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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫なので王都の支配者を雑草として間引きします~  作者: 赤木典子


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5.街道の戦闘と白亜の門

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 山間の細道に差し掛かった時だった。突然、空が暗くなる。空気が凍りつき、頭上から巨大な影が音もなく舞い降りてきた。


「あ、あそこよ!」

双頭の翼獅子(グリフォン)!」

「王都の防衛網もこらえきれなくなりつつあるのね。レイ、急がないと」


(しかも……よりによって、今の私が一番苦手な種類の敵だわ。でも、なんとかしないと)

舌打ちしたクリスティーヌが杖を構え、即座に障壁を展開する。


「さすがです、クリスティーヌ。もう障壁を張ったんですか」

「レイ、下がって! 空を飛ぶ相手に、付け焼刃の強化魔法じゃ間に合わな――」


 その言葉を聞いていなかったのか、レイが静かに一歩前へ出た。彼は深く長く呼吸を整える。


「クリスティーヌ。私の背後、二歩のところに『風の足場』を。……一瞬だけでいいので」

「……っ! 正気なの!? それで跳ぶつもり?」


 説得してる暇はない。クリスティーヌは戸惑いながらも、言われた通りに魔法を発動させた。グリフォンが急降下し、鋭い爪がレイの喉元目掛けて飛んでくる。レイの体から魔力が迸るのと、どちらが先か見ていてもわからない。しかも彼は呪文を唱えない。ただ、祈るような気持ちで風の足場を完成させた。


「……行きます」


目にもとまらぬような初速。

レイはクリスティーヌが作った風の足場を蹴り、垂直に跳び上がった。


(グリフォンの急所はどこだ。首の繋ぎ目か!)


 レイは上空で体を捻り、教わったばかりの魔法の一撃を、手のひらを通して叩き込んだ。

視界が真っ白になった。何も見えない。何が起こったかわからないでいるクリスティーヌの前に、グリフォンの巨体が落ちてきた。続いてレイが着地し、ため息をひとつ吐くと、何事もなかったかのように立ち上がった。



「魔力の扱いは上達したでしょうか、クリスティーヌ先生」


「……完璧。完璧すぎて、反吐が出るわ。もう素人とは言えないわね」

呆気に取られて固まっていたクリスティーヌが、ようやく絞り出した言葉はそれだった。


「驚いた。付け焼刃なのに使いこなすの早すぎよ。……でも、助かったわ。ありがとう」

「はは。私はただ、君の教え方が上手かっただけだと思っていますよ」

「……でも魔法をあんな使い方をするなんて思いもよらなかった」


 クリスティーヌは杖を収めると、王都の方角を見上げた。

「ただ……あなたのその、肉体を極めた者にしかできない魔力の使い方は、今の魔導学の常識を確実に覆す。それは間違いない。それを……この国の人たちに証明したいわ。これほどの才能を、魔法使い(わたしたち)の側に追いやったことを、後悔するといいんだわ」


 レイはそんな彼女の想いを知ってか知らずか、「さあ、先を急ぎましょう」と、いつもの穏やかな足取りで歩き始めた。




        *




 王都へと続く巨大な外壁。白亜の門の周りは、魔物の襲撃に備えた物々しい警戒態勢に包まれていた。


「魔導士ですけど」

クリスティーヌが検問の兵士に告げ、通行証を見せようとする。だが兵士はそれを見もせずに事務的な態度で指を差した。

「魔導士殿か。……例の召集に応じて来られたのなら、あちらの列へ」


「......召集をかけられてるのに。魔導士は障壁を張るだけの人だと思われているのね」

クリスティーヌが寂しげに言う。


「障壁を張るだけだって十分ありがたいと思うんですが」

「あなたはそういってくれると思ったわ.......」


有事であっても相変わらず魔導士の扱いは低く、魔導士用の列は剣士の列と比べ、端に追いやられていた。クリスティーヌは悲しそうに眉をひそめたが、レイが彼女の肩に手を置き静かになだめる。

 

 ようやく彼らの番となり、中堅どころの兵士が対応に立つ。

「所属と名を……。……ん?」

兵士の視線が、顔を隠すように深々と帽子を被ったレイの顔に止まった。


「……おい、そこの男。顔を見せろ」

「ま、魔導士仲間よ」


急に声色の変わった兵士に、クリスティーヌが慌てて説明しようとする。だがレイはそれを手で制し、ゆっくりと被り物を外した。


「お役目、ご苦労様です。……私はナギ村で農夫をしていますレイと申します」

日焼けした、33歳の穏やかな笑顔。しかし、兵士の体は目に見えて硬直した。


「固まってしまいましたね。どうしたんでしょう?」

(何落ち着いてるのよ! 分かってないわね、自分の名前にどれほど威力があるか)


(.......吉と出るか、凶と出るか。賭けだわ)



「……た、ただの農夫? ……まさか。……レイ・アカツキ剣士……ではありませんか?」


「そうですが、今はただのレイです。剣士はもう、五年も前に辞めましたよ」


兵士の声が震え始める。


「そんな……! 覚えていますとも! 五年前、あなたが濡れ衣を着せられて王都を去った時、私はまだ新兵でした。あなたは私の目標、憧れでした。あの『神速の踏み込み』を真似して、どれだけの若者が剣を志したか……。生きて……よく生きて戻ってきてくれました。こうしてお会いできるとは。ちょ、ちょっと待ってください」


 クリスティーヌは小さく拳を握った。兵士は踵を返すと、忙しく働いている若い兵士に鋭く指示を出した。

指示をされた若い兵士がいう。

「手荷物検査は省略です」


「……は、はぁ。ありがとうございます」

急によくなった待遇に混乱するクリスティーヌの前に、先ほどの中堅兵士は顔を紅潮させて戻ってきた。


「ここは私が責任を持って通します。安心してください。あと……クリスティーヌ様、レイさん。今の王都は、ギデオンが騎士団の実権を握っています。くれぐれも、お気をつけて。お二人の行く先に幸あらんことを」


(ギデオン......)



      *



 無事門を通り抜けたレイは、頭をかいて苦笑いした。


「……まいったな。五年も経てば、みんな忘れていると思ったんですが」

「忘れてないわよ。特に、心ある人はね」


(忘れてるわけないじゃないの......誰が忘れるっていうのよ、あなたが残してくれたものを)


 クリスティーヌは当たり前だと言わんばかりの顔で、前を見据えて歩き出した。


二度目の共闘も息ぴったりです。

門にいた兵士はすぐさま同期の友人たちに、レイに会ったことを自慢します。兵士の中にもギデオンをよく思っていない人たちがいます。



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