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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫なので王都の支配者を雑草として間引きします~  作者: 赤木典子


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3.王都への道と魔法の授業

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

「あなたのその農夫仕込みの魔力量と剣士仕込みの速さなら今までにない魔導士になれるわよ。私はこないだ確信したのよ」

王都へと向かう道中、クリスティーヌは熱弁を振るっていた。 


「いい、レイ? 魔力は無理に生み出すものじゃない。体内の門を開き、外部の魔素(マナ)と自分の鼓動を同期させるの。……って、理屈で言ってもわからないわよね。何て言ったらいいのかしら」


 クリスティーヌは少し困ったように杖を振る。彼女が教えるのは王立魔導士養成学校で最初に教えられる魔術理論だったが、レイの反応はおかしなものだった。

 

「……なるほど。つまり『当たる瞬間だけ全身の力を抜く』ということですね。土を耕す時、鍬を振り下ろす瞬間の脱力と同じような感じかな」

後半は自分に向けて独り言のように漏らしたものだったが、クリスティーヌは聞き逃さなかった。



「……は?」

 

 瞬時には理解できず、ぽかんと口を開けたままレイを見つめる。


(何を言ってるの? 大丈夫かしら? わかってんのかしら?)  


 彼女の頭の中を様々な「はてな」が駆け巡る。 そんなクリスティーヌの困惑を知ってか知らずか、レイが軽く微笑んで指先に意識を集中させると、武骨な手のひらの上に小さな光球が形成されていく。


「……やっぱりあなたはムカつくほどの天才ね。養成学校ではひと月かけて習う『定着』を、たった数日、駆け足で学んだだけなのに……なんで、できちゃうのよ」

 

「できて困ることはないと思いますが.......」



 クリスティーヌは気を取り直して続けた。

「この国じゃ魔導士はどんなに高度な術式を編み出しても、結局は評価されないわ。評価されるのは決まって剣士様なのよね」


「御前試合だってそう。観衆が熱狂するのは剣士にだけで、私たちは裏で展開している結界や補助魔法くらいしか出番がないもの。それもこれも魔法の発動に時間がかかるのが原因よね」


 彼女は杖を強く握りしめた。


「魔法はオマケ。主役になれない。ずっとそう言われてきた。……私がどれだけ頑張ったところで、地位も名誉も、ただ『剣が上手いだけ』の人たちの足元にも及ばない。せめて、努力がちゃんと評価される世界だったら違ったかな、とは思うわ」


 歩きながらも、クリスティーヌの愚痴は続く。


「注目されるのはいつだって剣士だったわ。あ、でもあれね。一人だけ特別な女剣士がいたわね。彼女は特別だった。彼女になら負けても仕方ないと思えた。彼女もまた悲運の女剣士だったけど。名前、なんて言ったかしら? ちょうどあなたの世代ね。ちょっと、レイ、聞いてる?」


「聞いてますよ。『白銀の妖精』と呼ばれた彼女のことならよく知っています」

レイは少しだけ懐かしそうに目を細めた。

「とても剣士らしからぬ風貌で、しかしとても強かった。彼女は今、地元に帰って若い剣士たちを育てていると風の噂で聞きました」


「あなた、ああいう人が好みだったの?」

「いや、単純に尊敬してただけですよ」


レイは光の球を消し、穏やかな眼差しを彼女に向けた。

「はぁ。さすがに魔法は集中力をちょっと使いますね」


「......ちょっと?」

「はい、ちょっとだけ」


「......」



「クリスティーヌ。私は現役時代、たくさん試合もしましたがあなたの魔法を『オマケ』だなんて思ったことは一度もありませんよ」


「……気を使ってるの?」

「本当です。……対戦相手の剣なんかより、あなたが展開する術式の『意外性』の方が、よっぽど手こずりました」

「……剣士にとって、最も恐ろしいのは目に見える剣なんかじゃない。『目に見えないもの』です。あなたの魔法は発動までが早かった。私にとって発動する前に何とかしてしまいたかった」


レイは少しだけ視線を落とすと、袖に隠れて見えない自らの腕を見つめた。


「……数多の剣士の頂点にいた僕を、一瞬でどん底まで突き落としたのも……これもまた、魔法なんです。地位なんて、案外すぐに滑り落ちるものですよ」



 クリスティーヌは、かつての英雄の顔をまじまじと見た。

「……変な人。そんな風に魔法を評価する剣士なんて、あなたが初めてだわ。もっと早くたくさん話すんだった」


「ねぇ、その呪いを解く方法はないの?」

「ないことはありませんが、呪いをかけた本人が呪いを解く魔法をかけるか、その人が死ぬのを待つかどちらかです」



 しばらく二人の間には、足音だけが響いた。やがてクリスティーヌがパン、と自分の頬を叩いて気合を入れる。


「さあ、いつまでもお喋りしてないで、次は『魔力回路の瞬発力』を試しましょう。あなたが現役時代に得意だった、あの『神速の踏み込み』……それを魔法で再現するわよ。時間なんていくらあっても足りないんだから」


「お喋りが止まらないのはあなたの方だと思いますが……わかりました。要は、『予備動作を消して、魔力の初速を最大にする』ということですね。やってみましょう」


 レイが放つ魔力が、少しずつ、しかし確実に精度を増す。優秀な魔導士と剣士。二人の進化は、「1+1=2」のような単純な足し算にはならなかった。



王都への旅も、半分を過ぎていた。



クリスティーヌの想像をこえていくレイ。

魔法の光球を作るには早い人で三週間ほど、人によっては半年ほどかかります。

レイの場合は才能もありますが、土いじりで魔力に触れていたのも大きいです。

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