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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫の知恵で国を救う~  作者: 赤木典子


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2-17.根の民

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

「ねのたみ?」


「そ、そうなんです。ノクトゥルナ王国の王妃のセレーネ様と筆頭秘書官のパウエル様は『ねのたみ』の末裔だって」


「ねのたみ? なんだそれは?」

「誰か知っているか?」


 その場にいたものは一様に首を横に振る。


「で、その『ねのたみ』っていうのは何なんだ?」


 切り札だと思っていたのに話が進まなくて伯爵は焦った。


「建国の頃の話だそうです。この場で言うのが適正なのかわからないんですけど」

「気にしなくていい。正直に述べよ」

「はい、アルカディア王国建国の前、この地に住んでいたのが「ねのたみ」だそうです」


「ふむ」

 伯爵は続けた。

「で、アルカディアは、ねのたみを間引きして『肥料にちょうど良い』って言ったとか何とか」

「なに?」


「人を間引くの?」

「肥料にちょうどよい?」

 思いがけない言葉が出てきてその場がざわつく。


「肥料......」

 レイとクリスティーヌには、ナサニエルが黒い根につながれている光景がよみがえる。



「調べてきます!」

 誰かが図書室に走る。だが狩猟小屋には図書室と言っても、気持ちばかりの部屋があるだけだった。そこには建国当時のことを書いた立派な本もあったが、「ねのたみ」の記述はない。


「本当なのか?」

「本当だとしたら何なのか。恨みなのか?」


 答えが出ないまま膠着状態になってしまった様子を見てレイが言う。

「ウルスラ先生に訊いてみよう。先生なら何か知っているかもしれない。行ってみるからちょっと待っててくれ」

「待ってレイ。まさか一人で行くなんて言わないわよね。転移しましょう」

 クリスティーヌがすかさず申し出る。


「また君に負担をかけてしまうのか」

「こうなったら毒を食らわば皿まで、よ」

「そういうの、乗りかかった船っていうんじゃないのか? 俺は毒なのか?」


「どうでもいいけど、早くしましょう」

「俺の魔力を補助的に使えないか?」

「もしかしたらいい考えかも知れない。試してみましょう」


 話題が移ってしまったせいなのか、レイの突っ込みには誰も反応しなかった。




「ねのたみ」について知ってるかどうか訊くために二人はウルスラの家に転移した。


「なんだい......誰もいないよ」

「懐かしい挨拶だ。先生、相変わらずで嬉しいです」

「先生お元気で何よりです」

「勝手に人の家に転移してきて、何言ってるんだい」

そういいながらもウルスラは嬉しそうだった。


「自分の魔力を使ってもらうと、かなり楽になるみたい!」

「転移魔法は負担が大きいからこれからはそうしよう」


 ウルスラは何かの薬を作っている手を止めずにちらりとレイたちを見る。


「相変わらず仲の良いことで。で、何の用だい? 何も用事がないのにわざわざこんなとこに跳んでくるわけないだろう?」


「お知恵をお借りしたく」

 クリスティーヌも大きく頷く。

「あの、先生。ねのたみという言葉をご存知でしょうか」


 レイがその言葉を言った瞬間、ウルスラがびっくりした表情で二人を見る。

 普段驚くことのないウルスラが驚いたことに二人は驚いた。


「......ついに、その言葉が出ちまったか」

「......先生が驚いた! 嵐が来るかもしれません」

「ふん。馬鹿馬鹿しい」

ウルスラは、普通の顔に戻して言った。


 ウルスラの反応を見るに、何か良くないことなのだろうという予想はついた。



「あのな」

 言いにくそうにウルスラは話し出した。

「何百年も前の話だから私も見てきたわけじゃない。私の師から聞いた話だよ。それだって、そのまた先生から聞いた話で、見てきたわけじゃない。まだアルカディアが作られる前。王城のあるあたりには『根の民』という人たちが住んでたんだ」


 クリスティーヌは頷く。

「はい」

ウルスラはまだ言い淀んでいた。

「その民は、魔力量が多くてね。ちょっとした能力者みたいなもんだったようだ」

「能力者......」

「で、この辺に流入してきたアルカディアの民は、彼らと共存するんじゃなくて数の暴力で彼らを捕まえ、自分たちのいいように使ったんだ」

「いいようにとは?」

「普段は奴隷のように使い、戦が起これば魔力量が多いことを理由に彼らを生きたまま『防衛線』として繋いだし、飢饉が起これば彼らを『生贄』と称して間引きしたんだよ」

「......ひどすぎるな」

「しかもその間引きした彼らは『肥料』として埋められたんだ......だから黒い根っていうのはかつて土に埋められた先祖たちの怨念そのものかも知れん」


 三人とも何も言えずに黙りこくった。


「だから、アルカディアの繁栄の歴史は彼らの『血を吐くような犠牲』の上に成り立ってると言っても過言ではない」


「そんな。知らなかった......」

「しかも、その頃の記録は建国史のどこをひっくり返しても出てこない。消し去られたのさ」


「ウルスラ先生はどうしてそれを」

「知ってるのかって? そりゃあ、先生の先生の......ま、とにかく何代か前の先生から代々ずっと『忘れちゃいけない禍根』として言い伝えられてきたのさ。やっぱり弟子に話す日は突然来るんだね」


 ウルスラは、弟子から「根の民」について聞かれたことに驚いているようだった。


「で、その根の民がどうしたっていうんだい?」

 レイとクリスティーヌは事情を説明した。


「なるほどね。そういうことだったか。奴らは国が欲しいんじゃない」


 復讐したいものと、港が欲しいものと、利権が欲しいもの。三者の思惑が絡み合って今回の事件は起きたのだ。


 それに復讐したいだけなら、別にこの国が黒い根でどんなに荒れようとも構わないのだ。何も元に戻す必要はない。むしろ荒らしたいのだ。レイとクリスティーヌはそのことに気づき、焦りを覚える。



「王様は自分たちの国が根の民に対してやってきたことと向き合わなきゃならないってわけだ」

「そうですね」

「でも、建国してから今まで目をそらしてた問題だ。この辺りでケリをつけといたほうがいいんじゃないかね。じゃないと実際何百年も前のことで、諍いがおきている」



「王様も過去に先祖がしてきたことをちゃんと知る義務がある。それにあの王様なら少し若くて頼りないがその上で行動できる。レイ、クリスティーヌ。助けてやりな」


「これは王の方にも覚悟が必要だな。果たしてあの王に決められるのか」




根の民の真実が明かされました。ウルスラは本当に何でも知っています。

サイラスは重い運命と向き合うことになります。続きをお楽しみに!


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