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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫の知恵で国を救う~  作者: 赤木典子


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2-19.セレーネの決断

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 翌日の夕方。無事にキース一行が到着した。レイが作戦を説明し、突入は明日の早朝なのでひとまず彼らも休憩する。国王直々の召集ということで、キースは張り切っていた。


「ちゃんと眠っておけよ。明日はたくさん働いてもらうからな」

 部屋に戻る前にレイがキースに釘を刺す。


「もちろんだ」


 辺りには決戦前夜の張りつめた空気が満ちていた。





 東の空が徐々に明るくなってきた頃。彼らの進軍は始まった。王城までは、人々が起きだすころには着けるだろう。


「根の民」のことを聞かされたキースも、固まっていた。彼は特に、彼の家柄が建国以来の忠臣であることが自慢であったから、尚更だった。国王同様、彼の先祖もその出来事に無関係ではないだろう。





 王城が近くなってきた。夜が明けたはずなのに、空が暗くなり、蝙蝠が飛び交い始める。匂いも生臭い、嫌なものに変わってくる。誰もが自然に無口になってくる。




 王城は黒い根に包まれ、繭のようだった。王城全体が何かの植物のようだ。

 見張りの位置から身を隠すように、王城の近くで魔導士たちが配置につき、すぐさま術式を発動し始める。すぐに無数の氷柱が王城を囲む。


「あれ、お前たち随分早く発動できるようになったね。これなら実用的だよ」

 ウルスラがお墨付きを与える。

「先生の教えを守ってたくさん練習しましたから!」


 少し待つと黒い根が王城から離れて氷柱に巻き付き始める。黒い根の成長点が光りだした。


「よし。ここからは我ら港湾騎士団の仕事だ!」

 キースは自分の代わりに指示を出していた部下を満足そうに眺めた。港湾騎士団は実に見事だった。まさか、アルテア港で、右往左往していた騎士団とは思えない。



「突入する」




 道が開いたところにクリスティーヌとウルスラがどんどん氷柱を作っていく。モゴモゴと、乱れた黒い根の成長点を目にもとまらぬ速さでマーガレットが薙ぎ払っていく。さすが白銀の妖精と言われるだけのことはある。その見た目と鬼気迫る剣術のギャップが凄まじい。


 一方でレイは太い根をバッサバッサと切っていく。今度は音をたてないように注意しなくていいので楽だと思いながら切り進む。


「今回はだいぶ早いな」



 黒い根を切りながら、玉座の間の前まで来た。切った根の処分は港湾騎士団が行っていた。彼らも白銀の妖精の剣技に見とれている。


「いくぞ」


 ここに戦いに来たのは何度目だろうか。玉座の間に入る。


「ようこそ」


 セレーネがゆっくりと言った。パウエルが横で剣を構えている。


「ナサニエルを盗んだのはあなたたちかしら」

「そうだと言ったら?」

 レイが返事をする。


「折角いい苗に育てたのよ。死んでしまったなんてちょっともったいなかったわね」

「兄上は死んでない! 今静養している!」

「嘘よ。あの禁断症状を乗り越えた実験体はいなかったわ」


「それが、嘘じゃないんだ。ナサニエル殿下は無事だ」

 レイも説明する。


「嘘、嘘よ!」初めてセレーネの顔色が変わる。


「ナサニエルを使ってアルカディアをめちゃくちゃにしてやるつもりだった。ナサニエルはそのためのただの道具。でも、効果的な道具にするために、実験は繰り返した筈なのに。何が違ったのかしらね、パウエル?」


「確かに実験体で生き残った者はいませんでした。何が違ったのでしょうか」


 何かを思いついたようにサイラスが言う。

「兄上には、僕が付いていたからな。実験体には付きっ切りで看病してくれる人はいたのか」

「ああ確かに。実験体はみな一人で果てていきました」



 セレーネは嫌そうな顔をして吐き捨てた。

「ふん、忌々しい。お前たちにいいように使われて散り散りになった私たちの民族のように、お前たちにも思い知らせてやろうと思ったのに」


 サイラスが続ける。

「そのことだが、私たちの間では、そのことの記憶さえ抹消されていた。あってはならないことだ」


「ほう。そうか。なら私たちにこの王城を渡すか」

 セレーネは意外だと言った顔で問う。


「いや渡さない。考えてみてくれ。恨みは恨みしか生み出さない」

「なに?」


「昔のことは本当に申し訳ないと思う。でも、今の国民には何も関係ないことだ。私には国民を守る義務があるんだ」

「だからなんだというの」


「罪を犯した方が言うのも可笑しいが、これからのことを考えないか。これから両国が、ともに繫栄していける未来を」


 パウエルが、叫ぶ。

「お前たちのせいで、俺たち民族がどんな思いをしてきたか知っているのか!」


「一応知りうる限りは調べた。根の民を防衛線にしたことも、肥料にしたことも」


「そうだ。お前たちは俺たちを、『道具』として消費したんだ!」


 パウエルは顔を真っ赤にして怒り、剣を振りかぶる。


 それを見たレイがサイラスをかばうように立ちはだかる。


「その結果がこれか。黒い根を蔓延らせて我が国の国土をめちゃくちゃにし、健康になりたいと願う王子の心を利用して肥料に育て上げ、そして今は我が国の貴族を順番に肥料にしている。まだ足りないのか!」


 セレーネたちは何も言い返せなかった。

 どこまで仕返しをすれば気が済むんだったのか、自分でもわからない。

 わからないことを終わりにできるわけがない。


 セレーネたちが言い淀んだのを見てすかさずレイが続ける。


「これ以上『根の民』を殺したくない。生き残ってもらってこれからの繁栄を一緒に考えたい」

サイラスがすかさず言う。


「私も賛成だ」



「よく考えて選べ。抵抗してここで殺されるか、生き残って手を取り合うか。どちらがいい」


 セレーネ陣営とサイラス陣営のにらみ合いが続く。

 極度の緊張の中、誰も物音を立てる者はいなかった。

 


 結果は変わらないのか。とレイたちが諦めかけた時。しばらく睨み合っていたがセレーネがようやく口を開く。


「黒い根の除草剤はあるけれど、あなたたちには渡さない」



「自分たちでなんとかしなさい。黒い根を撲滅できればあなたたちの国はあなたたちのもの。どうにもできなくて、滅びていくようならこの地をもらいにくるわ。そうしましょう」


「しかし、セレーネ様」


「パウエル、剣をしまいなさい。私はこれ以上失いたくないの。計画は上手くいかなかったのよ。ナサニエルを盗まれてしまったんですもの。彼らには、私たちを攻撃できない理由がなくなったのよ。これ以上戦えば私はあなたも失ってしまう。そうしたら誰が私を助けたり、根の民の話ができるというの」


「セレーネ様」


「私のそばにいなさい、パウエル。どこかへ行くことは許しません」

 セレーネは毅然と命令した。


「土に愛された彼らがこの呪いの根を伐採できるかどうか、私と一緒に見守りなさい」

 パウエルは、震える手で剣を鞘に戻し、セレーネの影に隠れるように視線を落とした。


「セレーネ様がそうしろとおっしゃるのなら」


「黒い根の除草剤は渡さないわよ。こんなに蔓延ってしまったものをこれからどうするのか、お手並み拝見だわ」



 セレーネはパウエルを従えて悠々と玉座の間を出ていった。


ナサニエルを失った時点で、セレーネはこうなるかもしれないと覚悟していました。

条件を考えていたのかもしれません。さて、サイラス側はどのように黒い根を片付けるつもりでしょうか?続きをお楽しみに!

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