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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫の知恵で国を救う~  作者: 赤木典子


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2-7.黄昏に蠢く光

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

「アルテアの港が『黒い根』に飲み込まれた!」

 急使の内容を聞いてレイの顔色が変わった。

「まずい。誰だか分らんがアルテア港を取られたら困るぞ」


「しかもアルテアの港にいる騎士団は、まだ魔力攻撃が却って奴らを太らせることを知らない」

「一刻も早く魔力攻撃をやめさせないと!」

「くそう、港を狙うとは、本当に何の勢力だ!? 畑を狙ってたんじゃないのか! 意外だった」

 敵が誰なのか、今のところはわからない。


「クリスティーヌ。体力を使わせてしまって悪いんだが」

「わかってるわ、転移魔法で行きましょう。ただ、こんなにたくさん一人で転移するのは無理よ。3人が精いっぱいだわ」


 転移魔法は体力を使う。だがクリスティーヌは即決した。なんとしても早く着く必要があると判断したのだ。


 マーガレットは、先ほどの若手剣士たちに指示をする。

「卒業試験を受ける者たちをまとめてください。上級生の希望者なら参加可能とします。私は彼女の転移魔法で先に行きますから、あなたたちは急使の方と一緒に後から馬で来るように」


 ティリア村からアルテア港ならばそこまで遠くはない。馬ならば半日くらいで着くはずだ。


「卒業試験です。課題は『黒い根』の伐採。条件は『絶対に生き残ること』」

「わかりました」

 若手剣士たちはめいめいに走り出す。


「剣を」

「?」

「一度剣を取りに戻ります」


 マーガレットの学校の庭には、連絡を受けた若手剣士たちが馬を連れて集まり始めていた。


 マーガレットは、彼らの集まり具合を見て声をかける。


「皆さん、これから卒業試験です。課題は聞いていると思いますが『黒い根』を伐採すること、条件は『絶対に生き残ること』です。詳しい伐採方法は彼らに聞いてください。私は先に転移魔法で向かいます。健闘を祈ります」


 そういうとマーガレットは納屋に入っていった。レイは先ほどの剣士と「黒い根」の伐採方法について若手剣士たちに教えている。マーガレットは納屋の奥から「布にくるまれた何か」を出してきた。

 埃をかぶった布の中から、久しぶりに陽の光を浴びる輝く細剣(レイピア)が出てくる。


 続々と集まっている若手剣士たちがざわつく。


「伝説の白銀の妖精の細剣(レイピア)だ」

「師匠が真剣を持っているところは初めて見たぞ」

「木剣を持っているところしか見たことないからな」

「木剣でもかなわないし」


「お待たせしました。向かいましょう」

 マーガレットの身支度は速かった。やはり戦地慣れした者だった。



 視界がゆがむ。軽い船酔いのようになりながら3人は、転移した。




          *





「なにこれ、何が起こってるの?」

 急に潮のにおいが鼻を突く。アルテア港に突然現れた3人は、港を見下ろせる街はずれの丘の上に現れたが、その状況を見て絶句する。


「戦いに巻き込まれなくてよかった」

クリスティーヌは独り言を言った。


 港は既に「黒い森」だった。海面はもはや見えず、海の中には蜘蛛の巣のように「黒い根」が走っていた。港に停泊中の船はそれに絡めとられ、帆柱には黒い根が巻き付いていた。すでにへし折られている船もあった。  


 剣士たちは黒い根に必死に切りつけていたがその魔力を逆に吸い取られ火に油を注いでいたし、艦隊の魔導士たちは必死に結界を張っていたが、黒い根は結界に触れるとバチバチと音を立てて光りながらその魔力を吸収し、大きく太くなっていく。かといって結界を解くとたちまち黒い根に侵食されるといういたちごっこだった。


 アルテア港の北側にあるガルダ王国との国境のある山の上からはガルダ王国の軍が見ていたが、そちらの方向から時々魔力砲が撃ち込まれている。彼らは黒い根の特性を知っていて、養分を与えているようだった。


「ガルダか。港が欲しいのはわかるが、こんなになった港を占領してどうするつもりだ」

「絶対この「黒い根」を一挙に除草する方法が用意されてるはずよ。除草剤みたいなものが。手に入れた後にそれを使うつもりなのよ」

「多分そんなとこだろうな」


 マーガレットは、港の惨状を冷静に分析していた。

「あの子たちが来れば、このくらいなんとかなるわよ、それまでできることをしておきましょう」

「そうね」

「心強いな。時間稼ぎだ」



「まず、ここの責任者を探して魔力攻撃をやめさせなきゃ」

「時間がないぞ」


 レイとクリスティーヌは責任者を探して走り出そうとしたが、クリスティーヌは3人も転移をさせたからか、かなり体力を消耗していて、動くのもやっとだ。


「クリスティーヌ、辛かったら少し休んでいろ」

「大丈夫よ。そんなこと言ってる場合じゃないわ」

 クリスティーヌは気合を入れ直した。


 そこへ突然転移してきた3人を見とがめて港湾騎士団の騎士団長がやってきた。

「おや、誰かと思えば、引退したんじゃなかったんですか?レイ・アカツキ」

「久しぶりだな、キース。早速だがこの『黒い根』の伐採にやってきた」

「何をいまさら引退した筈のあなたがのこのこと。おやおやおやおや、白銀の妖精も一緒ですか? これはまた、珍しい。ですが、レイ。いくら元剣士と言っても今じゃあなたはただの素人でしょう。立ち入らないでもらいたい」


 キースの家柄は、アルカディアの中でも一、二を争う建国当初からの名門だった。彼はそれが自慢だったので、家柄にこだわらず実力しか評価しないレイは昔から目の上のたん瘤だった。


「お前たちのやり方ではうまくいかないぞ」

「そんなことはありませんよ。もうあなたは過去の人だ。つべこべ言われる筋合いはない。いまに形勢逆転しますから。まあ見てなさい」


「何を呑気なことを......一部分だけでもいい。黒い根の伐採に行かせてくれ」

「何を言ってるんです? 下がっててください」


「実際『黒い根』が育ってるじゃないか! ぐだぐだ言わずに我々を使え!」


 レイの一喝に、不服そうではあったが、キースが譲る。本当はもうなす術がなく、救援はとてもありがたいのだが、そんなことはおくびにも出さない。あくまでも「渋々」という態度を崩さなかった。


「これだけ言ってもまだわかりませんか......あなたたちの手に負えるものではないですけどね。仕方ない。じゃぁ、第三桟橋のところは任せます。まあ、どうにかなるものなら、ですが」


(なんて失礼な奴なの。この混乱が治まったら、お返ししてやらなくちゃ気が済まないわ。覚えてらっしゃい)

 クリスティーヌは密かに誓った。




 第三桟橋。

 想像通りというべきか、港の中でも被害が一番大きく、騎士団も魔導士もほぼ撤退して諦められていた。そこにあるほとんどの物が黒い根に覆われ、船体はもちろん、帆柱もへし折られ、辛うじて桟橋だけが残っている状態だった。


「よし、いくぞ」

 レイとマーガレットは第三桟橋に停泊中であった船の残骸に飛び乗った。

 港を覆っていた黒い根は、普通に考えると「魔力のこもった剣」でなければとても歯が立たない程固かった。


 

 だが、船に飛び乗ったレイとマーガレットは違った。

 それ自体は魔力を吸い込まず、逆に根と魔力の結合を断ち切る隕鉄の剣。この黒い根にとってこれ以上の天敵はなかった。その鍛冶屋のじいさんの遺言のような剣を振るってレイが太い芯の部分を切ると、マーガレットがすかさず自分の細剣の「魔力」を制御し、細かい成長点を目にもとまらぬ速さで切り、黒い根をどんどん伐採していく。


 クリスティーヌは、ひとり桟橋に残ってガルダ軍が撃ってくる魔力砲の軌道をそらすことに集中していた。


「はぁ、はぁ、あの魔力砲を一つでもあの海域には落とさせないわ。奴らの肥料になんてさせない!」


 一定の頻度で発射される大きな魔力砲は山の上から打ってくるだけあってかなりの大きさで軌道をそらすだけでも大変な作業だった。


「海を守ることは国を守ること。そして私たちの畑を守ることよ!」


 疲労困憊で杖にしがみつきながらも、孤軍奮闘していると、彼らの様子を見ていた港湾警備隊の魔導士たちが三人ほど集まってくる。


「もう、打つ手がないんだ。加勢する」

「!」

「あんたたちのやり方は効いているみたいだ」

「少しでも可能性があるなら協力する!」


 一気に手が四倍に増え、クリスティーヌの負担は軽くなり、一息つくことができた。


 それに気づいたレイは、振り向かないまま隕鉄の剣を振るう手は少しも緩めず、叫ぶ。


「魔力攻撃は肥料だ!いますぐやめるんだ」


 それを聞いた魔導士の一人が拡声の魔道具を使い叫ぶ。


「魔導士に告ぐ。魔力攻撃をやめよ。もう一度言う。直ちに魔力攻撃をやめよ。効果がないどころか、敵に肥料を与えるようなものだ」


「助かったわ、ありがとう」


「こういう実戦の場では最終的には自分の勘を大事にしないと後悔するからな」

 ここにも、自分の頭で考える人たちがいた。クリスティーヌはこんな状況なのに、なぜか嬉しくなった。


 敵方はいくら魔力砲を打っても軌道をそらされるので、少し間隔があくようになってきた。内輪もめでも始まっているのだろうか。


「魔力砲は減ってきたけど、切る方はまだ大変そうね!」

 クリスティーヌが、レイとマーガレットに声をかける。


「大丈夫よ。あなたに転移させてもらったおかげで体力はまだまだあるわ」



        *




 一方、山の上のガルダ軍には動揺が走っていた。


「どうした。準備は万端じゃなかったのか」

「軌道計算はちゃんとしてる筈なのに」


「除草剤を使った奴がいるのか? どんどんアレが枯れていってるぞ」

「用意するだけで港を落とすまで使わない約束じゃなかったのか」


「あれ、除草剤は減ってないぞ」

 情報伝達もうまくいっていない。


「どういうことなんだ!? セレーネ様のおっしゃるとおりにしたんだぞ」

「その通りやれば、必ずうまくいくはずじゃなかったのか!?」


 セレーネの甘い言葉に惑わされ、全面的にセレーネの指示に従っていたガルダ王国の軍隊には、この局面をどう乗り切るのか指示を出せるものはひとりもいなかった。




         *






 魔力攻撃をやめ、敵からの魔力砲による攻撃も一応止んだとはいえ、肥料をあげすぎて肥大化した黒い根をレイとマーガレットの働きで灰にしていく作業はかなりの重労働で、地道な作業だった。


 騎士たちは、ここでも魔力の制御がちゃんとできるものはおらず、成長点を切りつけることもできずにいた。


 剣には魔力を込めて切れと教わってきた剣士たちが、ついつい魔力を込めてしまうのは仕方のないことだった。その剣士の常識をうまく利用したのは相手を褒めるべきかもしれない。


 第三桟橋で疲れて座り込んでいたクリスティーヌが、助けてくれた魔導士たちに「餌を内蔵した氷柱」の作り方を伝授する。魔導士たちはすぐに横展開して、氷柱を何本もたてる。ついでに陸地の魔力も抜いてみた。


 陸地の魔力を抜いたのは思いの外効果があったようで、飢餓状態の黒い根は、一斉に氷柱へと群がって、あっという間に氷柱を飲み込んでしまい、魔導士たちを慌てさせた。


「まずい、予想したより、氷柱が飲み込まれるのが早い......」

「どうする!?」



 黒い根の成長点はどんどん光り始めていた。

 夕暮れとなり、どんどん薄暗くなっていく空と生き物のように蠢き光る不気味な黒い根。皮肉にも幻想的な光景が広がっていく。


 クリスティーヌは疲労困憊した自分を奮い立たせるように気合を入れ直す。

「マーガレット様の卒業試験が始まるまで、なんとか時間を稼がないと。どうすればいい? クリスティーヌ、しっかりするのよ?」

 自問自答しながら、普通では動けないくらいの状態の中気力だけでクリスティーヌが、立ち上がったその時。



 港の入り口の辺りで土煙があがった。


自分も含め3人転移させるのもかなり優秀な魔導士です。

普通は一人がいっぱいいっぱいです。

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