9
僕には彼女からの冷たい目線が水の中にいる様に苦しかった。
「あ、ゴメン!今すぐ出てくから…」
それでも、気がついてからこんなに話せたのは彼女だけだった、何かもう一言思った事を話したかった。
「…でも不思議だねこんな街で育ったのに、君は親切で僕と違って…何処か品がある」
彼女は何も答えなかった。
「…」
それはそうだろう、いきなり押しかけてきた他人さらには記憶が無いとか言い出して…普通、恐怖か不快感しか持たない。
それでも彼女はわかる事を教えてくれた上に一晩休ませてくれた。
…感謝しないと
「じゃ…ありがとう!」
彼女の口から僕の予想とは違う返事が返ってきた。
「…ジーラ…」
僕は世間を知らない為、彼女の口にしたのが何かの言語かと思い間の抜けた声を出してしまった。
「え?」
「わたくしの名前…」
彼女は下を向いたままで僕を見てくれなかったがそれでも名前を教えてもらえて僕は嬉しかった。
そして、自分が名乗れない事が悔しかった。
「ありがとうジーラ!」
「…」
それから彼女に会う事は無かった。
その後はいろんなところで物乞いをしたりゴミを漁ったりしながら飢えを凌いだ。
僕は飢えを凌ぐ中、生きる為にすべき事を考えた。
結論は働く事だった。
だが、身分を示す事はおろか、自身の名前も分からぬ者、それも子供に仕事等あるわけもなく僕は踠いていた。
僕は眼に入る人、全員に仕事を紹介して下さいと言って回った。
だが、誰1人まともに話も聞いてくれなかった。
暫くして、残飯を得られる場所も減り、僕は三日三晩食事を取る事ができ無い日を迎えた。
その日民家の外に有った外付けの錆びついた蛇口より水を盗み飲んだ。
水を飲んだ時に僕に誰かが話しかけた。
「水と言わず金を盗もう…」
それは掠れた男の声だった。
「誰!?」
僕は辺りを見渡した…が誰も居なかった。
続けて、掠れた女の声がした。
「もう、いいじゃんやれば」
コレは僕の幻聴だ…自身を正当化して盗みを働こうとしているんだ…
「…そうだ、お前を野犬から見捨てた料理屋…」
「ハハハ…あの男を殺して金を奪っちゃえば?」
僕は耳を押さえて1人幻聴を否定した。
「やめてよ…僕はそんな事思ってない!」
しかし、一向に幻聴は消えなかった。
「いい考えだ…殺して人目のつかない場所に置けば…」
「フフッ…野犬が証拠を消してくれる」
僕は恐怖から大声をあげた。
「やめてよ!!」
そこへ1人の高圧的な表情の20歳程の男が2人の男を引き連れ近づいて来た。
男は調えられたシワ一つない服で胸元にはサソリの紋章の様な刺繍が有ったが、紋章より何より青ずんだ男の髭の剃り跡が印象的だった。
「ごめんなさい!どうしても喉が乾いて!」
僕はその家の住人と思い込み慌てて謝罪した。




