度私の名を呼んだので慌てて振り返った。

 エヴァンが言いたいことはとてもわかる。でも、私の腕の中には少年が眠りこけてしまっている。困ったようにエヴァンを振り仰ぐと、彼は即座に状況を察知したらしい。

 逡巡する素振りをしたのは一瞬だけ。エヴァンは私からさっと少年を取り上げ、軽々と持ち上げた。


「まずは、この場から移動します。いいですね?」


 有無を言わさぬ迫力とは、まさにこのことだろう。私はこくこくこく、と勢いよく何度も頷いてしまった。一応形式的には、こっちが主のはずなのに。





「……どうなさるおつもりですか。その少年は孤児院か、もしくは治療院に送り届けては?」

「たしかに、それが一番いいと思うけど……」


 私の膝の上でこんこんと眠り続ける少年を、エヴァンは厳しい目で見下ろす。

 いつまでも馬車を止めているわけにはいかなかったので、馬車は元通りに動き出している。馬車の中でエヴァンと向き合って座ったまま曖昧な返答をすると、いつも通りの冷たい視線を送られた。


 ――エヴァンは、城で出会ったときには自分のことを『下賤の者』と評したけれど、実際彼は名のある名家の貴族である。

 エヴァンは典型的な貴族的な思考を持つ男、といえばいいのだろうか。中でも彼は思考が凝り固まった、ドがつくほどに真面目な男だ。だからこそ仮にも王族である私が、あんな街中でへたり込んでいたことが許せないのだろう。とにかく、少年とともに馬車に避難したというわけだ。


 前回――一周目のときは、私はエヴァンが言うように、少年を治療院に連れていった。馬車で轢きそうになったお詫びでもあった。けれど、こうしてじっくりと少年を見ると、薄汚れて布切れのようなサイズの合わない服を着ているが、どこか怪我をしているわけではないようだ。

 年は五つか、六つくらいだろうか? 一人ふらふらと道を歩いていたし、孤児なのかもしれない。しかし、その割には手足は子供らしくふっくらとして、健康面では問題がなさそうに思える。眠る少年の黒髪を、さらさらと指でくしけずり考えた。


 治療院に行くのなら、そろそろ御者に行き先の変更を伝えなければいけないけれど……。


 もしかしたら、この子は私の窮地を救う人間になりえるかもしれない。

 少しだけ、いいことを思いついたのだ。

 ぬふふふふ、と悪い笑みをすると、エヴァンは気味が悪いものを見たかのように、ちょっとだけ背筋を伸ばして椅子に座り直し、私から距離を置く。

 私はちら、とエヴァンに視線を送った。


「ねえエヴァン。これから私がすることに、口出しするのはやめてちょうだいね。色々と深い理由があってのことなの」

「は?」

「とはいっても、まずは本人の意思を確認しなければいけないけどね」

「はあ……?」




 馬車の中で、少年が目を覚ましてすぐのことだ。

 たっぷりと睡眠を取ったからかすっかり回復した少年に対して、体に辛いところはないか、必要なものがないかを確認した後、私はある一つの提案をした。


「ねえ、あなた。名前はなんて言うの?」

「……ルー」

「ルーね。あの街に住んでいるの? あなたの親はどこにいるの?」

「……なんでお前に、そんなことを言わなければいけないんだ」

「たしかにその通りね。でもこれって、すっごく重要なことなのよ。あなたに両親がいるのなら、できないお願いをしようと思って」

「何が言いたい?」


 ルーは薄茶色の瞳を訝しげに細めて、私を見上げた。

 それはどこか迫力がある雰囲気だったが、所詮は子供だ。むしろ可愛らしさを感じてしまった。にこっと私は笑って、ルーに視線を合わせ、提案した。


「あなた、今から私の子供にならない?」

「…………はあ?」


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