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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫なので王都の支配者を雑草として間引きします~  作者: 赤木典子


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6.王都に繁る雑草

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 城門を抜け、王都の大通りに足を踏み入れた二人が最初に目にしたのは、以前とは違ってどこか疲れたように、急ぎ足で行き交う人々だった。


「前は何も感じずに歩いてたんですけどね。石畳って結構歩きづらいもんですね」

「すっかり土に慣れちゃったのね」


「なんか、ここの地面は石畳に覆われて息ができないような気がします」


 かつてはもっと賑やかで、活気に溢れた人たちが集う街だった。その頃を思い出しながら、しばらく二人は黙って歩いた。  

 

 途中、広場に差し掛かると人だかりが見える。覗いてみると、よく手入れのされた高そうな、魔力のたっぷりこもった鎧を着た騎士団の兵士が演説をしていた。見たことのない顔だった。



「……その時、ギデオン様がパッと剣を振るい、魔物を一刀両断したのだ!」

「うわあ」

「ギデオン様がいて良かった」

「やっぱりギデオン様は我々の味方だ」

人々が口々に感嘆を漏らす。



「……騙されてるのに」


 クリスティーヌが悔しそうに唇を噛む。彼女の視線の先では、ギデオンの部下と思われる兵士が、主君の手柄を大げさに語っている。



「いいか、市民諸君! この王都を脅かす魔物の群れは、いつも突然現れる。だが我ら騎士団の剣の前には塵も同然。ギデオン様率いる我々がいれば心配などないのだ!」



 後ろの方でそれを聞いていたレイは、憤るクリスティーヌに呆れたように言った。


「ご丁寧に予告をしてから現れる魔物なんて、どこの世界にもいないと思いますが。現れるのが突然なのは、当たり前のことではないでしょうか」


 クリスティーヌは毒気を抜かれたように笑ってしまった。

「確かにそうだわ。それを狙って言ってるんじゃないところがあなたらしいわ。あなたといると、怒るのが馬鹿馬鹿しくなる」


 おそらく、実際は最前線の下級兵士と、彼らが蔑視する魔導士たちが魔物をギリギリで食い止めているに違いない。それをあたかも自分ひとりの功績であるかのように語らせるのはギデオンのいつものやり方だった。


「……畑の耕し方を間違っていますね。自分のためじゃなく、そこに実る作物のために耕さないと」




   *




 かつて、王都の訓練場にギデオンとレイがいた。後に伝説となる「御前試合」のさらに前、二人が王立騎士団の若き期待の星だった頃の話だ。


 訓練場の隅で、ギデオンは一日の多くを素振りに費やしていた。彼は名門の家系に生まれたせいで、騎士の頂点に立つことを一族に期待されていた。


「……998,999,1000!」


剣を振り抜き、荒い息をつくギデオンの視線の先には、上官らと楽しく談笑をするレイがいた。レイはギデオンが朝から日が頂点に来るまでを要する過酷な基礎練を、朝のうちに終えていた。


「レイ。貴様、また手を抜いているのか。剣聖の座を狙うなら、そんな怠惰ではなれないぞ」

汗だくのギデオンが苛立ちを隠さずに声をかけると、レイは困ったように笑った。


「……手を抜いているわけじゃないんですよ、ギデオン。今日の分は終わっちゃっただけです。それに、今日はもう、これ以上地面を叩くのは剣が可哀想だと思って」


「剣が可哀相?」


 その言葉は、ギデオンには理解不能だった。彼にとって剣はただの道具であり、語りあったり、労わる対象ではない。ただの言い訳にしか聞こえなかった。


 その日の午後、二人は模擬戦を行うことになった。ギデオンの剣は正確だった。教科書通りの完璧な踏み込み、無駄のない連撃。対するレイは、脱力したような構えで、その猛攻を紙一重でかわし続けている。傍から見ていると疲れているのはギデオンだけに見える。


「……なぜ逃げる! 私の剣をまともに受けてみたらどうなんだ!」


 ギデオンが渾身の一撃を放つ。それは彼が血の滲む特訓で得た、必殺の一太刀だった。しかし、レイは向かってくるわけでも受けるわけでもなく、ただスッと一歩、横にずれた。次の瞬間、レイの木剣はギデオンの喉元にピタリと突きつけられていた。


「……『神速』ですね。今の突き、お見事でした」


 レイの瞳には、勝った喜びも侮蔑の色もなかった。ギデオンにはそのことも気に入らなかった。




 その夜、ギデオンは一人、月明かりの下で自らの手のひらを見つめていた。あの男は仲間だ。競い合っているとも言える。しかし.......どんなに努力を積み重ねても、あの真面目にやっているのかどうかも定かではない男には、はぐらかされるばかりで届かない。自分が「剣聖」として崇められるためには、あの男がいてはだめだ。


 超える自信がないのなら、いない世界にするしかない。あんな男の一人や二人。いてもいなくてもいいだろう。自分のような名門の出でもない。いなくなれば世間はすぐに忘れる。それよりも、名門に生まれた自分にとって、二番になることは敗北という事実が重要だった。


「……レイ・アカツキ。その『無欲さ』が、いつか貴様を破滅させるだろう。この世界で成功するのは天才ではなく、どう結果を出すかを考え抜いた者なのだ」



    *



「やはり雑草のようですね。迷いがなくなりました」

レイはさっぱりしたような顔をして言った。


ギデオンの部下は、群衆の中に、かつて主君が追い落とした男が紛れ込んでいることなど知らない。


「先を急ぎましょう」


二人はやがて人混みに紛れ、王都の中でも雑多な地区へと向かっていった。入り組んだ路地を次々と曲がっていく間、クリスティーヌが周囲を警戒しながら、現在の宮廷魔導士たちの状況を伝えてくれた。


 ギデオンのそばにはその息のかかった筆頭魔導師、研究者肌のトビーと権力と美貌にしか興味のない次席魔導師のマチルダがいること。彼らが魔力供給網(マナ・ライン)を整備しているのは表向き街の維持のためとなっているが、何か他の意味がありそうなこと。


「あの二人が筆頭と次席に座っている限り、まともな魔導士は息もできないわ。邪魔者は次々と事故に見せかけて消されたり、無実の罪を着せて王都を追い出される。いうことを聞く人しか許されないのよ」


 彼女は忌々しそうに吐き捨てた。かつての自分を陥れた連中への怒りが滲む。彼女もまたその実力が故に彼らに王都を追い出された一人だった。


「でも、殺されなかった。……それは、感謝したいですね。ああ、着いた。ここです」



 どうやら、ここが目的地のようだった。



「雑草」登場。

実はこの魔物、いつ登場するのか、ギデオンたちは本当は知っていました。だって自分たちでコントロールしていたんですから。


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