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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫の知恵で国を救う~  作者: 赤木典子


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2-20.雑草処分の専門家

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 セレーネが去り、王城はサイラスの手に戻ったものの城のあちこちに黒い根が蔓延り、一部城が崩れていたり、影響は大きかった。


 サイラスは一度主要な人物を集め、今後のことを話し合うことにした。


「まず、皆さん、私がいても自由に発言してください。いいですね」

「何かいいことを思いついたら、すぐに話してみます」



「国中に広がる黒い根を何とかしなくてはなりません」

 その場に集まった人々はその気の遠くなるような作業に唾を飲み込んだ。


「その前に王城に蔓延った黒い根を何とかして、撲滅することが可能であると示したいと思います」


「そのお役目は、港湾騎士団をお使いください」

 キースが申し出るとサイラスは微笑んで頷き、返答に代えた。


「成長点を切ったり、切った黒い根を片付けたりするのには、港湾騎士団が向いていますが、成長点はやはり光らせた方が効率は段違いにいいと思われます。魔導士も協力いたします」

 魔導士たちも協力を申し出た。なるべく早く王城は元に戻せるよう、全員が協力して黒い根の除去、壊れた箇所の修復をすることに決まった。


 問題は全国各地に広がってしまった黒い根だ。一か所ずつみんなで回っていたら、年単位で時間がかかりそうだった。


「時間はかかっても魔力なしで剣を振るえるように騎士たちを鍛え直すか」

 サイラスの言葉に仕方ないといった風に周りが頷く。


「みんなで回るよりは、回れる人数を増やす方が早いかもしれないですね」

 マーガレットが言う。

「その教育は誰が行いますか?」


「やはり、大変申し訳ないが、今その技術を持っている者、すなわち、マーガレット、レイ、キースを始めとする港湾騎士団に協力してもらうしかないと」


 サイラスが考えながら喋ると、レイが迷いつつ切り出した。


「そのことなんですが。成長点は魔力を込めないで狙い撃ちすれば破壊できますよね。だったら、農民が鍬を持って黒い根に対処することはできないでしょうか。鍬だったら魔力はこめられませんし、彼らにとってはいつものことです」


 その場にいた全員が驚いて顔を見合わせる。


「もちろん試してみなければわかりません。剣士のような技術もありません。ですが、彼らは『根っこを断ち切り、雑草を抜く』という意味では専門家です。最初にナギ村で試してみるのはどうでしょう」


 ナギ村であれば、村人たちはレイを仲間だと思っているので、協力的だろう。拒否することはないと思われる。


「試してみる価値があるかもしれぬ。もしうまくいけば黒い根の処理は、飛躍的に速くなる」

「農民が自分たちで自分の畑を再生させるのね。本当にできればこんな素晴らしいことはないわ」


 レイはさらに続ける。

「ただ、その場合でも、魔導士の協力は必要になります。そしてすべての剣士たちも『魔力なし』で剣を振るうことは覚えた方がよい」


「今まで不遇だった魔導士たちはたくさんいるわ。ナギ村の実験がうまくいったら各地に魔導士を派遣して働いてもらえる!彼らを教育しましょう!」


「剣士を教育するよりは、魔導士を教育する方が期間は短くて済むだろう」


「よし、そうとなれば実験だ」




        *




 彼らは早速「ナギ村の実験」の準備を始めた。


 ナギ村の実験に参加するのはレイ、クリスティーヌ。しかし、その先を見越して今回参加した魔導士たちが、ほかの魔導士たちを集め、氷柱の作り方について講習をすることになった。場所は王立魔導学校。通称アカデミーだ。



 サイラスは言った。

「王立魔導学校の権威をもっと高めたいです。今回のことにしても、これから国を繫栄させて行くにしても魔導士の協力は必要不可欠です。いままでのような剣士偏重の世の中でいい訳がない。どうですか、ウルスラ先生」


「ああそうだね。だいぶマシになったとはいえ魔導士の地位はまだまだ低い。剣士と魔導士はもっと融合するべきだ。一人で両方できるやつだっているんだから」


 サイラスは我が意を得たりとばかりに続ける。

「そうですよね。剣士が魔導士の戦い方を応用したり、もちろんその逆も」

「その考え方には大賛成だ。むしろそうあるべきだ」

 ウルスラが太鼓判を押す。


 サイラスが多少の迷いを見せる。

「で」

「ん?」


 サイラスは何かを決意したかのように一気に言う。

「今までの考え方と随分変わりますから、その部分の教えの王立魔導学校の特別講師としてウルスラ先生をお招きしたい」


「へ?」

 お招きしたいと言われた当の本人の口から、変な声が漏れた。


「先生が教えてくださることで、魔導士の世界も変わって行くんじゃないかと思うんです」


 希望に満ちたサイラスの目は真剣だった。

 この先、魔導士の地位向上にひと役買えるというのだ。クリスティーヌも息を飲んでウルスラを見詰める。


 一同に期待の籠った目で見つめられて、困ってしまったウルスラは頭を搔きながら言った。

「わかったよ。週に何回かの約束で、講師を務めるとしよう。ただ、担任を持たされたりするのは勘弁だ。あくまで特別講師ということなら」


「よかった。考え方と技術以上のことは望みません。それだけ教えてもらえれば!」


 サイラス国王は破顔した。



           *




 ナギ村での実験に向けて、いろいろと段取りが組まれた。

 ナギ村を中心とした北部地域に行く予定の魔導士たちも実際の作業を見て学ぶために同行することが決まった。数日後、王城の黒い根の処分が終わったレイとクリスティーヌは急いでナギ村に出発することになった。


「王城の黒い根の撲滅、ありがとうございました。王城の修復の方はなるべく早く行うようにします」

 見送りに来たサイラス国王が、二人に言葉をかけた。国王が自ら見送るときかなかったのだ。


 レイは落ち着いて答える。

「まだ、この計画がうまくいくかどうかわかりません。うまくいけばこのまま展開できますが、うまくいかなければ計画の立て直しが必要になります」


「その時はまた戻ってきてくれるか」

「はい、戻ってきます。ご安心ください」


「その、あなたたちに王都に残ってまだまだ活躍してもらいたいと考えるのは無謀なんだろうな」

「陛下。私はただの農夫ですよ」


「わかっている。わかっているが、また困ったときには相談してもいいだろうか」

「もちろんですよ。二人とも、陛下がお困りの時は何をおいても参上します」


「では、非常勤剣士と非常勤魔導士ということで」

 レイとクリスティーヌは軽く笑った。

「わかりました。何も困ったことがないことを祈ります」


「クリスティーヌ。あなたには王城が落ち着いたら、王城のお風呂に入ってもらう約束もしていたな。近いうちにまた来てくれ」

「ええそのために頑張ったんですからね!必ず入りに参ります!」


「それから、兄上も、体力が回復したらあなた方の野菜を食べにナギ村に行きたいと言っている」

「おや、それは大変。王族に来ていただけるような施設はないですよ?」


 レイとクリスティーヌは慌ててしまう。

「帰ったら村長に相談しないと」



「では、実験に行ってまいります。結果はご報告差し上げます」


 二人は待っていた魔導士たちと一緒に馬車に乗り込んだ。



黒い根の伐採には農民の方が適しているのではないかというのは、両方知るレイにしか出てこない発想でした。実験がうまくいくといいですね。続きをお楽しみに!



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