2-18.サイラスの決断
R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。
「ウルスラ先生、一緒に来てその話をみんなにしてもらえませんか?」
一通り聞いて、レイはウルスラに頭を下げた。
「どういうことだい、アンタが伝えるんでもいいんだよ」
「いえ、この話は、ちゃんと聞く必要があります。いい加減な伝聞情報だけに頼ってはいけない気がするんです」
「なるほどね、でもアタシだって見てきたわけじゃない。伝聞だよ」
「少なくとも誰よりも知ってることは確かだし、最初にその話を聞いた時は先生だって衝撃を受けて色々質問したんじゃないですか?」
レイは真剣だった。
「あんたってなんでそう察しがいいんだい。まあ察しがいいのも特定の分野に限られるけども。なぁクリスティーヌ。」
クリスティーヌは大きく頷いている。
「ええそうですね。マーガレットも確かそんなことを」
雲行きがおかしくなってきたレイは話を遮る。
「ですから!」
「わかった、わかった。よし、王様達にこの話をしに行こう」
「ありがとうございます」
「あんまり楽しい話じゃないけどな」
ウルスラは支度をしに奥に入っていった
それから、二人は北の狩猟小屋まで、どうやって行こうかという話になった。
「いくら俺の魔力を使ったと言っても、連続跳躍はクリスティーヌの負担が大きすぎる。歩いて行こう」
レイはすっかり徒歩で行くつもりだ。北の狩猟小屋なら半日もあれば行ける。
クリスティーヌも、さすがに連続跳躍する自信はなかったので、素直に従っていた。
「ここで少し時間が空くが仕方ない。」
レイとクリスティーヌは支度を整えた。あとはウルスラを待つばかりだ。
少したって支度を済ませたウルスラが出てくる。
「行きましょう」
「ちょっと待て。どうやって行くんだい?」
「歩きます。さすがに連続跳躍はさせられないので。半日もすれば着きます」
「何言ってんだ。私を誰だと思ってるのさ。さあ行くよ」
ウルスラが二人の手を握った次の瞬間、3人は北の狩猟小屋にいた。
ウルスラはけろっとしている。
「先生3人転移させても疲れないのですか?」
「8人くらいまでなら一度に行けるよ。疲れちゃうけどな。10人くらいまではいきたいもんだね」
「10人!?」
クリスティーヌは目を丸くして固まっていた。
「......修業します」
サイラス王たちはウルスラから話を聞いた。「根の民」について全く知らなかった人たちは一様に衝撃を受けていた。
「私たちの民族にそんな惨い過去があったなんて」
「知らなかった。この国の繁栄は、彼らの犠牲のもとになりたっていたんだ」
「歴史書にも残っていないってことは、抹消されたのか」
誰もが黙り込んだ。重苦しい空気が全体を包む。
レイも話す言葉が見つからずにいた。
どのくらい時間が経っただろうか。
ウルスラが来たときは真上にあった太陽も、すっかり西に傾いている。
「過去の、わが国の祖先のやったことは、反省すべきだと思う。国民はそれを知らなければならない」
サイラス国王が唐突に喋り始める。
「でも、それは、今の国民が侵略されていいことの理由にはならない。私は現国民を守るのが務めなんだ」
「陛下......」
「王城は取り戻さなければならない。この国を失うわけにはいかない。みんな、協力してくれ」
「陛下、作戦を練りましょう」
サイラスの決心に、時が回り始める。にわかに活気が戻った。
そこに、二通の手紙を警備の騎士が運んでくる。
「誰からだ?ここにいることを知っている人物だな」
「一通はレイ様に。アルテア港湾騎士団長のキース様からです」
レイは一通り目を通すと、そのままクリスティーヌに渡す。
「陛下。キース以下港湾騎士団の者も、魔力なしで剣を振るえるようになったそうです。王城戦に呼びましょう。必ず必要になる」
その代わりとして、ついつい剣に魔力を込めてしまう王宮騎士団の一部を、アルテア港に派遣することにした。思わぬ援軍に士気が高まる。
クリスティーヌは手紙を見ながら笑って言った。
「キースったら相変わらずね。手紙の中でまで偉そうだわ」
「もう一通は私宛です」
マーガレットが進み出た。
「陛下。アルテア港に連れて行った子供たちからの手紙でした。自分たちの技術が必要ならばいつでも準備はできていますとのことでしたが」
「大変ありがたい申し出だが。彼らは王国の未来だ。今回は大人だけで行く」
「わかりました。そのように伝えます」
クリスティーヌは再び笑った。
「陛下だって、彼らとそう年は変わらないのにね」
*
ワーウィック伯爵は、床に転がされていた。
「根の民」の情報をもたらしたことを一応評価されて話を聞くだけは許された。
だが、話を聞いてしまったので、南の別邸に帰ることも、目隠しと拘束を解くことも許されず、床に放置されていた。
だが伯爵は満足だった。ここにいれば、追手はこないからだ。逃げ切ったと思って伯爵は小さく「万歳」といった。
(自分の判断は間違ってなかった。やった)
目的は達した。
*
サイラスはまず騎士団の配置転換を手配した。これでキース達の到着を待つのみだ。
「まず、王城の周りに、無数の氷柱を立てて、黒い根を王城から引きはがす。それを港湾騎士団が処分だ」
「突入するのは陛下、クリスティーヌ、マーガレット、キース、俺。あと、ウルスラ先生にもお願いしてよろしいでしょうか」
「何かあったらみんなを連れて転移するよ。何もないことを祈るけどね」
「心強いです」
「そして、できるだけ黒い根を処分しつつ玉座の間に向かって進みます」
「そこに、セレーネとパウエルがいるはずです」
ウルスラ先生の能力は桁外れです。
普通は、自分だけ転移するのが精一杯です。自分のほかに1人転移させられれば優秀、クリスティーヌのように3人転移できるのは超優秀です。
この作戦にウルスラ先生が参加してくれるのはとても心強いですね。続きをお楽しみに!




