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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫の知恵で国を救う~  作者: 赤木典子


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2-8.英雄たちの草むしり

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 地響きのような蹄の音が迫る。 それは、二十人を超えるマーガレットの教え子たちが、師匠の「生き残れ」という命令を胸に、一斉に馬を飛ばして駆けつけた合図だった。


 レイは隕鉄の剣を構え直し、静かに告げる。 「よし、本番だ。……ここからは、俺たちの『草むしり』の時間だぞ」


 レイは彼らに向かって叫ぶ「光っているのが成長点だ!魔力を抜いて切れ!」

「「「はい!」」」


 彼らは馬から飛び降り、あちこちに向け走り出す。

 静かにほほ笑んだマーガレットは、手を止めることなくその背に向けて叫ぶ。


「絶対に生き残りなさい。それが一番大事なことです」


 彼らは一気に黒い根の成長点に襲い掛かった。光っている成長点は次々と切られていく。


「なんだなんだ、何のごっこ遊びの延長だ!?」

 キースの表情が険しくゆがむ。それでなくても、困り果てるレイたちを見て嘲笑う予定だった第三桟橋の周辺の黒い根は伐採されて、どんどんきれいになっているし、レイ側の手伝いをする魔導士が出てくるなど、味方の統制も取れなくなってきている。しかも自分の騎士団の騎士たちの剣は、全く役に立っていない。


「ここはお遊びの場ではないぞ! ガキは出ていけ!」

 キースは目を吊り上げて叫ぶ。


 それを聞いたレイは、黒い根の芯を切り払う手を止めぬまま叫び返す。

「遊んでいるのはどっちだ! 俺たちは『草むしり』をしているだけだ! 俺は農夫だ! 農民が『草むしり』をして何が悪い! 黙っていろ!」


「黙っていられるか。騎士にどうにもならないものを子供がどうにかできるわけないだろう!」


 クリスティーヌは、桟橋で座ったまま二人のやり取りを見ていたが、最後キースに向けて何やら魔法をかけたと思うと「あとは任せたわ」と一言言ってあまりの疲労に気を失ってしまった。



 キースとレイが言い争いをしている間にもマーガレットの弟子たちの剣は正確に、しかも危なげなく黒い根の(成長点)を突いていく。それは見事な技術だった。


「成長点が光っててくれてありがたい!」

「向こうから『ここですよ』と言ってくれてるようだな」


 マーガレットの弟子たちが到着してからかなりたった。陸の方で大きな声がする。魔力を抜かれ、飢餓状態に陥った黒い根がモゴモゴと蠢き、若い騎士を絡めとろうとしていた。


「危ない!」

レイは駆け寄って、一刀両断した。


「後ろも気をつけろよ」


辺りはすっかり暗くなったが、成長点が光っているおかげで暗い中切り続けるのにも支障はない。むしろ彼らの卒業試験を鮮やかに彩るかのような、光の華になった。


 彼らは流れる汗をものともせず、黙々と作業を続け、ようやく終わりが見えてきた。最後の一本が切り落とされ、辺りから歓声が起こる。最終的には何名かが黒い根に引っかかってかすり傷を負っただけで誰一人大怪我をしたものもいなかった。




「師匠。完了しました」

「こちらも終わったわ」

「お疲れ様」


 アルテア港の光は、彼らによって全て消された。




           *




 黒い根の伐採が終わるとレイはクリスティーヌのもとに走った。

「クリスティーヌ大丈夫か!」


 クリスティーヌの隣には、途中で合流した魔導士が一人、着いていた。


「大丈夫ですよ。疲れて眠ってしまっただけです。一晩寝れば回復します」

「俺たちを転移させた上に随分無理をさせてしまった」


 悔やむレイにその魔導士が言う。

「港が守りきれたのは、彼女の働きあってのものです。でもそれはあなたに言われたからではなく、彼女がそうしたいと強く望んだからだと私は感じました。あなたは何ら負い目に感じることはありません。むしろ、彼女の働きを誉めましょう」




「......彼女を助けてくれて、ありがとう」

 レイは深々とその魔導士に頭を下げるとクリスティーヌを抱えて歩き出した。



              *




 港の入り口に立派な馬車が止まった。馬車の前後には多くの護衛騎士たちが控えている。果たして、馬車から降りてきたのはサイラス国王本人だった。ガルダ王国との国境のすぐ隣にあるアルテア港は立派な離宮もある要衝だったこともあり、国王自ら駆けつけてきたのだ。レイたちに急使を送った後、すぐに駆け付けたのだろう。


 彼は港を見まわした。もう夜であり暗いので惨状はよくわからなかったが、戦いの残り香はそこここから感じられた。


「これは......もう終わったのか」

 サイラス国王は驚いたように独り言を言った。


 キースが慌てて駆け付け、跪いて何か言おうとする。

「......」

「?」


 キースは何かを言おうとしたが何も言えない。

「キース、どうした?」

「......」


「キース、誰が港を守ったのだ?ここの管理者はそなたなのだ。それくらい答えられるであろう」

 キースが何故か何も言わないので、サイラス国王はキースから何かを聞き出すのを早々に諦め、何かを探すように視線を巡らせた。


 その時、国王の視界の端ををクリスティーヌを抱えたレイと教え子たちを従えたマーガレットが通り過ぎようとしていた。


「お待ちください、みなさん」

 サイラス国王は慌てて呼び止める。


「港を守ってくださったのはあなたたちですね?」

「俺たちはただ、『草むしり』をしただけですよ」

 レイは笑って答えた。


 サイラス国王はレイに抱えられたクリスティーヌを見て顔色を変える。

「クリスティーヌはどうしたのです?」


 眠っているクリスティーヌに代わりレイが答える。

「ちょっと魔法を使いすぎました。疲れて寝ているだけですよ。ご心配には及びません。早く帰って休ませます」

 サイラス国王は明らかにほっとした顔をしたが、またマーガレットの後ろにいる明らかに騎士団とは違う若い剣士たちに目を止める。


「そちらの若い剣士たちは?」

「マーガレットの元で訓練している剣士たちです。今回の『黒い根』の伐採は彼らの卒業試験なんです」


「ええ、彼らは大変よくやってくれました。全員合格ですわ」


 サイラス国王は言った。

「アルテアの港を、言ってしまえばアルカディアを、助けてくださりありがとうございます」


 そして、王冠を脱ぎ、深々と頭を下げたのであった。

 それにはまわりの方が慌ててしまったぐらいだった。


 国王からはさらに提案があった。

「もう夜ですし、その卒業試験のお話ももう少し聞きたいので、今日はアルテア離宮の方にお泊りいただけませんか。お食事も用意いたします」


 レイは困ったように言った。

「早く帰ってクリスティーヌを休ましてやりたいんです。相当無理したので」

「温かい寝具もご用意します」


 少しだけレイは迷っていたが、クリスティーヌを早く清潔な寝具に寝かせてあげるという国王に頷いた。


「もちろんそちらの教え子の方々もですよ。おなかが減ったでしょう?おなか一杯ご馳走しましょう」


 国王の提案に教え子たちは沸いた。


 一同が湧きたっている間に国王はレイに耳打ちした。


「王城の黒い根が、いよいよまずいのです」




港全体に光の粒が輝いて、キラキラとそれは綺麗な光景だったでしょうね。+

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